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私の好きだった曲⑫:『エボニー&アイボリー』

私の好きだった曲(1980年代の洋楽縛り)シリーズの12回目は、ポール・マッカートニー&スティービーワンダー(Paul McCartney & Stevie Wonder)『エボニー・アンド・アイボリー(Ebony And Ivory)』です。

スーパースター同士の共演

1982年3月に発売され、米ビルボードシングルチャートでNo.1を獲得、英国や日本でも1位になっている大ヒット曲です。英米の稀代の大スター、ポール・マッカートニーとスティービー・ワンダーの共演です。

この曲は、ポール・マッカートニーが、「ピアノに黒鍵(Ebony)と白鍵(Ivory)があり、黒鍵だけ、白鍵だけでも音楽は成立するが、一緒に鳴らした方がより素晴らしいメロディを奏でる」という話に着想を得て作られた、と言われます。

「ピアノの鍵盤のように、白人と黒人、無色人種と有色人種も調和して生きることができるのではないか?」という壮大なメッセージ性を持ったこの曲のイメージを考えて、声をかけたスティービー・ワンダーが快諾し、二人のデュエットが実現したというわけです。

今、聴くとジーンとする曲

実は、「私の好きだった……」と自信をもってタイトルに掲げられるかというと、少々怪しいものがあります。この曲が売れていた1982年春は、まだ私の本格的な洋楽デビュー前夜だったこともあって、好きな曲なのは間違いないのですが、人一倍深い思い入れがあって聴いていたわけではありませんでした。

ところが、何年か離れていて突然耳にすると、心にジーンときます。先日もクルマを運転中にラジオからこの曲が流れて来て、思わず聴き入ってしまいました。こういう曲を作れるのは本当の天才なのだなあ、と思ってしまいます。歌詞も、平易な英語で組み立てられたものですが、一つ一つのことばに味わい深いものがあります。

知ってしまった多くのこと

日々、じんわりと人々の分断が進んでいるように、私には感じられています。私は、元々マイペースな性格で、人とコミュニケーションをとることへの苦手意識が強いです。最近は更にひどくなってきて、誰かと繋がっていたい、同調したいという欲求が、確実に衰えてきています。人とわかりあえないのは仕方がない、と最初から諦めていて、繋がる努力をする前から、意識的に距離を置いてしまっている時もあります。

今、毎日の生活が辛い訳でもないし、過去を悔いている訳でもないのですが、時々「思えば遠くきたもんだ」という感慨に襲われます。ピュアさを失ってしまったなあ、あらゆるものにもっと貪欲に可能性を信じていたのになあ、という虚しさを覚える瞬間もあります。

中学、高校、大学時代の若かった自分に、戻りたくはありません。もう一度、あの頃に戻って人生をやり直したいなんて気持ちは全然ありません。楽しい思い出が多いものの、今の立場で違う角度から見ると違っていたのかもしれない、と知るのが嫌なのです。

辛かった思い出もあります。今以上にコンプレックスが強く、背伸びして虚勢を張っていたので、折角のチャンスを逃すことも多い時期でした。普段は一時的に記憶が消え去っているだけで、片隅には苦い記憶も深く刻まれています。精神のバランスが崩れている時には、辛かった時の感情や明らかな失敗をして恥ずかしかった記憶が頭をもたげてきます。

これまでに色んなことを知ってしまいました。
● 優劣や勝敗を強く意識させられてしまう瞬間がありました。
● 肝胆相照らす親友は、なかなかできないことがわかりました。
● 人から好意を持ってもらうことはとても難しく、苦しいことです。
● 誰かや社会と良好な関係を維持しようと望むならば、努力が必要です。
● 妥協しなければ乗り越えられない障害に出くわす場合もあります。
● 自分が理解されていないと感じる場面には何度も遭遇します。
● 同じことをやっても、結果は人によって違います。
● 周囲から愛される人と、避けられる人がいます。
こういった知恵が、必要だと頭ではわかっていても、自分の行動を縛る時があります。

最近「嫌なことや辛いことを、我慢するな」という声が強くなっています。でも、忍耐や我慢や苦痛や自己犠牲を一切拒否して、社会で真っ当に生き抜いていくことは不可能です。いい大人が駄々っ子のような振る舞いをすることなんて許されるはずもありません。その生き方が許される人もいますが、色んな事情で許されない人もいます。

冷徹な現実には、私なりに真摯に向き合って、折り合いをつけてきたつもりだし、これからもそうありたいと願っています。明るい豊かな現実があることも理解し、期待は最後の瞬間まで捨てません。この曲のメッセージ、100%鵜呑みにできないものの、可能性に賭けてみたいなあ、と思います。


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