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それで、親って結局何すればいいんでしたっけ?東大卒現役ママ医師と語ってみた①

東大医学部を卒業し、現役医師でありながらママで著者でもある森田麻里子さんと、中国・マレーシア・オランダなど、海外を拠点にしながら活躍し続ける国際自由人の藤村が「学歴社会」や「バリキャリ女性」、「国際人の育て方」などについて語りました。シリーズ前編をお届けします。

森田麻里子:森田
東京大学医学部卒業、医師。17年に第一子を出産。現在は昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターに勤務。著書に「医者が教える赤ちゃん快眠メソッド」(ダイヤモンド社)、「東大医学部卒ママ医師が伝える 科学的に正しい子育て」(光文社新書)がある。
藤村正憲:藤村
北京、香港・マカオ、マレーシア、オランダと移り住み、「国境を意識しない生活」を実践。AERA「アジアで勝つ日本人100人」に選出。著書に「国際自由人という生き方」(角川フォレスタ)、「世界で通用する最強の子育て」(秀和システム)他3冊などがある。

子どもとはいえ他人です?!親が介入できるボーダーラインとは

森田:私は自分の経験から、好きなことを自分でわかっているというか理解してるってすごく大事だと思っているんですけど、藤村さんは粘り強く続ける力と、好きなことの両立ってどういうふうに考えていらっしゃいますか?

藤村:というと、例えばどういうことでしょう?

森田:例えば習い事とか「好きかも?」と思って始めて、途中苦しい時期があって、それを乗り越えると上達してもっと好きになる、とかあるじゃないですか。

でも親が子どもに対して「あなたの好きにしていいよ」っていうと、ほぼほぼ途中の苦しい時期でやめちゃうんじゃないかと思って。子どもにどうやって苦しい時期を乗り越えさせようかっていうのが自分の課題だと思っているんです。

藤村:ん~(笑)僕はもう全然「子どもを乗り越えさせよう」とか1ミリも思っていないです。

森田:1ミリも!?え~そうなんですか?!どうして?

藤村:やり続けなきゃいけないというのは親の概念ですよね。親として、続けて欲しいこととか続けて欲しくないこととかあるけど、これも親の主観。

森田:うんうんうん。

藤村:でも子どもからするとそれが迷惑かもしれないですよね。だから基本的に子どもの本能に任せるべきだと思って。

森田:あ~そこは、じゃあ子どもを信頼している?

レゴ

藤村:信頼というか、そもそも子どもとはいえ他人なので干渉しすぎてはいけないんじゃないかと僕は思います。アジアの親って子どもにすごく干渉するけど、それって自分の所有物として捉えているからではないかなと。相手が大人の場合そこまで干渉しませんよね?

森田:そう、ですね。

藤村:それはなぜかっていうとやっぱり他人だからですよね。だから、相手が子どもだとしても一個の人格を持った人間だと考えれば…

森田:じゃあ、お子さんが2、3歳とかで歯磨きしたくないって言ったらどうしますか?

藤村:歯磨き!

森田:そう!歯磨き!(笑)

藤村:しつけね。例えば、歯磨きだったらやった方がいいよって話します。それで本人がそれでも嫌だっていったら放置です。

森田:そこはじゃあ話してわかってもらう?

藤村:そうそうそうそう。例え分かってもらえなくても、命令はしない。

森田:じゃあ話せるようになってきたら、もうそこは、一人の人間というか大人と同じように接する。

藤村:そうですね。

森田:なるほど~。自分の子どもが幼児期に入ってきたので、どこまで介入するか、どこまで本人の人生なのかって、すごい悩みなんですよ(笑)

藤村:はいはい(笑)
でもね、子どもの自我が目覚めてきているってことだから、無理に修正しようとし続けると「自分がやりたいことは否定されるんだ」って、親は自分を否定する存在だとインプットされてきますよね。そうすると、子どもは親の前で意思表現しなくなっていくんじゃないでしょうか。

森田:確かにー!それは親としても望んでないですね。。

藤村:ただひとつ例外があると思っていて。例えば、自分の子どもを絶対医学部に入れたいんだとか、プロ野球選手にしたいんだとか、何か親の明確な意思があって「我が家はそれでいく」と決めている場合は、ブレずにそのまま突っ走った方がいい。

森田:え~!?じゃあそういう家庭があってもいいと思いますか?それはどうして?それも必要だと思われているってことなんですか?

藤村:そう思いますよ。やっぱりこう代々継がなきゃいけない家庭とかありますしね。

森田:あぁ~確かにそうですね。

藤村:僕もそういう家庭で育った友達が何人かいますけれども、親が「自分は苦しかったから、あなたは自由にしていいよ」と言ったりすると、子どもはかなりの確率で家を継がないですね。でも今の時代は景気が悪いから、結構な人数がなんだかんだ家に戻ってきてると思いますけどね(笑)

森田:なるほど~そうなんですね。匙加減が難しいですね(笑)

藤村:まぁそれこそ親の方針で桜蔭、東大ってほとんどの人が羨むコースを進むというのは悪くないと思います。大成功ではなかったとしても、相対的に安定した生活は送れますよね。

それに、東大に入っている人は東大を自分の選択肢から排除することもできるし、入れることもできるけど、東大に入れてない人はそもそも選択肢に組み込めないから。うん、全然悪くないと思いますよ。

東大卒でも学歴コンプレックス!社会に非情な評価基準あり

森田:2、30年前の時代背景を考えると、私の両親は多分ベストを尽くしてくれたなと思っています。ただ、今の時代で私の家庭を考えると…それだけではちょっとなぁって思っているところもあって。

もう一回、人生やり直すとしたら「あ〜多分海外の大学に入っていたかな」と思ったり。

藤村:海外の大学に入ったら何を勉強しますか?

