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『自己紹介草 2作目』 # 毎週ショートショートnote

「こんにちは」
その草は挨拶した。
道端の名前も知らない草だ。
「いきなり、なんだ」
「草が挨拶しないとでも? 」
「最近の草はしゃべるのか」
「私たちがしゃべりだしたと言うよりも…」
草は少し考える仕草をした。いや、草に仕草など…仕草という字を思い浮かべて嫌な感じがした。
「むしろ、あなたたちが私たちに波長を合わせてきたのですよ」
「聞いてない」
「あなたたちだってね、膝から下を土に埋めて一年も暮らしてごらんなさい。立派な根が生えてきますよ」
「根が、生えるだと。とんだお笑い草だ」
「あははは、お笑い草ね。あはは」
女性が通り過ぎるのを待って、また話し続けた。
「まあ、心配しなくても、こうなりますよ。あなたたちも」
「何だと」
「だって、水と光だけで生きていけるなんて、素晴らしいでしょ。これ、ビジネスになりますよ。あなたも雑草のような人生を、なんてね」
思わず、確かにと言いかけた。
「あ、申し遅れました。私は…」
そいつは自己紹介を始めた。


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