海の向こうと、手の平の中?最強の子育て環境について良識ある非常識人たちが考えてみた①
大学院卒・P&G入社というバリキャリルートを経て起業した大東めぐみさんと、偏差値68の進学校に入学するも進学せず10社以上を経験し起業した小田桐あさぎさんを迎え、海外を拠点にしながら活躍し続ける国際自由人の藤村と3人で「情緒の育て方」や「親子で海外移住」、「世界と繋がる子育て」などについて語りました。シリーズ前編をお届けします。
大東めぐみ:めぐみ
夫の駐在を機にキャリアを手放し資格・人脈ゼロのまま香港で起業。女性に、新しい生き方や働き方を提案している。著書に「好きな場所で、好きな時間に、愛される仕事を手にいれる本」(ぱる出版)「笑顔を増やすだけで年収1500万円」(KADOKAWA)がある。
小田桐あさぎ:あさぎ
恋愛・夫婦関係・子育て・仕事などについての独自の理論で、女性が自分らしく魅力を開花させ生きることをサポートする女性起業家。著書に「私、ちゃんとしなきゃから卒業する本」(WAVE出版)「嫌なこと全部やめたらすごかった」(WAVE出版)がある。
藤村正憲:藤村
北京、香港・マカオ、マレーシア、オランダと移り住み、「国境を意識しない生活」を実践。AERA「アジアで勝つ日本人100人」に選出。著書に「国際自由人という生き方」(角川フォレスタ)、「世界で通用する最強の子育て」(秀和システム)他3冊などがある。
移住熱に火をつける?!海外での子育てと国際自由人の考え方
藤村:今回僕が出した子育ての本なんですけど、僕のイメージだと大人の人間関係とかにも応用が効くと思っています。
めぐみ:めっちゃわかります。クライアントさんにぴったり。私、塾とかやってるから人を育てるという視点で読みました。
あさぎ:私も読みました。昔から「日本のここが、もうちょっとこうなったらいいのになぁ」と思っていたことが全部書いてあった。
藤村:ありがとうございます。
あさぎ:私ね、個人的な話なんですけど、初めて藤村さんを知ったのが多分5〜6年前なんですよ。国際自由人の本を出されたじゃないですか。
藤村:はい。2012年ですね。
あさぎ:実はその本がきっかけで、2年後ぐらいにマレーシアまで現地視察に行ったんですよ。現地に住んでる方のお家に行ったり、ジョホルバールの学校を見せてもらったり。でもそこまで時間はなかったので、あちこち見られなかったのもあって「何もないなぁ」と思っちゃったんですよ。
藤村:はいはい、当時としては正しいですね。今は、だいぶ出来てきてますけど。
あさぎ:そうなんですね。何もなさすぎて飽きるかなと思って帰国して、その翌年にセブに何回か行って、セブはもっと都会だから「こっちかなぁ」と思って一瞬移住の準備をしたんです。
でも移住って色々面倒臭いじゃないですか。それで、そこまでモチベーションが続かなくて、なんとなく今も日本にいるっていう感じだったんですけど。この本を読んで久々に…
藤村:次はオランダ?
あさぎ:そう!私、結構人に流されやすくて(笑)
本物に触れること。オランダで自然と情緒が育まれる理由とは
めぐみ:私、大学時代に交換留学で1ヶ月ぐらいオランダに居たことがあるんですよ。
あさぎ:そうなの〜?!