森田:う〜ん、もしかしたらサイエンスとか経済に興味を持ったかもしれないし、ビジネス系に興味を持ったかもしれないと思うんですよね。

そうしたら、今もないわけじゃないけど、海外で働くという選択肢がもっと大きくあったかなぁと思いますね。起業なのか、金融とかITみたいなものなのか…業界はちょっとわからないですけど。

藤村:医療系のベンチャーとか立ちげてたかもしれないですよね。

森田:そうですね。いずれにせよ今の私は、海外の大学に行くという選択肢を持ってなかった高校生の自分に「おい」ってちょっと思います。機会を損失したような気がして。

藤村:周りが羨む進路を進んだとしても、本人が意味なかったんじゃないかとか、勉強ばっかりしない違う選択肢があったんじゃないか、と思ってしまうこともある、と。

森田:まぁ要するに、私はある程度コンプレックスを持っているんですよね。それを解消するために努力したんですよ。で東大に入ったから、コンプレックスは関係なくなった気がしてたけど…学歴でジャッジしてたのは自分だったんです。

高校生

藤村:学歴や学校での成績だけを追っていると、いつかどう努力しても自分が一番になれないことは出てきますよね。それに気づきやすいのが社会に出た瞬間なのかもしれません。仕事しても決定権はないし。

森田:そうですね(笑)でも、小中高大とずっと勉強はしてたのに、なぜ他にも選択肢があったかもしれないということに、後から気づくのでしょうね?

藤村:学校生活においては、勉強して、いい成績を取ることで自分の価値を証明できたからじゃないでしょうか。

例えば学年で一番の成績をとっていたらその人は文句なく一番の人材と評価された。例え性格が悪かろうが、コミュニケーション能力なかろうか、もしかしたら全校生徒を敵に回すような嫌な人だったとしても、学内の成績が良ければ何かしらのポジションが取れるわけですよ。

しかもその地位は圧倒的だったりする。

森田:確かに、そうですね。

藤村:でも社会に出た瞬間、否が応でも社会人一年目という扱いをされて、組織に属せば本人の能力は関係なく自動的に一番下っぱになる。それって、ずっと優等生できた人にとってはない経験だと思うんです。

森田:あ~なるほど。

藤村:しかも、勉強のことばかり考えていた人や、親に「とにかく勉強して東大に行きなさい」と言われ続けてきた人たちは、いい成績をとること以外で、親や社会に自分の存在意義を認めてもらう方法を知らないんですよ。

森田:そうですね。それは…大変かもしれない(笑)

藤村:例えば医師を目指す人だったら、大学に入り、優秀な成績で医学部を卒業し、インターンに行きます。バリバリに手術をしてる外科医をイメージしてたのに、考えられない雑務があったり…

森田:こき使われる、みたいな(笑)

藤村:そうそう(笑)その、大学を出たばかりの人なんて結局教授とか指導教官からするとまだまだペーペーなわけじゃないですか。

森田:うんうん。知識はあるけど実践が浅いですからね。

藤村:もしかしたら若手の新人の方が能力は高いかもしれないけれど、経験値というところでどうしても手の届かない部分もあって。

社会に出た瞬間「自分でどうにもできない評価基準」が存在しちゃうんですよ。努力で成績を上げるという方法が使えないとなると、自分をどう表現していいかわからなくなる。

森田:そうですね~。

藤村:自分の価値を成績でしか表現してこなかった人にとってはそれが苦しいんだと思います。社会では、学歴が低い人でも成功していたりするし。

学歴社会はファンタジーだった…。東大生のもったいないところ

森田:そう考えると学歴社会ってある意味ファンタジーですよね。学歴って自分の実力を社会で証明する要素ではあるけど、実際一つの要素でしかない。

藤村:そうですね、学歴だけで常に評価されて、優遇されるような社会だったらファンタジーではなく力そのものなんですけど。実際そうではないですからね。

挫折

森田:大学出たくらいの時に、すごく勉強したことがあるということと、社会的な能力があるということは完全に別だ、ってことに気づいてややショックを受けましたもん(笑)

藤村:あ〜そうですよね。

森田:自分には勉強以外の能力がないって認めていて「でも勉強ならできる」って思って勉強するなら「自信」という大きな資産を手に入れることができるけど、私はどこかで「もっと別のところに自分の能力があるんじゃないか」みたいに思っていて(笑)

藤村:もりたまさんは、絶対ありますよね。

森田:そう思いますか?私も、大学で得られた人間関係とか、努力できる自分に対する信頼とかは本物だとは思っていますけど…社会での力という意味では物足りなさがちょっとありました(笑)

藤村:東大生のもったいないところは、東大閥というのが意外に弱いところですよね。イギリスだとオックスフォードやケンブリッジ卒っていうと圧倒的な力がありますよね。日本でも慶応は強いですけど、オックス・ブリッジやアメリカのハーバード卒であればもう少し社会的な強さがありそうですよね?

