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有事のコーポレートコミュニケーション

 企業や団体で、広報やIRなどに携わっている方は、この時期、新型コロナウイルスによる影響についてどう対外的に発表すべきか、悩んでいませんか?株式市場からの視点を中心に、いくつかの軸でまとめてみました。

0.基本方針

 まず速さ。日本企業は正確性や完全性を重視しがちですが、後で少々訂正することになっても、タイムリーに情報を提供することが肝要です。
 次に、すでに顕在化している事実と、予想を明確に分けて伝えること。情報を受取る側も混乱しがちなので、いつも以上に気を付けましょう。
 予想を出す場合には、予想変更を頻繁に行う覚悟でいいと思います。

1.今起きている事実を伝える

 タイムリーに提供する情報は、今起きている事実。これからどうなるか予想することは難しいです。まず客観的な指標、それも経営者も重視しているような指標からはじめましょう。

 ・ネガティブ影響の企業 ex. 小売業種: 「来店者数 ●割減」
 ・ポジティブ影響の企業 ex. テレワーク業種:  「問合せ数 ●割増」

 同じ指標を時系列で出せるとさらに参考になります。
 ex.「3月までは1割程度の減少だったが、緊急事態発令後は4割減」 

2.Cash Is King

 有事はやはり、キャッシュが重要です。財政状態(BS)とキャッシュフローの情報を整理して伝えましょう。

 ・手元資金の金額
 ・コロナショック後の資金調達額(あれば)
 ・流動性、財務健全性
 ・支出削減施策(必要なら)

 まずキャッシュがどのくらいあるか、借入等を行った場合は、それも。借入枠の設定等を行っただけの場合でも、未実行枠を開示する。全部実行した場合、財務の健全性や流動性がどう変わるのか、可能なら示す(自己資本比率等、流動性比率等)。さらに、いざとなったら大幅に減らせる支出項目があればその金額を示しましょう。

3.事業戦略 ~リスクと機会~

 コロナウイルスはリスクばかりではなく、事業転換の機会と捉えることもできるでしょう。テレワークが基本となり、働き方だけでなく、顧客へのアプローチ方法が変わっています。また、経済効率より生命や社会の存続を優先するなどの人々の価値観の変わる可能性があります。
 当面の短期(1カ月~6カ月)に起こること、少し先(1年~)に分けて提示するといいでしょう。また今回のコロナウイルスは、収束時期の見通しが難しいので、複数シナリオを作るとさらに良いと思います。たとえば、数か月以内に世界のロックダウンが緩和される場合と、1年以上大幅に行動制限される場合などと。それによってデジタル化などの社会インフラも大きく変化する可能性があります。

・短期
  *(今見えている)リスク/機会 (売上などへのダイレクトな影響)
  * 当面の対応策 
 上記1に関連しますが、今見えている顧客やサプライチェーンなどへの影響と、予定している施策など、数か月くらいの期間で。基本方針でも書きましたが、既に実行している施策と、決定だが未実行のもの、検討段階のものは分けて説明しましょう。

・少し先
  * 社会の変化
  * リスク/機会
  * 事業戦略

 巣ごもりが続き、デジタル化が一気に進展したりするようなシナリオでは、どう対応すべきか。たとえばオフラインでの集客が難しくなり、オンライン集客への対応をどうするか。完全テレワーク推進のために新たな投資が必要になるのか。そのための事業のチャンスがあるのか。国境をまたがる人や物資の移動が難しくなるが、ローカル需要の創出や仕入れが可能になるのか。色々考えることはあります。

4.顧客・従業員・取引先への対応

 ステークホルダーへの対応を忘れてはいけません。一般メディア向けには、こちらをしっかり出す必要がありますね。

 ・感染対策(顧客、従業員、取引先)
 ・顧客対応
 ・従業員への支援
 ・取引先への支援・対応

 顧客への商品・サービス提供は遅れていないか。非正規を含めた従業員を守れるのか。小規模な取引先を守れるのか。東日本大震災の時もそうでしたが、有事の際は、株式市場も企業の社会的な存在意義を見直します。今こそ、持続的な事業の意味が問われる時です。

5.社会貢献

 そして、社会貢献。医療関連業界はもちろんのこと、他の業界でもできることはあります。電機メーカーがマスクを、アパレル業界が防護服を生産し、医療機関に提供する。それを配送する物流。軽症の感染者向けの施設提供等。ボランティアや寄附金集めといった行動も素晴らしいですが、特に事業基盤を生かした支援は市場の評価が高いので、大きくメディアに取り上げられなかったとしても、情報を伝えましょう。
 日本には、善行は黙って行うもの、という美学がありますが、それはもうやめてもいいでしょう。黙っていては伝わりません。自分のためではありません。理由は、誰かの善い行いが周囲に影響を与えるからです。「あの人がやるなら私もやろう」「あの会社がこれをやるならうちの会社はそれを側面支援しよう」などと、支援の輪が広がります。マスク生産がいい例です。人はネガティブな報道ほど敏感に反応しがちですから、ポジティブなニュースを意識して出していった方がいいのです。それが社会の正常化につながることになると思います。

― END ー

写真AC: fujiwaraさん

IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!