めぐみ:オランダって街がもう世界遺産だし、城とか残ってるし、普段レジャーにお金をかけなくても文化的な生活が出来るんですよ。オランダは私の人生の転機になりました。
あさぎ:でもそれ京都もそうじゃない?金閣寺とか凄いじゃん。奈良でも良いし。
藤村:オランダは世界遺産だけじゃなくて、街ごとに地元の画家の美術館があったりするんですよ。しかもすごくこじんまりとして、街の中に溶け込んで自然体なんです。
めぐみ:私が滞在してたのはライデンっていう小さな街なんですけど、現代的な事はほとんどやってないので、風車とか、フラワーマーケットとか自然なまま景観が保存されてましたね。
藤村:そういえば、サッカーと運動しか興味なかったうちの息子が、アムステルダムの国立美術館のゴッホの自画像を観た後に、ホテルに戻って2時間弱かけてそれを模写したんですよ。
彼がゴッホの絵に反応したのは、そこがオランダで、ゴッホがオランダ人だったからだと思うんです。本物を観ると、子供は本当に変わるんですよね。
あさぎ:実物を目にすると、影響を受けるってことですか?
藤村:そうそう。日本人から見たら教科書の中だけの ”本物” が、美術だ音楽だなんて特別感がなく生活に組み込まれているのがオランダで、自然と情緒が生まれるんだと思います。
あさぎ:音楽も普通ですか?
藤村:世界三大交響楽団の1つがオランダですね。
あさぎ:そうなんですね。毎日のようにコンサートが開かれているとか?
そういえば、日本人の女性ピアニストが、日本には家族で芸術的な音楽を聴きに行く文化がないから、音楽家として仕事がしにくいという話をしてました。
人の目に触れて触れて触れて残る、名画がもたらすインパクト
めぐみ:藤村さんのおっしゃる “本物” が近い、というのに首がもげるほど共感します。
日本みたいに「人混みの中、5メートル先から観る」とかじゃなく、名画がすぐそこで見れるし、ケースにも入ってないし、当時からずっと飾られてる城に飾られてたりする。
しかも3時間ぐらいずっとぼーっと立っててもOKで…とにかく芸術との距離感がめっちゃ近いですよね。
あさぎ:そうなんだ〜!
めぐみ:私は美術とか芸術の才能ゼロで、センスないし、絵を習ってたわけでもない。だけどフェルメールの絵を間近で観て、「名画って1000年とかの長い間、人の目に触れて触れて触れて、残るから意味があるんだな」ってことを体感で理解しましたよ。
フェルメールはそこまで古い人じゃないけど、離れられなかったですもん「真珠の耳飾りの女」から。ポスターで観るのと違うんですよ。油絵の膨らみとかも全部見えるんです、目の前で。
やっぱり本物を観るってこういう事だなって思いました。
あさぎ:それを聞いて絵画に初めて興味を持ちました(笑)
藤村:ある美術館に、レンブラントとかフェルメールのデッサンが残ってるんですけど、それも「普通に」本棚にあって、「普通に」手に取って観られるんですよ。
これがパリやロンドン、京都となるとそうはいかない。世界中から観光客が来る場所では、考えられないですよね。
めぐみ:そうそう、芸術との距離感が違いますよね。
「人が決めた基準」中心のアジア圏、生活中心のヨーロッパ圏
藤村:僕はヨーロッパに行ったら、世界遺産が気にならなくなりました。
あさぎ:世界遺産がありすぎてって事ですか?
藤村:うーん、ヨーロッパって恐らく、世界遺産であるかどうかということに価値を見出してないんですよね。アジアって世界遺産のプレートがあって、そこが重要だったりしますけど。
あさぎ:世界遺産って「人が決めた基準」って感じですもんね。
藤村:そうそう。ヨーロッパの人たちって「そういえば、あそこ世界遺産だったんだ」って感じで、自分軸で生きてるんですよね。それ大事ですよね。
めぐみ:私は逆で、街自体が世界遺産みたいな感覚がすごく新鮮でしたね。この建物が世界遺産、とかじゃなくて、街が世界遺産って感じ。カフェで一人でコーヒー飲んでても「世界遺産」なんですよ。
あさぎ:街が世界遺産って、例えばどういうことですか?
めぐみ:日本でデートしようと思ったら、数万円のフレンチとか数万円のお寿司とか、お金を払ってそれなりの場所に行かないと素敵な時間が過ごせない、みたいなイメージありません?
