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『サバイバル組織術』を読む

夏休みは優れた書物から知識をインプットして、自分の中で知恵にして蓄えるのに最適の時間ですから、貪欲にいきます。

本日の読書感想文は、佐藤優『サバイバル組織術』です。

本の帯には「組織は人を潰す 生き延びるためにはその内在理論を理解せよ!」という激烈な言葉があり、なかなかに身につまされるテーマです。

「組織」は、時に私たち「個人」に理不尽な仕打ちを行ないます。なぜなら、組織の目的は、基本的には組織自体の維持・存続であって、そのためには組織の一部分に過ぎない個人を犠牲にすることは「合理的な判断」とされるからです。「組織にとって、いかなる人も入れ替え可能である」、これが組織と個人を考えるうえでの大原則です。(P8)

のっけから的確な指摘で、この内容には100%納得です。個人はこの認識が逃れられない現実だと受け止め、対処していく必要がある訳です。

本書は、有名な小説や最近のテレビドラマを通して、組織の掟や組織に巣食う問題に対して、個人がどう対処するか実践的な知恵を授けてくれます。

著者は、組織に関わる問題への対処はマニュアル化出来ず、論理的に対応できないことも多いので、どうしてもアナロジカル(類比的)な思考法で解決策を処方する必要があると言います。万能のマニュアルは存在しないということです。

それには歴史を学ぶのが良いのですが、膨大な歴史から教訓を抽出するには、情報処理能力と分析力が問われます。その点、優れた文学作品での組織と個人の描写は、組織論の教科書よりも遥かにリアルで実践的なので、そこから得られる教訓を追体験して、予行演習するのに最適だと言います。テキストは以下の通りです。

第一章 いかに組織を生き抜くか = 夏目漱石『坊ちゃん』『門』
第二章 人事の魔力=城山三郎『官僚たちの夏』
第三章 極限のクライシス・マネジメント=山崎豊子『不毛地帯』
第四章 忠臣蔵とアイデンティティ=『忠臣蔵』
第五章 軍と革命の組織学=野間宏『真空地帯』、五味川純平『戦争と人間』
第六章 昭和史に学ぶ=『小説 日米戦争未来記』
第七章 女性を縛る「呪い」=白石一文『私という運命について』
第八章 生活保守主義の現在=高橋和巳『我が心は石にあらず』、『逃げるは恥だが役に立つ』、『東京タラレバ娘』、村田紗耶香『コンビニ人間』
第九章 現場で役に立つ組織術=佐藤氏の経験

とにかく示唆に富んでいて、組織に属する人には思い当たるフシが幾つもあるでしょう。第六章にある以下の記載については、深い納得が得られるのではないでしょうか。

会社でも役所でも、組織が危なくなると曖昧な指示が増えます。「うまくやれ」とか「工夫しろ」と言われたら危ない。九割方、下が責任を被せられると考えたほうがいいでしょう。
(中略)
「うまくやれ」型組織が行き着く先は、「現場の暴走」です。そもそも上が「工夫しろ」「うまくやれ」と丸投げしているのですから、いざという場面で統制がきくはずがありません。(P155)

私は本書を読んで、自分が「組織に調和できない人間」ということを再認識させられました。これはもう確信レベルの気づきです。組織人としての正しい処世術とは真反対な行動を取ってしまう性分なのです。これまでに自分の身にふりかかってきた不都合な現実は、まさに自業自得だったと納得しました。書物に出てくる事例は、全部自分の問題として受け止めました。

世に佐藤氏の著書は多数溢れていますが、どの書物でも、色々なテーマについて深く語り尽くすことができる知性と文章力には毎回本当に感服します。本書も一気に読み切らせていただきました。ちょっと真似できないかな、という諦めはありますが、取り入れていきたい知恵です。


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