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消せない想い

 郵便受けを開けると、少し厚い封筒が入っていた。社会人になって3年、少しずつ友達が結婚するようになっていたので、封筒が招待状だという事はすぐにわかった。

 ただ誰だろうと思った。最近結婚するなんて話をしている友達がいたかな、と思いながら私は裏の差出人を確認した。そしてそこに書いてある名前を見た時、私の胸は掻き乱れた。

 そこには私の初恋の人の名前があった。

 私は彼女をずっと好きだった。初めて彼女に会ったのは中学校だ。入学式のあと教室の自分の席の隣に座っていたのが彼女だった。

 彼女は学年でも噂になるくらい美人たった。そして彼女は私を好いてくれていた。私に話しかけてくれたり、当時流行っていたミサンガという毛糸で作った腕輪もプレゼントしてもらった。当時私の中学校ではそれは告白と同じ意味だった。

 それを見て周囲の人間は私達を揶揄ってきた。今にして思えばそれはどこにでもある、誰でも体験する、子どものちょっとした悪戯なんだと思う。

 しかし当時の私は揶揄われた事で変に彼女を意識してしまい、彼女に話しかけられると顔が赤くなり息が荒くなるようになった。動悸がはげしくなったり汗も出た。そんな私を周りが更にからかった。周りから見られていると思い込むと、彼女に話しかけられた時に恥ずかしさを強く感じるようになった。

 私は彼女を無視するようになった。

 始めは戸惑っていた彼女はやがて私に笑顔を向けなくなった。そして話しかけなくなった。そのまま席替えがあり、学年が変わりクラスも変わった。しばらくして彼女は他の人と付き合った。彼女が他の人と付き合うことになった時、私に最後に話しかけて教えてきてくれた。私はその時も彼女を無視した。

 当時の私にはどうしていいのかわからなかったのだ。

 今ならはっきりわかる。私は彼女が好きだったのだ。それは私の初恋だったのだ。そしてその想いは今でも続いている。同窓会で久しぶりに彼女を見た時、改めてそう思った。けれど今日まで私は一度も気持ちを伝える事ができなかった。言い出せなかった。それが今日まで続いてしまった。

 なぜ私はたった一度の人生、こんなに想い続けた人に、せめて自分の気持ちを伝えなかったのだろう。できなかったのだろう。

 私は昔から、心の中でどうしても置き所が見つからない気持ちを抱えると夜の街を歩く。皆が寝静まった深夜、特に少し肌寒さを感じながら外を徘徊するのが好きだ。

 そうすると遠い過去に懐かしさを感じるような、得られなかったものがまだ得られる可能性が残っているような、失われたものがまだ失われずここにあるような、心惹かれ思いを馳せた恋しい時間の中に戻れるような、そんな気持ちになれるのだ。

 あの頃に戻って、あの頃の私になって、あの頃の君に会いたい。

 


 

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