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普通の男の普通の一生〜映画「オットーという男」

今年のアカデミー賞は、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞をはじめ7冠に輝いた。
ほぼ予想通りの結果というところだろう。
今年はビンタもなく、発表の間違いもなく、無事に終わったようだ。

そんな喧騒をよそに、昨日、静かな映画を観てきた。
「オットーという男」

オットーは普通の男である。
少し前に妻を亡くし、職場では、かつての部下を上司と仰ぐようになり、そこそこの退職金をもらって引退して、毎朝、近所をパトロールしながら、ゴミの出し方に愚痴を、駐車の仕方のなっていない人には説教を繰り返し、私道に宅配の車が入ってきても注意をする、そして、ひょんなことから野良猫を飼うはめになった、そんな、どこにでもいる普通の男である。

この普通の男が、少し不機嫌なのには事情がある。
早く命を絶って妻の元に行きたいのだ。
しかし、向かいに引っ越してきた夫婦と2人の幼い娘、特に底抜けに前向きな妻、そして、近隣の人たちとのつながりが、オットーの不機嫌の鍵を少しずつこじ開けて行く。

これは、少し悲劇を抱えて、心を閉ざしがちな、何の変哲もない、時に涙を誘い、見るものの心に何かを残す、そんな男の一生の物語だ。

こんな男は、日本では老害、暴走老人と呼ばれるのかもしれない。
そんな老人でも、ひとりひとりを見つめてみれば、それぞれの物語が潜んでいる。

主演はトム・ハンクス。
青年時代の役には、息子のトルーマン・ハンクス。
2015年にスウェーデンで作られた「幸せなひとりぼっち」のリメイク版。
こちらも見たが、今作はハリウッドらしくブラッシュアップされている。

映画の後、同じモール内にあるスターバックスに落ち着いてスマートフォンを開くと、大江健三郎の訃報が流れていた。
ご冥福をお祈りします。

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