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円安の真因を探る

行き過ぎた円安(と信じ続けてもう3カ月が経ちましたが...)は、なかなか是正される気配がありません。それどころか、1USD=161円を突破し、状況は益々酷くなっているように感じられます。

流石にこういう嘆きを続けていても、前を向けないし、何か分析した記事はないものだろうか…… と仕事の合間に探っていたら、なかなか興味深い財務省の報告書 ~「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書~ が昨日の夕方に公開されていました。一応、報告書の内容を熟読してみたので、『円安の真因を探る』というテーマを立てて、ひとまず私見をまとめてみます。

第一印象は?

最初に、この報告書を読んだ私の個人的な意見を言うと……

● 診断は極めて的確で、納得感がある。
● その診断内容を踏まえた処方箋(提言)は、世界の大きな潮流に逆らうような新自由主義的施策が随所に盛り込まれており、理解に苦しむ。
● 財務省は、過去10年間冷や飯を食わされたとの恨みつらみがあり、何が何でも自らの信念に沿う路線に世論を回帰させたいのだろう。

「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書 よりの私見

診断は的確!

今の円安は、日米の金利差だけでは絶対に説明不能です。報告書の、円安は構造的な問題であり、これまでの日本の歩んできた結果である、という見立てには100%同意します。デフレ脱却を最優先に、金融緩和して必死に市場に注ぎ込んだ資金の大半は、期待成長率が劣後する日本への設備投資や労働者の賃上げには使用されず、対外直接投資に化けて海外流出し続けた…… というのは、誰もが感じるところでしょう。

その結果、対外直接投資の比率が拡大しているので、日本には還流できない仕組みになってしまっています。日本企業にしてみれば、人口減少に歯止めがかからず、規模が萎み続けるショボい日本市場に頼っていてはジリ貧なので、生き残りをかけて海外進出を加速させざるを得なかったのです。産業空洞化の責任を日本企業になすりつけることは、ナンセンスでしょう。

問題は、この円安局面をチャンスとして、製品輸出で外貨を荒稼ぎできるような産業が、非常に少なくなっていることでしょう。日本のお家芸の一つであった家電製品は、既に輸入超過です。PanasonicやHitachiの商品では、Made in Japanよりも、Made in MalaysiaやMade in Chinaの方が、高機能で、品質がいいという話も聞きます。こんな由々しき状況になって久しく、待望の円安局面が到来したというのに、製品輸出でテイクチャンスできていないのが実態です。

その意味で、報告書はかなり踏み込んで、冷徹に今の日本の状況を俯瞰している、と感じました。

処方箋は…… ??

で、どういう打ち手を提言しているのか、と辿っていくと、「?」のオンパレードでした。産業助成の為の補助金や財政出動を「悪」と考えているのか、ゾンビ企業は潰すべき、もっと新自由主義を徹底して競争を促すべき、という空気感が漂っています。トリクルダウンなんて起こらないことは、この10年ではっきりしたのに、大谷選手並に世界をリードする先進的企業を待望しているような論調です。

日本経済を構成しているメンバーが、選び抜かれた精鋭ばかりなら、それもいいかもしれませんが、今の日本は、希望と活力を喪い、無常観を漂わせる老いぼれメンバーの方が主流です。報告書が思い描くような活気のある光景は、世の中に存在しません。従って、提言はかえって闇を拡大する劇薬になりそうな気がしてなりません。

教育の高度化とか、雇用流動化とか、自前のIT化とか、目の前の惨状をなんとか打破したいのは理想ですが、周回遅れが甚だしい状況で、世界の最先端分野でトップに返り咲く未来を目指そう、と鼓舞されても…… と虚しさを感じてしまいました。

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/bop/20240702.pdf


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