森田:東大より慶應の方がそういうの強い…

藤村:慶應の三田会は強いですよね~(笑)
けれども、日本のエリート教育というのは否定されがちで、その代表的な存在である東大生は、すごいとは思ってるけれども「大したことない」って言いたい人がたくさんいる。

森田:確かに(笑)そうかもしれないですね~。

藤村:でもやっぱり東大に入っている、東大で学んだ、東大を卒業したという人は、一つの結果を出しているということだから。プロ野球選手とかJリーガーと同じようにカテゴリとして、もっともっと尊敬されてもいいとは思います。

藤村:社会的なイメージと現実社会の差という意味では、お医者さんも社会的にすごく地位の高い職業じゃないですか。学歴のように、何かギャップみたいなものを感じることはありますか?

森田:そうですね〜。例えばヘルスケアの何かに関わるとしたらやっぱり医師免許は最強なので、それはすごく良いと思っています。自分としても人間の体に対する知識は充分持っているとは思いますし。

ただ、その「知識という資産」はヘルスケアの分野に限って価値があるという感じですよね。あんまり応用が利かないというか…。

藤村:あの、日本の医師の不幸なところは副業ができなかったりするところなんですかね。例えば私の知っているマレーシアの医者はホテルオーナーもしている実業家なんですよ。

森田:えぇ~!?すごーい!?違いますね~!(笑)

藤村:例えば東大の医学部、まぁ医学部に限らず東大生がよーいどんでビジネスを始めたら絶対強いですよ。

森田:えー?そう思います?!

藤村:間違いないです!だって学習能力違うもん(笑)だからもりたまさんが、「他にも能力使えるのに…」と感じるのは、おっしゃる通りだと思います。

でも、東大生もそうだし日本の大学教授なんかもそうですけど、環境的に自分でビジネスして稼ぐっていう思考が生まれづらかったりするのかもしれません。

すみませんソレ、全然羨ましくない (笑) もし小学生に戻ったら?

森田:そういえば!いや~(笑)教授といえば私の印象に残ったエピソードがあるんですけど、大学5年生の時に病院実習があってですね。

藤村:はいはい。

森田:ある教授が私を含む5人くらいの学生を、教授室に案内してくれたんですね。テレビがある、まぁ普通の広い個室みたいなところ。

で、「教授になったらこんな部屋もらえて、年収1500万だぞ!すごいだろう!」って言われて(失笑)そこで私(すみません。全然それ羨ましくないかも)って思っちゃって(笑)

藤村:おお、そんなことが…(笑)

森田:その教授との、意識というか考え方の違いが、すごく印象的だったんですよね。

藤村:それはなにか考えるきっかけになりましたか?

森田:なりましたね~!教授になっても全然ダメだって(笑)まぁその、社会に貢献するということではすごく意味のある仕事だとは思います。それでも、私のやりたいことではないなというのが、すごくはっきりわかりました。

藤村:医師という職業はどうですか?

医師

森田:んーもしかしたら、もし自分の子どもが「お医者さんになりたい」と言ってもおすすめはしないかもしれません。

どうしてもと言われたら「海外行ってみたら?」とか「EUの免許取ったら?」とか言うと思います。今東欧の医学部に行けばEUの免許が取れるし、英語教育なので、そのほうが将来広がるかな、と。

森田:藤村さんは?もう一回自分が小学校ぐらいに戻ったらどうしますか?

藤村:え?東大入りますよ!日本に住んでたらとりあえず東大を目指しますね。

森田:えーー!!海外は?海外って感じじゃないんですか?

藤村:自分の本(「世界で通用する最強の子育て」)にも書きましたけど、今は無理に海外出る必要はない時代だと思ってます。

森田:えぇ~本当ですか?!そうなんだ。それ私的には衝撃です!そうなんですね?!ヘぇ~!(驚)

藤村:自分が学生だったあの時代だったら、やっぱり絶対海外で子育てしたいと思いますけど、今、2020年だったら海外にあえて出る必要は別にないかな。海外はあくまでも選択肢の一つ。

だって、これだけインターネットで世界中繋がってるし、英語教育の環境もあるし、ねぇ。東大生の方が僕より英語力ありますよ?間違いなく(笑)

森田:そうなんですね〜!確かに、ネットのあるなしはだいぶ変わりますよね。

後編へ続く

〈編集=ひろいうみ(@official_umi423)/ 画像はぱくたそ・Unsplushより〉

17年海外で経営をし、「AERAアジアで勝つ日本人100人に選出」2002年から北京→香港→マレーシア→オランダと拠点を移し、子どもと共に学びながら生きる。3/15に5冊目の著書 「世界で通用する最強の子育て」を出版