オランダだったら運河の近くの広場で、そこに出てるテーブルで数百円のコーヒーを飲んでるだけで、六本木の数万円のレストランデートと同じぐらい素敵なんですよ。そこにいるだけで幸せだし、ロマンチック。
一方、日本ではお金を使わないと同じものが手に入れられないと感じる。あさぎさん、ちょっとデートしようって松屋に連れて行かれるの嫌じゃないですか?
あさぎ:まぁ、確かに。六本木でいえばミッドタウンガーデンとかピクニックしてるご婦人とかいるけど、でも、そこくらいしかないかもしれない。なるほどねぇ。
「ありのままの素晴らしさ」を感じるために必要なものとは…?
めぐみ:何を尊ぶかですけど、私はお金をかけないと幸せになれないのが東京だなって気がします。
藤村:東京は、お金がないと辛いですよね。
めぐみ:オランダにいたときは、散財しなくても文化度の高い生活が出来るし、死ぬほど働く必要がないって感じましたね。
あさぎ:変に消費を刺激されないってことなのかな?
藤村:日本に来る度に思うんですけど、日本では消費しないと時間が過ごせないですよね。
めぐみ:ほんとそう!めっちゃわかります!オランダとか香港は自然もあるし、カフェとか広場の文化があるから意外に消費しなくても過ごせるんですよ。東京はインドアじゃないと気持ちよくない文化で、消費が必要なんです。
あさぎ:施設の問題っていうより、なんか資本主義の影響かなって思っちゃう、やっぱり。
めぐみ:東京は、街づくりの問題な気がします。
あさぎ:街づくりの問題なのかなぁ?私はなんかマインド的な問題な気がしますよ。
めぐみ:それもあるけど、環境がマインドを作る部分っていうのもあると思いません?
あさぎ:うーん。なんかちょっと、いいですか。
多分ね、ヨーロッパの環境は「自分の精神性が高くないと、素晴らしさを感じられないのかもしれない」と思うんですよ。私はカナダに半年くらい住んでいて、出張でイギリスとフィンランドに行ったことがあるんですけど…
なんかねぇ、つまんないの(笑)これはちょっともう、昔の文化だなって思っちゃって。シンガポールとかフィリピンの方が「これから来る!」みたいな熱量が肌に合うというか。
藤村:あさぎさんは、新しいことが好きなんですね。
変えられるものを変える勇気。オランダ流生き残り戦略ここにあり
あさぎ:好みもありますよね、きっと。ヨーロッパって何もしなくても精神的なものがあるんだろうけど、その分大きく成長しないでしょ、と思っちゃうんです。
藤村:確かに、イメージ的には国としての成長はないように思うかもしれませんね。でも、オランダでいうと、安楽死を世界で初めて合法化したり、今、議会で議論されているのは「自殺する権利」についてだったりしますね。
あさぎ:へえ、すごい!先進的ですね。
藤村:あとは、2025年以降にヨーロッパの主だった国が石油やディーゼル車の新車販売を禁止にするっていうので、「空港のタクシーを全部テスラにします」という条件でテスラのヨーロッパ工場を自国に誘致したり。
野菜なんかもオートメーション化された大規模工場を作って、労働者不要になるような施策をナチュラルに実行したりするんですよ。
普通は色んな既得権益があって、絶対揉めるじゃないですか。でもオランダは、必要だったら疑問の余地はないって感じでサクッとやりますね。
あさぎ:変わることに抵抗がない国民性なんですかね?
藤村:ものすごく伝統を重んじるけど、必要だと思えば新しいものでもどんどん取り入れますね。新しいものと古いものが共存してる不思議な国です。
めぐみ:オランダって世界中に植民地を広げたけど、負けて結局自国に帰ったっていう背景があるから「自分の国の中でどうにかこうにかしないと、この国終わる…」みたいな危機感がある感じはしますよね。新しいものを取り入れないと、こんな小国潰れちゃうよね、みたいな。
あさぎ:へー、そういう雰囲気なんだ〜!
