世界進出_AC_カメラ兄さん

楽天IR戦記 第1章(8)いざロードショーへ


 ロードショーは2週間ほど実施したはずですが、正直言って忙し過ぎてよく覚えていません。三木谷さんは欧州と日本、副社長は日本、財務担当常務は日本とアジアを回りました。IR室長は三木谷さんに同行し欧州へ行くことになり、私は国内投資家訪問に同行することになりました。経営企画室長はこの頃から前年買収した米国子会社に出張し不在のことが多くなりました。それまでIRの顔として多くの投資家に会ってきましたが、今回のロードショーには加わりません。 

「僕はニューヨークに行くけど、がんばってね」 

 颯爽と旅立たれ、IR室長と私は残されました。
  この間、会社としては3月末に予定している株主総会*の準備もありました。総会後に、「株主通信」という1年を振り返る冊子を決議通知とともに株主に郵送しているので、その準備もありました。昼間は投資家を5、6件訪問し、夕方オフィスに戻ってから株主通信の原稿を書きます。広報と経理の人が1名ずつ協力してくれましたが、責任はIRにあるのでデザインも含め全ページ隅々まで確認します。加えて、訪問する投資家のスケジュールは日々変わるので、国内も海外もそのスケジュールを調整し確認するということも毎晩行っていました。 

 国内機関投資家の質問はそれほど厳しくはありませんでした。放送局の件が落ち着いているので、それ以外の既存の事業の利益成長がしっかりしているのかが重要視されました。この点は決算が非常に順調だったので難しくなかったと思います。またライブドア事件が起こった後だったので、ガバナンスの観点からの質問もありました。直前に追加されたブランドコンセプトや経営陣のスライドは、楽天の倫理観や行動規範、それを執行・監督する役員陣などを説明することで、ガバナンスに関する質問に対処しようとしたものでした。 

 海外機関投資家からの質問は異なる厳しさがあったようで、三木谷さんに同行したIR室長は苦労していたようです。三木谷さんが何か知りたいことで現地で解決できない事項があると室長から国際電話がかかってくるので、私の残業時間は延びる一方でした。 三木谷さんが海外ロードショーから帰国した日の夕方に国内機関投資家を集めたラージミーティングがありました。国内の投資家の個別ミーティングは副社長対応だったため、彼らにとって今回の件で社長の話を聞けるのはこの機会のみです。その日の午後成田に着いた三木谷さんはその足で大手町付近の会場でプレゼンテーションを行い、ロードショーを締めくくりました。 

 強行軍にもかかわらず、元気いっぱいに楽天の将来をはつらつと語る三木谷さんとは対照的に、同じ日程で帰国したはずのIR室長の顔色の悪さを見て、経営者の必要条件に体力があることを思い知らされました。

(次回「ディールの完了」に続く)

*株主総会:株式会社の最高意思決定機関。 会社法に基づき、議決権を保有する株主を招集し、直近の事業年度の事業報告を行い、会社の基本的な方針などの重要な意思決定に係る議案を株主に諮る。

*写真AC (カメラ兄さん)

IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!