見出し画像

『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を観る

私の部屋から歩いていける映画館での上映終了が迫っていた為、仕事終わりの昨夜、レイトショーで、『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を観てきました。本日は、2023年最初に映画館で観たこの作品の鑑賞記です。

ディーヴァの一生

成功した女性歌手、卓越した技巧とカリスマ性、スター性のある歌姫を、イタリア語のディーヴァ(diva)と呼びます。ホィットニー・ヒューストン(Whitney Elizabeth Houston、1963/8/9- 2012/2/11)がその系譜の中に位置する存在であることに、疑問をさし挟む人は少ないでしょう。

好き嫌いは別として、80年代から90年代の音楽シーンにおいて、彼女が燦然と輝く存在であり、残した鮮烈な印象と輝かしい功績は、永遠に否定することはできません。彗星の如く現れ、人種の壁を溶かし、"The Voice"と形容された類稀なる歌声と歌唱力で世界中の人々を魅了したのが、ホイットニー・ヒューストンです。本作は、彼女の波乱万丈の人生を描いた映画です。絶頂期を過ごした後は、相次ぐスキャンダルによって転落と挫折を経験した彼女の人生は浮き沈みの激しいものでした。2012年の突然の悲劇的な死から10年の時を経て製作された映像作品を、私は是非とも観たいと思っていました。

監督は、ケイシー・レモンズ、脚本は、アンソニー・マクカーテンが担当しています。ホイットニー・ヒューストン役をナオミ・アッキー、彼女を見い出し、寄り添ってスターへの階段を駆け上るお膳立てをした敏腕プロデューサー、クライヴ・デイビスをスタンリー・トッチが演じています。彼女の運命に多大な影響を及ぼす人物たち…… 母のシシーにはタマラ・チュニー、親友のロビンにはナフェッサ・ウィリアムズ、夫のボビー・ブラウンにはアシュトン・サンダースがキャストされています。

伝説の歌唱シーンの数々で構成

事前情報はシャットアウトし、真っさらな状態で観ました。彼女の歩んだ波乱に富む48年の人生に、どの角度から、どのようにメスを入れているのか、とても興味深かったからです。

彼女が歌手として全盛期を誇った頃の伝説的な歌唱シーンは、確実に取り入れてくるんだろうな、とは想像していました。ホィットニー・ヒューストンが歌う楽曲は、圧倒的な歌唱力によって、どれも彼女自身の世界観に染め上げられ、たとえ他人の作品であったとしても彼女以外にあり得ない唯一無二のものになってしまいます。よくも悪くも全ての曲がホィットニー節全開になっています。要所要所に、「私は歌手であり、歌うことが人生のすべて」という趣旨のセリフが吐かれます。そういう難しさを受け止めて、主演のナオミ・アッキーは、特徴を捉えて好演していたと思います。

冒頭のステージシーンからの巻き戻しで、物語が進行していくのは、『ボヘミアン・ラプソディ』と同じ構成です。冒頭とラストに、ハイライトとなる歌唱シーンを置き、真ん中は、時間軸通り直線的に進んでいきます。(中盤にラストに向けて引かれてある伏線があります)彼女の全盛期をオンタイムで知っている私には、追いやすい構成でした。

『史上最高の国家斉唱』と評されることもある1991年スーパーボールでの熱唱シーンは、素晴らしい演出になっていたと思います。私が彼女の歌唱で一番好きな『グレイテスト・ラブ・オブ・オール Greatest Love of All』は、彼女が世に出るきっかけになった場面に使われていました。

いわゆるスターもの映画について

私は、自分ではあまり意識していなかったのですが、ひとりの人物を描いた映画作品が好きなようです。主人公の視点から描かれ、展開する物語に共感しやすいタイプのようです。

個性の強いアーティストを主人公にした作品は、光と影のコントラスト、華やかな外面とドロドロとした内面の葛藤を際立たせ易く、面白いと感じられる場面が多いと感じます。よく知られている事件を覆すような新解釈や、全ては暴露されていないにせよ、スターが隠し持っていた裏側を垣間見る面白さがあります。

ホィットニー・ヒューストンは、全てを兼ね備えた稀なアーティストだと思っていました。生まれ育った環境も貧困や悲惨とは無縁で、天性の才能と恵まれた英才教育によって、見つかるべくして見つかり、世に登場したエリートだったように思っています。一般的な倫理観に抵触するヤバいシーンは多々あるものの、人間的に倒錯していた人物のようには描かれていません。誇りと信仰と家族を大切にする気高い人間である彼女が、自身の信念と決断によって手繰り寄せてしまった運命は、残念ながら苛酷だった、という思いを強くしました。

この記事が参加している募集

映画感想文

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。