あ〜生きてる…?!「ダメな感じ」こそが持つ独特のカオスパワー
めぐみ:あざぎさんはアジアに魅力を感じるんですか?
あさぎ:アジア大好きです。一番魅力感じたのはセブです。しかもセブシティ(笑)私、フィリピン人大好きなんです。
藤村:僕はもう、とにかく銃社会の国は嫌だという線引きが自分の中にありますね。銃社会って、犯罪の質が違うじゃないですか。あとは、夜の歓楽街が苦手…。
あさぎ:私は六本木に住んでたぐらいだから、そういうの抵抗ないかもしれないです。
めぐみ:私は、あさぎさんが子供いるのに六本木に住むっていうのが、もう不思議でしたよ(笑)
あさぎ:楽しい場所ですよ(笑)私は、歓楽街のあの独特なダメな感じが大好き。セブもそうだし、バンコクもそうだけど、遊びに行っちゃう。なんかそこに生のエネルギーを感じてしまうんですよね。
めぐみ:あ〜「生きてる」っていうね。
あさぎ:私は子供にね、こんな人生を歩ませられたら最高の教育かなって思うのが「すごく良いものとすごく悪いものを経験させること」なんですよ。
フィリピンで、すごく魅力的だなぁと思ったのが、高級っていっても大して高級じゃないんだけど敷地内はそれなりのクオリティなのに、一歩外に出たらすごい劣悪な環境、みたいなあの落差!シンガポールより生を感じちゃいましたね。
藤村:カオス的なパワーですかね。
あさぎ:あと、フィリピン人は自己肯定感も高いですしね。
めぐみ:あさぎさん、カオスが好きなんだ。
あさぎ:そうみたいですね。私も今日発見しましたよ(笑)
自由な問題児 or 迎合し没個性?親の教育は環境に勝てるのか
あさぎ:私、高卒なんですけど、高校は結構良い進学校だったんです。周りがみんな当然のように良い大学に行く中で、自分だけ行かずに就職して、10社ぐらい転々として。割とワイルドに過ごしました。
その時に、日本で「良い」とされてる物を、自分はそんなに良いと思ってないんだって事を再確認したんですよ。それで私は、「独自性」っていうのが一つ自分の個性としてあるんじゃないかと思ったんですよね。
めぐみ:なるほど〜。
あさぎ:海外生活とか、外資系企業で働いて培われた自由さというか、それこそ藤村さんが本に書かれているようなことは、結構マスターしてると思うんですよ。だから、自分を活かす道はそこだと思ってるんですけど…
めぐみ:格好良い!ついていきます!
あさぎ:やめてください(笑)ただ、子供の教育はどうしたらいいかな、と思うんですよね。
藤村:今のままで良いんじゃないですか?自由にさせてあげる感じで。
あさぎ:でも、小学校入れちゃったらねぇ。幼稚園のうちはまだいいですけど。
藤村:自由にさせてると、日本の小学校では問題児になる可能性が高いですよね(笑)でも、そこに対して親が何とも思わなければいいんじゃないですか?
あさぎ:うーん、日本の学校の集団教育に入っちゃったら、そこで戦って勝てるかっていうのが問題ですね。
めぐみ:双子の追跡調査をすると、人格への影響は遺伝子が4割、環境が4割で、3歳までの親の教育は1割以下しかないらしいんですよ。
約半分は遺伝子で決まって、あとの半分はどんな学校に行くかとか、どういう文化で育つかで決まる。そう考えると、残念ながら家で出来ることは本当に少ないんだなって思いますよね。
藤村:うーん、そうですね。やっぱり息子を見ていても、環境からの影響は大きいなと思いますよ。
〈編集=ひろいうみ(@official_umi423)/ 画像はUnsplushより〉
17年海外で経営をし、「AERAアジアで勝つ日本人100人に選出」2002年から北京→香港→マレーシア→オランダと拠点を移し、子どもと共に学びながら生きる。3/15に5冊目の著書 「世界で通用する最強の子育て」を出版