『目の中にいる』
ええ、いるんですよ。
目の中にいるんですよ。
誰かは知りません。
よく見てくださいよ。
ほら、いるでしょう。
目の中に。
いやいや、そうじゃないんです。
わからないかな。
目の中にいるって言ってるじゃないですか。
ああ、僕の言い方がまずかったですね。
そりゃそうです。
先生が誤解するのも当然だ。
ごめんなさい。
僕の目の中じゃないんです。
僕が、誰かの目の中にいるんですよ。
気がつくと、誰かの目の中の黒い点になっているんです。
そいつの目の中の黒い点になって、眼球と一緒にコロコロ動くんです。
もう目が回りそうで。
ああ、なんか変ですよね。
人の目に貼り付いて、目が回るなんて。
ある時なんか、そいつが眼科に行っちゃってね。
いや、先生のところじゃないです。
もっとインチキな医者ですよ、あれは。
レーザーで取り除きましょうなんて言い出して。
焦りましたよ、あの時は。
これって、病気ですよね。
いやいや、そいつじゃなくて、僕がですよ。
何ですって。
違う科に診てもらった方がいいと。
わかります。
わかりますよ。
こんな話、僕だって信じられないですよ。
あっ。
今、先生の視界の隅っこに小さな蠅みたいなのがくっついたでしょう。
それ、僕なんです。
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