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第73回男子・第34回女子全国高等学校駅伝競走大会 観戦記

本日2022年12月25日に、京都で全国高校駅伝競走大会が開催され、女子は長野東(長野)が初優勝、男子は倉敷(岡山)が大会新記録で四年ぶりの優勝を飾りました。

それぞれ47チームの高校生ランナー達が競った女子の第34回(10:20~)、男子の第73回大会(12:30~)を、駅伝観戦歴40年を超えるベテランの私が振り返ってみます。

【第33回女子】

下馬票では実力伯仲で混戦の予想でした。昨年に続いて連覇を狙う仙台育英(宮城)、絶対的な外国人留学生エースを擁する神村学園(鹿児島)、毎年上位に顔を出す立命館宇治(京都)、大阪薫英女子(大阪)の近畿勢が注目されています。

第1区6.0km(たけびしスタジアム京都~衣笠校前)

前半は昨年優勝・仙台育英のエース、杉森選手を中心に、全国大会で上位を占めた有力選手が大集団を形成して進みます。徐々に人数が絞られていく展開の中で、区間賞は、残り300mで抜け出した大阪薫英女の水本選手が獲得しました。

2位には仙台育英、3位には立命館宇治の山本選手、4位には、長野東の名和選手が僅差で続きました。優秀候補の一角、神村学園は、田島選手が途中までいい位置につけていたものの中継手前でアクシデントに見舞われて失速し、32秒差の12位と今年も出遅れる結果となりました。

区間賞 水本佳菜(大阪薫英女子3年・大阪)19分20秒

第2区4.0975km(衣笠校前~烏丸鞍馬口)

2位でタスキを受けた、仙台育英の外国人留学生、ジェロップ選手(1年)が、前半から積極的に飛ばして首位を奪取すると、そのままハイペースで後続を引き離し、3区中継時には2位に上がった長野東との差を13秒差へと広げました。3位は立命館宇治、4位には山田が続きます。区間賞は後方から11人抜きを演じた世羅のワングイ選手が獲得しました。

区間賞 ローズ・ワングイ(世羅1年・広島)12分31秒

第3区3.0km(烏丸鞍馬口~北大路船岡山)

首位の仙台育英は、長岡選手(1年)が後続に詰め寄られたものの、しっかりと首位をキープしました。立命館宇治の実力者、細谷選手の区間賞の力走で3秒差の2位に進出してきました。3位には長野東が粘り、4位には白鵬女が上がってきました。昨年とは違い接近の混戦レースの展開になってきました。

区間賞 細谷愛子(立命館宇治3年・京都)9分41秒

第4区3.0km(北大路船岡山~西大路下立)

仙台育英は、この区間に昨年優勝メンバーの渡邉選手を起用。昨年に続く区間2位の好走で、佐藤選手の区間賞の走りで2位に上がった長野東に13秒差をつけ首位を堅持しました。3位に立命館宇治、4位に大阪薫英女、5位に白鵬女と続きます。

区間賞 佐藤悠花(長野東3年・長野)9分18秒

第5区5.0km(西大路下立売~たけびしスタジアム京都)

連覇を狙う仙台育英のアンカー、細川選手(1年)を、今年は最終区にまわった長野東のエース、村岡選手が軽快な走りでじわじわと追い上げていきます。3㎞過ぎで逆転するとそのまま差を広げる危なげない走りで、1時間7分37秒で初優勝のテープを切りました。(区間3位)

仙台育英は、連覇ならず。神村学園は、1分15秒差の7位でタスキを受けた、注目のカリバ選手(29年)が区間賞の走りで猛追したものの、3位まで進出するのが精一杯でした。4位には健闘の立命館宇治、5位には過去最高順位を更新した白鵬女、6位は大阪薫英女となりました。

区間賞 カリバ・カロライン(神村学園 3年・鹿児島)15分09秒

勝手に寸評

優勝 長野東(長野)1時間07分37秒
2位 仙台育英(宮城)1時間07分51秒
3位 神村学園(鹿児島)1時間08分03秒
4位 立命館宇治(京都)1時間08分12秒
5位 白鵬女(神奈川)1時間08分32秒
6位 大阪薫英女(大阪)1時間08分42秒
7位 筑紫女学園(福岡)1時間09分18秒
8位 興譲館(岡山)1時間09分34秒

