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リーダーを引き継ぐということ

経営者のインタビュー記事を読むと、管理職時代や社長を離任したあとの後任が、自分自身がやっていた方針ややり方を変えたことで上手く行かなくなったという旨の話を目にすることがあります。思い出話として自分のやり方の方が上手くいったというだけの話だと思うのですが、後任の視点から考えてみるとちょっとモヤモヤする話かなとも思えてきます。
私自身も管理職を後任に譲った経験はありますし、昨年は前職の社長を後継者に引継ぎ退職しました。引き継ぐ際にどのような思いでそのポジションを託したか、ということについて振り返ってみたいと思います。

役職交代の2つの視点

役職者が変わるというのは組織にとっては大きなインパクトのある出来事です。それゆえに様々なことが起こり得ます。

まずは去っていく人の視点です。異動であれ退任であれ自分が指揮をとった部門が後任によってどのように運営されていくのかということには関心があります。中には去ったところのことなど関心ないと言う人もいますが、私が感じるに全く無関心と言う人は少数だったと思います。自分のやっていた通りに後任が引き継いでくれるのか、それとも大幅に変わってしまうのか。会社としてはより成長して言って欲しい反面、後任が自分よりも上手くマネジメントするようになったら、なんて複雑な思いを感じる場合もあるわけです。
既に別の部門に移っていても、前の部署は最近上手くやっているのかとか気になりますし、時になんで自分のやり方を止めて、あんな方針に変えてしまったのか、なんて憤りを感じることもあったりします。

逆に後任として就いた人の視点です。所属員たちから前任者と比べて自分はどのように見られるのだろうか、前任者より上手くやるにはどうしたらいいかといった比較の視点。

前任者はなんでこんなやり方をしていたのだ、自分の考え方に徹底的に変えてやろう、なんて改革を始めることもあります。その改革が上手くいくこともあれば、やっぱり上手く行かなかったなんてこともあり得ます。
とかく後任は前任者のやり方を改め、新しいやり方を好むことが多いと聞きます。それはかつての成功体験もあれば、野心的なチャレンジの場合かもしれません。ある意味そこで自分の力量が問われることにもなりますので、ただ引き継いで従来通りにやっただけでは意味が無いとも言えますし、経営陣からの評価も下がってしまうかもしれません。
何か違いを見せつけて成果を上げてやろうと思うのが人情だと思います。

管理職を交代した時に感じたこと

前職での社員時代、私は担当者として通販を立ち上げました。そしてその業務が軌道に乗ってくると他の業務を担当していた人が部下になったり、新たに人を採用したりして人が増えていきました。その結果私は自然な流れで管理職となりました。管理職の経験もなければ、特段お手本となる管理職もいない立ち上がったばかりの会社です。当然社内に管理職研修なんてものはありませんし、外部研修に行く暇もありません。そんなこんなでかなり我流なマネジメントをしていたと思います。

そんな管理職を何年か務めた後に人事異動が行なわれました。私は単独での商品開発専任となり、通販全般の管理部門を後任の人に譲ることになりました。
私個人としては、社員の管理や業務委託先の管理といった任務から離れて新商品開発として国内外問わずあちこちに自由に動ける身分となれることに安堵しました。もともと人の管理をすることに苦手意識があったからです。
こんな思いも持ちながら管理職をしていたこともあったので、後任者には次のような言葉をかけました。

「私のやり方を壊してくれていいよ。自分が作りたいと思う組織にしてくださいね」

自分の管理手法に確たる自信を持っていなかったこともありますが、リーダーが変わる以上は何かの変化を起こさないと意味がないと思ったからです。

もちろん後任者自身が継承した方が良いと思うところは、そのまま受け継いでくれても構いません。逆に全部をひっくり返すとしたら、それはそれで本人も大変ですし部下たちも戸惑うことでしょう。しかし何も変えることなく唯同じ手法を引き継ぐだけだとしたら、それはそれとして本人にとっても組織にとっても実につまらないことだと思うのです。
せっかくの変化の機会なのですから、変えることを厭ってはいけない。むしろ人も組織も進化する絶好の機会です。そんなチャンスをみすみす逃すのは実に勿体ないと思うのです。

実際にその時の後任者は管理手法を結構大胆に変えていきました。部下たちの間に「坂田の時代の方がよかった」という有難い言葉を耳にすることもありましたが、変わっていくその部署を傍から見ていて実に感心していた記憶があります。

そんなやり方があったのか、とか、随分とスムーズに回るようになったなあ、なんて思うことだらけでした。なんと言うか、私が強引に作った「けもの道」をきれいに舗装し、線を引いてその上信号まで立てたかというように感じたものです。それは私自身にとっても大きな学びとなりました。
組織が進化するとはこういうことかと思えた経験だったのです。

社長を引き継ぐにあたって

そして何年も過ぎ、社長の退任を決意し後任に引き継ぐことになりました。
後任にかけた言葉は当然このようになります。

「好きにやってください」

後任は私の部下だったわけですから、部下なりに私のやり方に対しての思いもあったはずです。肯定的なこともあったとは思いますが、もっとこうした方が、というところも多々あったはずです。というか多々ない人には社長を託すことなどできません。
トップが変わるという人と組織の進化の絶好のチャンスを逃してもらっては困るのです。

引継ぎ期間、社長は私がそのまま務めていましたがマネジメントの権限は常務に昇格した後任者にほぼ委ねました。自分だったらやらないなと思うことを打ち出し実行していく姿に、非常に頼もしく感じました。社員たちにも戸惑いもあったかもしれませんが、その一方で何かが変わるという期待感も感じられてきました。

自分がやらなかったこと、或いはやりたくてもやれなかったことを果敢に進めていく若き後継者に時に複雑な思いを抱いたこともありますが、むしろ羨ましさを感じることの方が多かったのも確かです。
実際に退任するまでの間は立場上は社長のままではありましたが、いい意味で私は自分の存在感を消していくように心掛けました。社員たちの視線も私よりも次期社長となる常務に集まっていくようになります。そこに一抹の寂しさを感じたことは否定はしませんが、これが進化の始まりと思うと、この会社のこれからにワクワクしたのも事実です。

繰り返しますが、リーダーの交代とは人にとっても組織にとっても進化の絶好の機会です。
前任者は潔く身を引き、自分のやり方とは違うやり方に唯々エールを贈ることこそが大事なのだろうと私は思います。


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