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『閏年が無くなる』 # シロクマ文芸部

閏年はやがて無くなります。
そう学者たちが言い出してから、もうどれくらいになるだろうか。
たしかに、その少しあとから、それまで4年に1回だった閏年が、5年に1回になり、6年に1回になり、今では21年に1回となった。
これが、人の寿命よりも長い周期になれば、閏年を知らずに一生を終える人も出てくるわけだ。
確かに天体現象には、そのように長い周期のものもある。
なんでも、金環皆既日食などは、480年に1回の周期だとか。
こうなると、人類のほとんどが体験できないわけで、もはやそんなものはないと言っても誰も疑わないだろう。
笑っている場合ではない。
閏年だって、いつそうなるかわからない。
いや、この調子でいくと、いつか必ずそうなるのだ。
そして、その周期が地球の存続よりも長くなればどうなる。
ほら、学者たちの言い分もあながち出鱈目ではなくなってくる。

しかし、とあなたは反論するしれない。
日蝕や月蝕は天体現象だ。
人類の力でそれを動かすことなど不可能だ。
もしそこに何か異変が生じたとしても、それは、我々のあずかり知らない、この宇宙のはるか遠い遠いところで発生した何かの影響だろう。
それに引き換え、閏年は天体現象ではないぞと、あなたは言うだろう。
その通りだ。
いや、むしろそうだからこそ、その周期は年々、刻々と延びているのだ。

元々、閏年は毎年のことだった。
毎年やってくるものを、閏年といっていたのかどうかはわからないが。
生物が地球に恵みをもたらしてくれる、そのお礼にと地球が1日の命を生物に与えてくれていた。
人間が誕生してしばらくすると、地球にもたらせる恵みが減ってきた。
どうも、人間というやつは、他の生物に比べて、与えるよりも奪うほうが多いようだ。
当然、地球からのお返しも少なくなる。
それでも、しばらくは4年に1日のペースで、地球は命を余分に与えてくれていた。
だが、2000年を過ぎたあたりから、人間を含めた生物からの恵みが極端に少なくなってきた。
特に人間は、恵みをもたらすどころか、地球を消費し始めた、いや、さらに悪いことには他の生物さえも抹殺し始めたのだ。
それが、閏年の周期が年々延びている原因だという。
地球が我々に与える命が足りなくなっている。
であれば、閏年が無くなってしまうというのも、うなづけなくはない。
そして、最新の説によると、もし閏年が無くなってしまうと、次は我々が毎年1日ずつ地球に命を返さなくてはならないらしい。

いや、そんなに深刻な顔をしないで欲しい。
少なくとも、我々が生きている間は大丈夫だ。
中には、さも心配そうな顔をして話しかけてくる奴がいるが、そんな奴は、これで一儲け企んでいる奴に違いない。
人間なんてのは、自分の死んだ後のことなんて、考えられないんだから。

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