最後の日のこと
最後の日はあっけなく終わった。
何かを期待していた訳でもなかったのだが。
何を最後の日と言うのかは人それぞれだ。
小中高、さらには大学の卒業式。
体育系のクラブ活動なら3年生の最後の試合。
恋人との最後の夜。
独身最後の日。
プロジェクトが目標を達成した日。
あるいは道半ばで挫折した日。
誰も経験したことのない地球最後の日。
私も一通りの最後を経験している(地球最後の日以外は)。
しかし今回初めて経験したのは最後の出勤日だ。
大学を卒業して36年間勤め続けた。
ドラマなどでは花束をかかえて仲間から拍手で見送られたりというシーンがよくある。
私の職場はシフト制でしかも24時間稼働なのでそんなシーンもない。
しかもコロナの関係で送別会もない。
パソコンで退勤の登録をするとお疲れさまでしたと音声が流れる。
それを聞きつけて数人が走りよってきた。
口々にお別れとねぎらいの挨拶。
幾ばくかの餞別を手渡される。
人並みにこみあげるものもあるが、必死にこらえる。
俺にはこれからの人生があるんだ。
背中にそんなに思いを漂わせながら(つもり)職場を後にした。
しばらくは借りてもらっている単身赴任者用の寮に戻る。
ご苦労様と離れて暮らす妻に言う。
もちろん妻はそんなこと信用しないだろうが。
滅多に飲まない缶ビールを飲んだ。
寝る前に明日のシフトを確認して一人苦笑する。
iPhoneに登録したアラームを解除した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?