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友人のダメ彼氏のおかげで繋がった私のクビ

ハワイで、某ブランドのセールススタッフとして働いていたとある日のこと。

この日は、閉店の23時を過ぎても店内にお客様がいるくらい、とても忙しかった。

私が働いていた店舗では、閉店後、23時45分までに他支店の方へ売り上げ金と店の鍵を持って行かなくてはならなかった。
しかし、閉店が遅くなり慌てていたため、クレジットカード決済の集計や現金のカウントが何度やっても合わない。
ようやく店を出られた時にはすでに23時半。
夜中まで観光客で溢れかえるワイキキを全速力で走った。

しかし、他支店はすでに真っ暗。
なんと、間に合わなかったのだ。

この売り上げ金と鍵運びは重要な仕事で、温和なアメリカ人のマネージャーですら、『これが間に合わないと、ちょっと怒るよ。』と言っていた。
初めてミスをした。
落ち込みながら、売り上げ金と鍵を持って帰宅した。

翌日は休みだったが、朝一で売り上げ金と鍵を持って行かなければならない。昨夜、片付けもろくにせず店を飛び出したのも気がかりだった。開店シフトのスタッフが来る前に片付けようと思い、6時起きで店へ行った。だが、店に入ろうとした瞬間、なぜかバッグの中に鍵がないことに気が付いた。
絶対入れたはずなのに。

ハワイの朝は、爽やかに散歩やジョギングを楽しむ人たち、ビーチへ向かう人たちが笑顔で行き交っている。そんな幸せそうな人々を沈んだ気持ちで眺めながら、店の前に立ち開店シフトのスタッフを待った。

店の片付けが終わった後、開店と同時に売り上げ金を他支店へ持って行った。あとは鍵を探すのみである。きっと家にあるに違いない。そう信じて帰宅した。

しかし…  家にも、鍵がないのである。

昨日使ったバッグを、今日はそのまま持って行ったのだ。中身は触っていない。ないはずがない。しかし、バッグの中に入れていた手帳の隙間、財布の中、内ポケットも全て調べ、バッグをひっくり返しても、やはり出てこない。

どこかに落としたのだろうか…。店の鍵を失くすなんて、間違いなくクビだろう。ひっくり返したバッグの横に、私もひっくり返った。その時ふと、バッグの内ポケットが目に入った。

それを見た瞬間、日本にいる友人のダメ彼氏のことが思い浮かんだ。

彼は友人に何度もお金を無心し、ギャンブルや酒につぎ込んでいた。
耐えかねた友人が返済を求めたところ、彼は、自らハサミで切ったジーンズのポケットをひっくり返して見せ、
『いや~俺のポケット穴開いてて、金落としたわ〜!』
と言い放った、という話を思い出したのだ。

すぐに飛び起き、まさかね…と思いつつも、ポケットを探ってみると…

あった…! 穴だ…!

すぐに裏地とバッグ本体の間を調べた。

あった…!! 

鍵が、あった…!!!!!

涙が出た。本当にクビを覚悟していたのだ。
その後、無事に鍵を返却して事なきを得た。

友人の彼氏は本当にダメ彼氏で、彼女はいつも泣かされていた。そして海を越え、私は違う意味で彼に泣かされた。
友人にすぐに感謝のメールを送ると、”あんな男でも役に立って良かったわ”、と、すぐに返事がきた。

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