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ブランドへの愛が暴発したローカルのおばちゃん〜これがブランディングだ!〜

ハワイの某ブランドのセールススタッフとして働いていた時の話だ。
(複数のアパレルブランドで勤務していたが、今回はアメリカ発の、ナイロン素材で有名なブランドの話である。)

ある日、60歳前後くらいのローカルのおばちゃんが来店した。
彼女は体が不自由で、電動車椅子に乗っていた。
当時、大人気で完売が続出していたシリーズをコレクションしており、2週間ほど前に来店した際、ハンドバッグを何種類も膝の上に乗せて真剣に選んでいたので記憶に残っていた。

今回はそのシリーズの小物を見に来たと言い、ポーチや財布などを見ていた。

しばらくして、
「Excuse me, how much is this?(すいません、これはおいくら?)」
と聞かれた。

おばちゃんは、ポーチを手に持っていた。
通常、ポーチは18ドル(約2500円)ほどなのだが、そのシリーズのポーチは46ドル(6400円)だった。

それを伝えると、おばちゃんは突然、爆発した。

「Why is this big bag I have $68, but this small one is $46? Isn’t it crazy?(なんで私が持ってるこの大きいバッグが68ドルなのに、こんな小さいのが46ドルなのよ!ちょっとおかしいんじゃない?!)」

キレている。来店5分でキレている。

なんとか落ち着かせようと、このシリーズは装飾が凝っていることや、有名なデザイナーとのコラボレーションであるため定番の物より高額であることを丁寧に説明した。

彼女は納得し、その46ドルのポーチをレジへ持って来たのだが、爆発は止まらない。斜めがけしているショルダーバッグと、電動車椅子に荷物入れとしてぶら下げているトートバッグを指差し、

「I bought this for $100 and this one for $68.  I’m wasting hundreds of dollars on a piece of nylon with a pattern printed on it.  Neither leather nor cloth, just nylon!!!(私はこれを100ドルで、こっちは68ドルで買ったのよ!何100ドルっていう大金を、このたかがナイロンに柄が印刷されただけのシロモノに費やしてんのよ!この、革でも布でもない、たかがナイロンによ!!!)」

と叫ぶ。

え?買うの?買わないの?好きなの?ディスってるの?
私は内心混乱しつつ、

「Yes, exactly, this is just nylon.  That’s true.(そうだねナイロンだね、間違いないよ。)」

と肯定した。そう、なにせナイロン素材が売りなのである。
しかし彼女はどんどん熱くなっていった。

「I like this brand, so if it's $68, I'll buy it, and if it's $100, I'll buy it.  But you guys are getting carried away to charge $46 for something that small, even though the customer will buy it at the asking price.  You should respect the customer more!(私はこのブランドが好きだから68ドルと言われればお金を出すし、100ドルと言われても出すわよ。でも、いくら客が言い値で買うからと言ってこんな小さな物に46ドルの値段を付けるなんて、あんた達は調子に乗っている!もっと客を尊重しなさい!)」

「 I understood..  but I’m just a sales accociate, I can’t do anything…(分かりました… でも私は販売員なので、どうすることもできません…。)」

「 Someone have to say it! Someone have to make them aware!(誰かが言わなきゃいけないのよ! 気付かせなきゃいけないのよ!)」

「・・・・。」

「 I’ll take this anyway.(とりあえず、これいただくわ。)」

と、46ドルのポーチを購入し、電動車椅子でウィーーーーーン…  と、静かに去って行った。

おばちゃんは怒り狂っていたが、ブランドへの愛に満ち溢れていた。愛だ、愛ゆえの鞭だ。ブランドは、彼女のような人達に愛されることによってブランドになっていく。それがブランディングだ。

お買い上げいただき、誠にありがとうございました。


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