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予想もつかない展開の中で、黒人が虐げられてきた歴史を紐解いた『アンテベラム』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:151/243
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★☆☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【要素】

スリラー
人種差別
黒人奴隷
南北戦争

【元になった出来事や原作・過去作など】

なし

【あらすじ】

奴隷制度を信奉する南軍の旗が掲げられたアメリカ南部のプランテーション。ここに囚われの身となったエデン(ジャネール・モネイ)は、過酷な労働を強いられていた。脱走を試みた者は監視役に殺され、焼却炉で処分される。自由に言葉を発することも禁じられたエデンは、屈辱と恐怖の日々を耐え忍び、脱出のチャンスをうかがっていた。やがてある悲劇をきっかけに、
エデンは奴隷仲間の男性イーライ(トンガイ・キリサ)と共に脱走計画を実行する。

そこから150年後の現代。リベラル派として知られるベストセラー作家のヴェロニカ(ジャネール・モネイ)は、心優しい夫、幼い娘と幸せに暮らしていた。ある日、エリザベス(ジェナ・マローン)と名乗る女性のオンライン取材をこなした彼女は、講演会のために単身ニューオーリンズを訪れる。力強いスピーチで拍手喝采を浴びたヴェロニカは、現地で合流した親友らと高級レストランでのディナーに繰り出す。しかしその行く手には、公私共に順風満帆なヴェロニカを奈落の底へと突き落とす恐ろしい罠が待ち受けていた……。

まったく異なる境遇を生きるエデンとヴェロニカ。果たして、彼女たちを脅かす得体の知れないものの正体とは何なのか。そして、ヴェロニカとエデンが生き延びるために解き明かさなくてはならないものとは……?

【感想】

ゲット・アウト』、『アス』のプロデューサーが放つパラドックス・スリラーです!本当に最後の最後まで「???」で。オチを知ってようやく全貌がわかる映画でした。

<エデンの生きる環境>

そもそも、タイトルの"アンテベラム"とは、ラテン語で「戦前」を意味する言葉で、特にアメリカでは「南北戦争以前」を指すそうですね。その言葉通り、エデンが暮らす時代はまさにそのときで、彼女はプランテーション(大規模農園)で奴隷として扱われていました。奴隷は厳しい管理下に置かれ、自由に話すことすら許されませんし、常に白人の兵士の顔色を窺って生活しています。なお、映画では描かれていませんが、実際には脱走させないために両足を切り落としたり、労働力増加のために黒人女性をレイプして子供を産ませたりと、惨たらしい実態があったそうです。。。

<ヴェロニカの生きる環境>

一方で、ヴェロニカが生活しているのは現代です。彼女は社会的地位もあるベストセラー作家。エデンのいた時代とは大きく異なり、黒人女性でも発言力を持ち、世の中に影響を与えることができます。そんな中、愛する夫と娘を持ち、幸せに華々しく暮らしています。

「時代は変わったな~」と思っていた矢先、差別ではないですが、ちょいちょい少し失礼な扱いを受けるシーンがあるんですよね。もちろん、やった側にそういう意図はなかったかもしれませんけど。それを見て、「いまだに黒人が下に見られてしまう土壌があるのではないか」と僕は感じました。

<黒人が虐げられてきた歴史>

なぜこういうことが起きるんでしょうか。もちろん、学術的には諸説あるんでしょうけど、この映画を観ていると、事の発端は南北戦争時代における黒人の奴隷制度があったからではないかと思うんですよね。当時もリンカーン大統領によって奴隷解放宣言はなされたものの、かといって黒人の地位がすぐに上がったかというとそうじゃないですよね。で、結局、黒人への差別は今日まで続いていますから。「差別はよくない」と至るところで教えられるはずなのに、150年経っても消えやしません。その思想が遺伝子に刻み込まれているんじゃないかと思うぐらいですよ。

この映画は、黒人が虐げられた歴史に再び光を当て、現代までそれが残っているというメッセージを伝えているんですよね。なので、根底はヒューマンドラマっぽいんです。とはいえ、映画としてはあくまでもスリラー。それは、エデンとヴェロニカの関係性ゆえですね。この2人がどうリンクしていくのかっていうのを、あれこれ頭の中で予想しながら観るのが楽しいんです、これ。そこは『ゲット・アウト』と『アス』の流れを汲んでます。まあ、その2作よりも本作の方が社会的意味合いが強いですけど。

<ツッコミどころはある(笑)>

予告はちょっとホラーっぽさありますけど、全然怖くないですよ。「まーたこういう予告にするんだから」って思っちゃいます(笑)下手したら、予告詐欺と言われても仕方ないですね。なので、怖そうで観れないという人は安心してください。ただ、最後のオチまで知って、ようやく面白さがわかる映画なので、そこまで行き着くのにかなり混乱してしまうかもしれませんけど(笑)

でもなあ、個人的に一番気になるところがあるんですよね。これはネタバレしたら終わりのジャンルなので、主語は伏せておきますけど、、、目的は何だったのかってことです。何であんなことをしたのか、作中では一切語られないのでわからず仕舞いなんですけど(映画を観た人なら、何が言いたいかわかるはず。。。)、そこが一番モヤります。もし、この映画を観てわかった人いたら教えてください(笑)

<その他>

それにしても、ハリウッド映画は黒人差別を描いた作品が多いですが、アジア人だってだいぶバカにされてきた歴史があるんじゃないかって思うんですよ。でも、映画で全然見かけないのはなんでですかね。


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