前半から好位置につけて終始上位でレースを進めた長野東の鮮やかな逆転勝ちでした。過去2年連続1区で好走した実績があり、全国トップレベルの力を持つエースの村岡選手をアンカーに配する作戦がズバリ的中し、先行逃げ切りを狙った仙台育英の連覇を阻みました。

強力な外国人留学生抜きでの初優勝は、価値があります。チームの礎を築いてきた名将・玉城監督を引き継いで2020年に就任した横打監督の的確な采配が光ったレースでした。

【第73回男子】

男子も上位陣の実力伯仲で、混戦が予想されており、都道府県予選最高タイム(2時間3分14秒)をマークしている倉敷(岡山)、11月にトラックの5000mで驚異の高校新記録(13分22秒99)を樹立した吉岡選手を擁する佐久長聖(長野)、地区大会でも好タイムを出している西脇工業(兵庫)、埼玉栄(埼玉)、八千代松陰(千葉)、仙台育英(宮城)あたりが注目されます。

第1区10km(たけびしスタジアム京都~烏丸鞍馬口)

外国人留学生の起用が禁止されており、高校長距離界の日本人トップランナーたちが顔を揃える「花の1区」には、今年も豪華メンバーが揃いました。都大路の1区は、前半にだらだらと上り坂が続く難コースで、7㎞過ぎからのペースアップによる競り合いが見所です。

昨年もスタートから飛び出した西脇工の長島選手が、今年も単独で飛び出します。昨年よりは余裕を感じさせる走りながら、追う後続集団のペースがなかなか上がらず、一時は30秒近く差を開き、独走状態となります。

7㎞を過ぎて、ようやく後続集団もペースアップして差をつめはじめたものの、昨年より力を増している長島選手は、快調なペースを刻んで最後まで押し切りました。目標の28分30秒台は出せなかったものの、念願の区間賞を獲得しました。意外にも、高校駅伝界の名門・西脇工の1区ランナーの区間賞は史上初です。

19秒差の2位には佐久長聖・永原選手が入り、21秒差の3位には、途中転倒のアクシデントがあった八千代松陰・綾選手、22秒差の4位には埼玉栄・小山選手と続き、優勝を狙う倉敷・南坂選手は、23秒差の5位発進と射程圏で中継しました。

区間賞 長島幸宝(西脇工3年・兵庫)29分11秒

第2区3km(烏丸鞍馬口~丸太町河原町)

2区は下り基調の短い3kmのスピード区間。スピードランナーが起用されます。

首位で襷を受けた西脇工の小田選手は快調に飛ばし、2位の佐久長聖・濱口選手に11秒差へと詰められたものの、がっちりと首位をキープしました。倉敷が3位に上がり、以下、八千代松陰、埼玉栄と続きます。

後続では、小林の服部選手が11人抜きを演じて区間賞を獲得しました。

区間賞 服部哩旺(小林3年・宮崎)8分7秒

第3区8.1075km(丸太町河原町~国際会館前)

3区は、上り基調の8.1075km。力のある外国人留学生ランナーの爆走などで、チーム順位の変動が激しくなる区間です。

2位で襷を受けた注目の佐久長聖・吉岡選手が、最初の1㎞を2分30秒台で突っ込み、西脇工・藤田選手をあっさりと逆転します。ところが、後方から倉敷・サムエル選手が区間記録を上回るペースで追い上げ、中間点付近で首位を奪取します。そもまま、快調にピッチを刻み、22分30秒の区間新記録で4区へと中継しました。抜かれた吉岡選手も、昨年洛南・佐藤選手のマークした日本人区間最高を19秒も更新する22分51秒の好タイムで走破し、5000mの日本人高校記録保持者の貫禄を示しました。

3位には、昨年もこの区間で好走した工藤選手の力走で八千代松陰が浮上し、留学生が走った大分東明、仙台育英が4位、5位へと進出してきました。首位だった西脇工は、6位まで順位を下げました。4区中継時点で、1時間00分14秒と高校最高記録を上回っています。

区間賞 サムエル・キバティ(倉敷2年・岡山)22分30秒=区間新

第4区8.0875km(国際会館前~丸太町寺町)

