『月のひとしずく』 # シロクマ文芸部

月めくり、ですか。
ええ、私です。
確かに、いい名前です。
あなたたちは、昔からセンスがいい。
もちろん、自分でそんなこと名乗りませんよ。
あなたたちが呼び始めたのです。
私を、月めくりと。

と言っても、今や伝説になってしまいました。
昔の人は、信じてくれたのですよ。
月が丸くなったり、細くなったり、時には見えなくなったり、それは、月めくりが月をめくっているからだと。
そして、ひどいことに、子供たちには、早く寝ないと月めくりにめくられちゃうぞって、おどしたりして。
そんなことは、しませんよ。

でもね、今では信じている人は誰もいない。
あなただってそうでしょう。
今でも私が月をめくっているなんて、まさか、そんなことを本気で思っているわけがない。
地球と月と太陽の関係で、月は満ちたり欠けたりする。
そう思っているんでしょう。
いや、思うどころか、真実だ。
と、習いましたよね。
いえいえ、いいんです、いいんです。
今さら、私が出しゃばっても仕方がない。

でもね、たとえば家路を急ぐ満月の夜、ふと月を見失ったりすることがあれば、私を思い出してください。
そうですね。
頬にポツンときたら、それが合図です。
月のしずくですよ。

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