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『懐かしい街』 # シロクマ文芸部

懐かしいとおっしゃいましたか。
懐かしいと。
何故でしょう。
あなたは、この街並みを見て懐かしいとおっしゃった。
でも、不思議じゃありませんか。
あなたは、この街に一度も住んだことがない。
いや、足を踏み入れたことさえない。
それなのに、そんなあなたが懐かしいなどと。

もしかして、あなたのお父さんとかお母さんはどうですか。
そのお話を、幼い頃にあなたが聞いていたとか。
え、そうですか。
あり得ないのですね。
ご両親とは、幼い頃に、そうですか。

もちろん懐かしいと思うのは、過去の実際の経験だけではないかもしれません。
自分たちが生まれるずっと前の光景に、何故か懐かしさを感じることがありますよね。
知りもしないのに。
そうそう、セピア色の写真とか。
ひとりひとりは違っても、どこかで記憶が繋がっているのでは、そんなことを考えたくもなります。
だから、本当は不思議でもなんでもないのかもしれない。
あなたが、初めてのこの街に懐かしさを覚えたとしても。

いや、そうだ、それなら、こんなことも言えますよ。
未来だ。
未来のいつか、あなたはこの街に関わることになるのです。
あなた自身が暮らすのかもしれない。
この街に好きな人ができるのかもしれない。
あなたの子供か、あるいは孫を訪ねてあなたがこの街にやってくることだってありうる。
そして、この街を懐かしいと、今思う。
知らない過去を懐かしいと思うのなら、知らない未来を懐かしいと思ったって、少しも不思議ではありません。

失礼しました。
どうぞ、ごゆっくりこの街を楽しんでください。
あなたのことは存じ上げませんが、いつかお知り合いになりそうな気がしたものですからね。
それなら、さっさと声をかけてしまおうと思ったまでですよ。
ほら、なんだかお互いに懐かしくなってきたじゃないですか。
旧友って言うんですか。
初対面の旧友だなんて。
よければ、ご一緒しましょうか。

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