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能力主義と年功序列

能力主義が少子化対策に貢献する。
こんな意見がある。
若い人でも能力が正当に評価されて給与が上がれば生活が安定し、それが未婚率の解消、ひいては少子化対策にもつながる、簡単に言うとこう言うことだろう。
ここでいう能力主義とは、細かく言うと、成果主義、成績主義だ。
つまり、在籍年数や年齢に関係なく、本人の出した成果によって報酬を支払うというもの。

そもそも日本に能力主義は根付くのだろうか。
「能力のある人はどんどん評価するけれども、能力のない人もずっと働いてもらいますよ」と言うのは、飼い殺しと同じだ。
くどいが、この能力は、成果、成績だ。
人には適材適所があるように、適材適社もあるだろう。
この会社に合わないと思えば、さっと見切りをつけて次の会社で挑戦できる体制。
最近は、中途採用も増えてはいるが、まだまだだと言わざるを得ない。
海外では、いきなり部長職を求むなどの求人があるらしいが、日本では、あるとしてもごく少数だろう。
ともかく、少なくとも企業が本気で能力主義を取り入れるつもりならば、少なくとも毎年一斉の新卒採用はやめるべきだ。
そして、あのさも皆さんの一生をお預かりしましたと約束するような入社式も中止するべきだ。
終身雇用の能力主義。
こんなに残酷なことはない。

とはいえ、企業だってかわいそうだ。
今の日本では、そう簡単に社員を辞めさせるわけにはいかない。
これが労働者を守っているわけでもあるが、社会の流動化を阻んでもいる。

この中途半端な能力主義が、むしろ若者の不安を煽っているのではないか。
「あなたの能力を平等に評価します」と言ったって、どんな会社でもその恩恵を受けられるのはごく一部の人間だ。
やる気はあるけれども自信のない若者は、むしろそんな社会、あるいは会社に飛び込んでいくのを躊躇してしまうのではないか。

今や老害とともに否定の最前線に立たされている年功序列と終身雇用。
しかし、年功序列と言ったって、みんながみんな同時に課長、部長になれるわけはない。
同期の中でも、自然に差がつくのは当たり前だ。
僕の実感で言うと、大体前後3年ずつくらい、自分を真ん中にして6年くらいの間では、肩書きに差がついていく。
それくらいの間なら、後輩が上に立つこともある。
それでも不貞腐れずに頑張っていれば、次の人事異動で巻き返すことも可能だった。

つまり年功序列とは言え、何もしなくても順番に上がっていけますよと言うほど、会社は以前から甘くはなかった。
年功序列にもそれなりに競争はあり、しかし頑張り甲斐もあったのだ。
つまり、安定と競争と承認欲求をバランスよく叶えていたのが、年功序列であり、終身雇用であったのではないか。
ずるいと言えば、そうかもしれないが。

確かに、この高齢化社会では、高齢の社員が上層に居座って、次の者にポストが行き渡らないという実態はあるのかもしれない。
しかし、それは年金の支給を遅らせ、定年を引き延ばさせてきた政府の責任ではないのだろうか。
僕が社会に出た頃は、55歳定年が普通だった。
それが今や65歳だ。
定年が10年も伸びて、その間に高齢者はどんどん増え続けている。
しかも政府は、まだまだ働けと言っている。
そりゃ、何をしても若い社員のポストはなくなるわけだ。
どう考えても、制度の問題ではなく、政策の問題のような気がする。

もちろん、年功序列では、新卒1年目の社員が部長を超える給料を得るなんてことはない。
肩書きなんていらない、とにかく高い給料が欲しいという人には、年功序列は向かない制度だ。
もちろん、そんな自信満々の人の望みも叶えていく必要はあるだろうが、そんな人が果たしてどれくらいいるのだろうか。
そんな一部の人のために制度を変えるのは、なんだか、タワーマンションの最上階に住む人をみんなで支えましょう、みたいで、正しいこととは思えない。

古い制度が上手く回らなくなってきたからと言って、全てを否定しまうのはどうなのか。
それは機会が故障したからと言って、なんでも新品に変えてしまうのと似ている。
それよりも、使える間は修理しながら大切に使うことも必要ではないだろうか。
そして、これは本当にもう使えないとなれば、新しい物を買えばいいのだ。

どちらがいいとか悪いではない。
もう一度落ち着いて、考えてみた方がいいと思うだけだ。
サラリーマンからリタイヤして清掃員として働く僕には、どちらでもいいのだけれども。

それと、少子化は、こんな問題とは違うところにあるような気がする。
なんでも少子化対策に結びつけて、人の口を封じるようなことはよくないと思う。
でも、それを言うとハラスメントになる。
少子化対策が進まないのは、そんなところにもある。
ハラスメントの壁に阻まれて、なかなか核心をつけない。
社会は、熟れすぎた桃の皮に包まれてしまっている。

ここまで読んでいただいてあれだけれども、これは何のエビデンスもなく、僕の思いつきと肌感覚だけで書いている。
当たっているかもしれないし、間違っているかもしれない。
知らんけど。

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