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『大増殖天使のキス』 # 毎週ショートショートnote

彼と出会ったのは大学生の時。
社会人になっても付き合いは続いて、それから3年ほどで結婚した。
仕事は続けていたが、子供ができれば退職するつもりだった。
その頃はまだ育休などという制度はない。

ところが、私が退職する日は一向に訪れる気配はなかった。
子供はまだか。
孫はいつ抱ける。
平気で聞かれる時代。
彼は、
「2人で楽しもう。DINKSだよ、流行りの」
その気になって諦めていた頃、無事に退職した。

娘が3つくらいの時、彼が娘にキスをせがんでいた。
娘も面白がって頬やおでこにキスをする。
「やったー、天使のキスがいっぱいだあー」
彼は寝転んで目を閉じている。
私もそっとキスをした。
「あ、今のは魔女のキスだな」
私は彼を笑いながら叩いた。
彼も娘も笑った。
そんな日を思い出す。
薄れゆく意識の中で。

あなた、もうすぐ魔女もそちらに行きますからね。
大きくなった天使もそばで見送ってくれています。
もうひとりの小さな天使もね。
こっちには天使がいっぱいですよ。




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