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『接骨院』

ここでっか。
ここは何屋かと、そう言わはるんですな。
そうですな。
おたくらみたいなぼんぼんにはわかりまへん。
わてら庶民のことなんか、わかるもんでっか。
おたくらみたいにええとこで生まれはった人の来るとこやおまへん。
おたくらは、上等な心を持ったはります。
太うて、柔らこうて、ほら、よう光ってまんがな。
少々のことでは、壊れまへんやろ。
そやけどな、わてら庶民の心はよう折れるんですわ。
風が吹いてはポキ。
雨が降ってはポキ。
地面が揺れてはポキ。
誰かとぶつかってはポキ。
ちょっとしたことで、もう、ポキポキ言うてすぐに折れよる。
折れた心で表歩いてたら、ろくなことおまへん。
折れた心ちゅうのは、人の心まで折りたがります。
人間ちゅうのは不思議なもんですな。
自分の心が折れたらさっさと治したらええのに、それはほっといて人を道連れにしたがります。
何でですかって?
わかりまへん。
それに、その折れた心につけ込んでひと儲けたくらむ輩も出てきます。
自分も心が折れたふりして、近づいて来よる。
「ほらほら見てください、僕の心もこんなになっちゃってるんです、お互い助け合いましょうよ」
騙されたらあきまへん。
ほんまに折れた心っちゅうのは、人に見せるようなもんやおまへん。
弱いもんを助けるのに、自分まで弱いもんのふりすることはありまへん。
ほんまに助けたかったら、弱いもんは弱いもんのままで、強いもんは強いもんのままで助けたらええんですわ。
強いもんが弱いもんのふりし始めたら、要注意です。
気いつけなあきません。
いやいや、おたくのことちゃいまっせ。
おたくは、どうみてもええ人や。
それで、ここは何屋か、でしたな。
すんません、こっちばっかりしゃべってしもて。
ここは、そんな折れた心の接骨院ですわ。
看板なんか、あらしまへん。
そんなん出さんでも、必要な人はここに辿り着きます。
儲かりまっかいな。
ぼちぼちですわ。
そやけど、一回折れたとこは癖になりますからな、気いつけんと。

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