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『コロナ後の世界』を読む❶

本日の読書感想文は、『コロナ後の世界』(文春新書2020)です。後で見返して内容を学び直すため、6回分の読書ノートを整理したいと思います。

コロナ後の世界を著名な知的人が語った書

本書は、今世紀最大のパンデミックとなってしまった新型コロナウイルスの蔓延を受けて今後世界がどう変質していくのか、文芸春秋社の編集者が、世界的に著名な知性人へのインタビューを行ってまとめたものです。

語っているのは以下の6名です。

❶ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』の著者
❷マックス・テグマークス『Life3.0』の著者
❸リンダ・グラットン『ライフ・シフト』の著者
❹スティーブン・ビンカー『暴力の人類史』の著者
❺スコット・ギャロウェイ『the four GAFA』の著者
❻ポール・クルーグマン ノーベル経済学賞受賞者

各人が『コロナ後の世界』を語っています。本日は、❶ジャレド・ダイヤモンド氏の章ー独裁国家はパンデミックに強いのか(P9~47)です。

ジャレド・ダイヤモンド氏とは

ジャレド・ダイヤモンド(Jared Mason Diamond, 1937/9/10 - )氏は、UCLA社会科学部地理学科の教授。進化生物学者、生理学者、生物地理学者で、大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者として有名です。

記述内容からの抜粋

✔ 新型コロナウイルスへの危機対応で、リーダーシップの在り方や、リーダーの資質の差が如実になった。(P11)
✔ 日本は欧米よりも政府の統制力が強く、個人の自由が制限されることへの抵抗が少ない印象がある。社会的規範に反して、自己中心的な行動をする人が少ないことが、感染拡大抑止に貢献している。(P13)
✔ ウイルス蔓延防止に各人の行動制限が必要。この点、民主主義国家よりも強権的な独裁主義国家の方が感染症対策は有利に見えるが、そうとも言い切れない。発生源とされる中国政府は当初情報を隠蔽しようとした。独裁体制下では悪い決断も迅速に実行できるという問題を抱える。(P13-15)
✔ 新型コロナウイルスという脅威に対抗する為、政治的に大きく二極化していた米国人が団結しようとしている。世界的な脅威に対抗する為、国際社会が団結できるチャンスでもある。(P17)
✔ 進化生物学の観点では、ウイルスの唯一の目的は「増殖すること」。感染者を病気にしたり、死亡させるのは、副次的なこと。(P18-19)
✔ 新型コロナウイルスがインフルエンザのように変質する性質のものであれば、一度かかったから終生免疫ができるとは考えられない。常に変異や流行タイプへの対応が必要になる。「集団免疫」は有効ではない(P20-22)
✔ ロックダウン下では、何を諦めるかを考えて対処すべき(P22-24)
✔ 新型コロナウイルスで人類は滅亡しない。核戦争や気候変動被害や資源枯渇の方がより甚大な問題。新型コロナウイルス対策は、これら地球規模の問題への対処としても有効になる可能性がある。(P25-26)
✔ 日本の人口減少で必要な資源が減ることは、持続不可能な経済で回っている地球規模ではアドバンテージになり得る。日本の高齢化は日本人が思っているほど大きな問題ではない。(P26-28)
✔ 日本の問題は定年退職システムと女性の活用。高齢者と女性を解放し、加えて必要な移民を活用すれば、日本の労働力減少問題は解消する。日本は「非常に裕福な国」から「成功した国」に変わるだけ。(P29-34)
✔ 日本は周辺の中国・韓国との関係改善に取り組むチャンス。脅威への対処法は武装化や対立ではなく、粘り強い外交努力。日本の太平洋戦争責任の姿勢は十分とは映っていない。過去を蒸し返される原因では?(P35-41)
✔ 民主主義国家ではない中国が世界の盟主になることはない。(P41-42)
✔ コミュニケーションの有り様の変化によって、政治的・社会的二極化が進んでしまった。国土が広く、対面よりも画面でのコミュニケーションが普及したアメリカは顕著。似た者同士で固まる傾向が顕著。(P43-44)
✔ 民主主義の基本は選挙の投票。まともな政治を実現し、健全な民主主義を維持するために、投票することが大事。(P45-47)

所感

本書に収められた6人の中では、最も楽観的な態度だと感じました。賛同できない部分が最も多かったのも、この章です。

● 日本は世界のもっと悲惨な国に較べれば全然マシなんだから心配するな…… という主張は、日本の実情を知悉しておらず、日本人に寄り添った視点の意見でもないと感じるので、素直に肯首できません
● 海外から資源を収奪して現在の繁栄を築いた日本の人口減で、必要な資源が減少するので国際社会には好都合だ…… にはいい気分しません。
● 日本の高齢者はどの国の高齢者よりも健康だから若者の負担は少ない……っていう根拠はどこにあるのでしょう?
● 『非常に裕福な国』で暮らしてきた日本人にとって、ワンランク下の『成功した国』へ”没落・転落”するのは大したことではなく、大問題です。
● 韓国・中国が納得しないのは日本が真剣に戦争責任を謝罪していないから…… という見立ては余りに断定的と感じます。
● コロナ後の世界への提言が民主主義を守るために『投票せよ』というのは平凡に過ぎないか…… 

コミュニケーションの有り様の急激な変化で、階層別の分断が顕著になっている中、新型コロナウイルスという人類共通で立ち向かうべき脅威によって国際社会の団結を生む可能性がある、は明るい希望ではあります。

ただ、逆に分断を先鋭化させるリスクも孕んでいます。事態の推移についての注視が必要だろうと思います。



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