3区を逆走する4区8.0875㎞は、下り基調のコースで、スピードが自慢の準エース級の選手が起用される傾向があります。

首位をいく倉敷・桑田選手は、昨年もこの区間を担当した経験を活かし、巧みなレース運びを見せました。追ってくる5000m13分台ランナーの佐久長聖・山口選手に前半は詰め寄られたものの、中盤以降にペースアップして突き放し、区間賞を獲得する殊勲の走りを披露しました。5区中継では、差を29秒へと広げました。

八千代松陰の期待の1年生、鈴木選手が1分25秒差の3位を守りました。4位仙台育英、5位西脇工とトップとの差は2分以上に開き、残る区間の実力を考えると、倉敷と佐久長聖の優勝争いの様相になってきました。

区間賞 桑田駿介(倉敷2年・岡山)22分48秒

第5区3km(丸太町寺町~烏丸紫明)

2区を逆走する上り基調の短い3km。優勝を争うチームであれば、この最短区間にも5000m14分台前半の持ちタイムを持つ好ランナーを起用してきます。

逃げる倉敷の田坂選手は、前半から力強い走りで区間3位にまとめ、追ってくる佐久長聖・長屋選手との差を31秒へと僅かながら広げました。3位は変わらず、八千代松陰。埼玉栄が、松井選手の区間賞の快走で6位から4位に進出してきました。

区間賞 松井海斗(埼玉栄2年・埼玉)8分39秒

第6区5km(烏丸紫明~西大路下立売) 

近年勝負の行方を左右する重要区間になっている6区の5㎞。前半の約3㎞が上り、以降は一気に下るチェンジ・オブ・ペースの難しいコースです。

首位を走る倉敷は、昨年もこの区間を経験している菱田選手が、前半から積極的に飛ばしました。2位・佐久長聖の篠選手も後半に逆襲したものの、7区中継での差は、31秒のままです。倉敷には、大会記録更新の期待が俄然高まります。

3位八千代松陰、4位埼玉栄、5位仙台育英、6位西脇工、7位洛南、8位学法石川が、ほぼ単独走の状態で続き、8位と9位大分東明との差は39秒となり、今年の入賞争いは勝負あった感じです。

区間賞 高橋康之介(学法石川3年・秋田)14分37秒

第7区5km(西大路下立売~たけびしスタジアム京都)

最終7区は全体的に下り基調の5km。優勝を争うチームは、最後のトラック勝負を想定して、ラストの斬れ味があるスピードランナーを起用してきます。

先頭を走る倉敷は、5000m 14分08秒の実力者、檜垣選手で盤石の逃げ切り体制です。追う佐久長聖のアンカー、松尾選手も1500mを得意とするスピードランナーながら、差は詰まりません。檜垣選手は終始安定した危なげない走りで、高校国内国際最高記録(2時間1分18秒)を上回る2時間1分10秒でテープを切りました。2位の佐久長聖も、昨年洛南がマークした日本高校最高記録(2時間1分59秒)を更新する2時間1分57秒でフィニッシュし、力を示しました。

区間賞 田中愛睦(八千代松陰3年・千葉)14分13秒

勝手に寸評

優勝 倉敷(岡山) 2時間1分10秒=高校新・大会新
2位 佐久長聖(長野) 2時間1分57秒=日本高校最高
3位 八千代松陰(千葉) 2時間2分18秒
4位 埼玉栄(埼玉) 2時間3分30秒
5位 仙台育英(宮城) 2時間3分51秒
6位 西脇工(兵庫) 2時間4分16秒
7位 洛南(京都) 2時間4分37秒
8位 学法石川(福島) 2時間4分46秒 

高校生ランナーのレベルアップ、選手全体の底上げが進んでいることを印象付ける大会でした。今年はレースコンディションにも恵まれ、高校新記録、大会新記録、高校日本最高記録が誕生しました。

高校生トップを争うようなランナーであれば、5000m13分台で走るのがもはや当たり前となってしまいました。優勝争いでは、3区に登場する強力な外国人留学生ランナーの存在は依然として大きいものの、1区、4区の長距離区間でも区間上位で走れる日本人エースが不可欠であることを、今大会の倉敷は証明しました。外国人留学生がメンバーにいない佐久長聖、八千代松陰、埼玉栄、西脇工、洛南、学法石川の6校が8位入賞を果たしており、選手層の厚さが問われる状況です。3区を22分台で走破した佐久長聖・吉岡選手の果敢な走りは特筆されます。

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