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女性が圧倒的に不利な時代において、強姦された事実を隠すことなく主張し続けた妻の姿が印象に残る『最後の決闘裁判』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:35/217
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★★☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
歴史
中世フランス
貴族社会
強姦事件
決闘
裁判

【あらすじ】

中世フランス。騎士の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫であるカルージュ(マット・デイモン)の旧友ル・グリ(アダム・ドライバー)に乱暴されたと訴えるが、彼は無実を主張し、目撃者もいない。​真実の行方は、夫と被告による生死を賭けた“決闘裁判”に委ねられる。

それは、当事者2人よる一騎打ち。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は命拾いをしても罪人として死罪になる。そして、もしも夫が負ければ、マルグリットまでもが偽証の罪で火あぶりの刑を受けるのだ。

果たして、裁かれるべきは誰なのか?

【感想】

これは女性の方が思うところがありそうな映画かもしれません。強姦被害にあった妻を取り巻く環境が、いろいろ衝撃的なので。。。14世紀の出来事だから、日本で言うと鎌倉時代後期~室町時代初期の頃。まあ、フランスの時代劇といったところでしょうか。実話に基づく話っていうのがすごいですが。

<重要な3人の登場人物>

この映画で肝となるのは以下の3人です。騎士カルージュとその旧友ル・グリ、そしてカルージュの妻であるマルグリット。話はシンプルで、マルグリットがル・グリに強姦されたものの、彼は無罪を主張します。いつまで経っても話が平行線のままなので、"決闘裁判"で決着をつけようということですね。

この映画の面白いところは、3章立てにして、同じエピソードを3人の視点で描いているところです。第1章はカルージュの視点。第2章はル・グリの視点。第3章はマルグリットの視点というように。同じ事象でも、誰の視点かによって全然違ってるのが見どころですね。

例えば、カルージュが領主であるピエール2世(ベン・アフレック)に物申すシーンでは、本人は「怒ることなく冷静に言った」と言いますが、ル・グリの視点で観ると、メチャクチャブチ切れていたり。強姦シーンでは、ル・グリの視点だと、マルグリットは少し抵抗するぐらいなのが、マルグリットの視点だと泣き叫ぶぐらいになっていたり。「ああ、人間の主観ってこうも違うだな」っていうのがよくわかります。

<当時のフランスにおける女性の立場>

で、当時のフランスって現代とは比べ物にならないほどの男社会なんですよ。特に、騎士だの貴族だのっていうコミュニティだと、女性の発言権なんてほぼなさそうな雰囲気です。「強姦された」なんてわめけば、家名にも傷がつくし、事を荒立てることで被るデメリットの方が大きい。

その中で、実際に起こったことを勇気を振り絞って語るマルグリットの姿は、他の女性と一線を画しています。ただ、当時は科学的捜査なんてできなければ、もちろん防犯カメラもありません。あくまでも、「本人たちの証言」しか事件を裏付けるものがない状況です。

しかも、昔は女性は子供を産んで当たり前、それが妻の義務ぐらいの考えです。かつ、オーガズムに達しないと妊娠しないっていうのが常識だったようで。なので、マルグリットに対する審問のシーンがえげつないんですよ。カルージュと結婚して5年、子供ができる気配がなかった彼女。それが、強姦されて半年後に、妊娠6ヶ月ということが判明。「あなたはル・グリと交わることで頂点に達したのではないですか?」、「夫と性交して歓びはありましたか?」というような、今だったら完全にアウトな質問が、多くの人が見守る中、おっさん共から浴びせられるんですよ。これは観ている方もいたたまれない気持ちになりました。。。結局、マルグリットは一貫して強姦された事実を主張し続け、ル・グリは否定を繰り返します。もちろん、肯定なんて絶対しないとは思いますけどね。

<決闘裁判とは>

そこで出てきたのが、カルージュから提案された"決闘裁判"。これはカルージュとル・グリが一騎打ちをして、勝った方の言い分が認められるというものです。負けた方の主張は偽証となり、当然命を落とすことになります。この決闘は生死をもってしか勝敗が決まらないので。しかも、カルージュが負けた場合、その妻は服を脱がされ、丸裸にされた挙句、柱にくくりつけられ、焼き殺されてしまうんですよね。

勝負の行方は映画を観ていただくとして、このクソシステム何なんだよなって思いました。見方によっては、正しい主張が認められない側の最後の切り札にはなりえます。でも、逆に言えば、腕っぷしの強い人なら、事実と反することでも正解にできるってことにもなりかねませんよね。まあ、実際の運用はもう少し考えられていたとは思うものの、これがまかり通っていた当時のフランスの怖さといったら。。。

<マルグリットの屈しない姿勢に脱帽>

この映画は、強姦被害を訴える妻と、名誉のために決闘を申し出る夫と、無罪を主張し続ける容疑者の3者の人間ドラマがあるのが見どころだと思います。の中でもやっぱりマルグリットが一番印象に残りますね。圧倒的に不利な女性という立場の中、臆することなく強姦の事実を主張し続けたので。きっと、マルグリットと同じように、強姦されながらも泣き寝入りした人は、実際にたくさんいたんだと思います。でも、彼女は他の人と足並みを揃えたり、ましてや世間体なんかを気にして、事実を公表しないことをよしとしませんでした。もちろん、まわりの目が気にならなかったわけではないと思いますが、決して隠さず嘘をつかず、淡々と事実を述べる彼女の姿は、当時としてはかなり異質に見えたかもしれませんね。

<その他>

もうひとつ、この映画を観て思ったのが、「長いものには巻かれろ」ってことです。ル・グリはアランソン伯ピエール2世と仲がよかったがゆえに、出世もするし、裁判でも有利になるしで、カルージュとの差が大きく開いていきました。人間社会って700年経っても大して変わってないんだなって思ったところです(笑)


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