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『いのち喰い 2』 # シロクマ文芸部

平和とは何か?
この俺に聞くのか。
では、逆にお前に聞こう。
幽霊はいるのか。
あの世はあるのか。
そんなものがあると言うやつの理論はいつもこうだ。
幽霊はいない、あの世はないと言っても、ないことが証明できなければ、あるかもしれないじゃないか、とな。
お前たちの平和も同じだ。
同じ理屈をこねれば、あるかもしれない。
そんな程度のものだ。
平和とは何か?
答えはこうだ。
そんなものは、幽霊と同じだ。

戦争なら、あるぞ。
今も、ドンパチやってる。
お前も知っているだろう。
あそこでも、あそこでも。
見えるぞ、戦争が見えるぞ。
では、平和はどこにある。
俺には見えない。
お前には見えるのか。
そうだろう、見えるもんか。

戦争がなければ平和だと?
ほんとうにそうか。
我が子を殺し、友人を殺し、時に自ら命を断ち、若者は老人を嫌悪し、老人は若者を蔑み、それでも、お前は、戦争がなくて平和だと呑気に笑えるのか。
誰かが飢え死にしていくその横で、高い弁当の半分を食べ残して、ああ、戦争がないなんて、なんて平和なんだと深呼吸できるのか。

どうだ、平和なんてどこにある。
どこにもあるはずのない平和を求めて、またお前たちは戦争を繰り返すのだ。


俺か?
ああ、そろそろ教えてやろう。
俺は、いのち喰いと呼ばれている。
勘違いするな。
俺は殺したりはしない。
お前たち人間の、全うしなかった命を喰っているのだ。
自殺ばかりじゃないぞ。
戦争もそうだ。
犠牲者だと?
それは、お前たちの言い分だ。
人が人の命を断つことに変わりはないからな。
俺にすれば同じことだ。
被害者だ、加害者だと、そんなことはお前たちで解決してくれ。
俺の知ったことか。

この世に戦争がある限り、お前たちが命を断つ限り、俺は生きながらえるのさ。
さあ、平和などと幽霊を追いかけてないで、お前も戦ってこい。
心配するな、お前の命も喰ってやる。

ふん、言い当ててやろうか。
この俺に、そんなことを聞くくらいだから、本当は、平和なんてあきらめているんだろう。
いい心がけだ。
あきらめろ、あきらめろ。
平和なんて、ありはしないさ。
あるのは、犠牲者ばかりだ。
お前たちが、もう何もしないのはいい傾向だ。
お前たちは、平和、平和と口にするくせに、何も行動はしない。
戦争はだめだと言いながら、それを止めようともしない。
お前たちは、もう信じることもない。
そうして、あとは俺に喰われるのを待つばかりだ。
犠牲者となってな。

だが、いのち喰いにも情けはある。
お前が戦禍に倒れる前に教えてやろう。
お前たちは、行動することを、取り違えている。
何も、集まって大声を上げるだけが行動ではない。
戦車の前に立ち塞がるだけが行動ではない。
言葉にすることも、立派な行動なのだ。
しているじゃないかって?
お前のしていることは、言葉を吐き捨てているだけだ。
言葉などと言うとは、誰かに確実に伝えてなんぼのものだ。
隣の人間に伝えて、それがまたその隣に伝えて、そうしていけば、いつか大きな輪になれるかもしれない。
もちろん、隣に誰もいないときもある。
そんな時は、書き記しておけばいい。
いつか、誰かに伝わるように、そこに置いておくのだ。

だからと言って、それが平和かどうかはわからない。
手を繋いだ、その下で蹴り合えるのがお前たち人間だからな。
何度も言うが、平和なんてものは幽霊みたいなもんだ。
その幽霊を、懲りもせずに追いかけている奴もいるが、騙されるんじゃないぞ。
お前は、そんな奴らの仲間入りをするな。
平和を疑って、あきらめて、絶望して、さっさと俺にその命を喰わせてくれ。
おい、何をしている。
そんなところに何を書いている。
まあ、いいだろう。
俺は、お前の夢まで喰いはしないさ。


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