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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2024年5月の記事一覧

『わたしの金魚』 # シロクマ文芸部

『わたしの金魚』 # シロクマ文芸部

金魚鉢の水を入れ替えるのは田中さんの仕事だ。その中で泳ぐ金魚にエサをやるのも田中さんの仕事だ。
いちど、わたしがたまたま一番に出社した日に水替えを済ませたことがある。
朝礼のあと、こっぴどく叱られた。
田中さんにではない。
課長に呼び出されたのだ。
余計なことをするな。
君を金魚のために雇っているのではない。
じゃあ、田中さんは金魚ために雇われているのですか。
言いたかったが、ぐっとこらえた。

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『放課後ランプ』 # 毎週ショートショートnote

『放課後ランプ』 # 毎週ショートショートnote

「ああ、あいつも放課後ランプかあ」
健太が窓を離れた。
放課後ランプを悠一がゆっくり歩いている。
ゆるい坂を登り切ると、その姿は木立の中に消えた。
僕は健太の肩を叩いた。
「さ、帰ろうぜ」
みんなも、そろそろと窓際から離れて行った。

校門を出ると右に行くのが通学路だ。
しかし、左にも細い坂道がある。
木立の先に何があるのか。
見たものはいない。
放課後、あの坂道を歩いて行ったものは、誰もが戻って

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