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『噛ませ犬ごはん』 # 毎週ショートショートnote

俺の噛ませ犬人生ももう終わりだ。
ケガから復帰したチャンピオンとのノンタイトル戦。
防衛戦に向けての前哨戦のつもりだろうが、そうはいかない。
俺は今日、ロッキーのように景子の名前を叫ぶのだ。

俺のあだ名は「噛ませ犬のケン」
故障から復帰したチャンピオンや、タイトルに挑戦する若手の引き立て役。
俺も満足していた。
だが、景子と出会って、俺は初めて勝ちたいと思った。
噛ませ犬だって牙をむく。
俺はリングに駆け上がった。

俺が目覚めたのは、景子の部屋だった。
「よかった。あたし仕事に行くから、ゆっくり休んでね」
「なあ、俺…」
「うん、しっかり牙むいてたよ。倒れてから、ケン、あたしの名前をうわごとみたいに…恥ずかしかったけどね」

牙か。
俺は自分の歯を触ってみた。
そんなものはない。
そうだ、景子にごはん作っておいてやろう。
そして、思いついた。
いつか2人で開く店の名前。
「噛ませ犬ごはん」
時々牙をむいては負けてくる、世間の噛ませ犬に食わせるめし屋だ。

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