『世界インフレの謎』を読む
昨日は体調不良からの寝落ちによって連続投稿記録をストップさせてしまいました。凡ミスであり情けない気分ですが、めげずに前を向いて歩きます。再開初日となる本日は、渡辺努『世界インフレの謎』(講談社新書2022)の第二弾の読書感想文を残します。今回は、第5章 世界はインフレとどう闘うのか」に焦点を当てます。
久々のインフレ体験
最近まで20年以上、インフレーション(Inflation)を実感する機会はありませんでした。それは数字でも証明されていて、日本で暮らしている大半の人の実感は、物価と賃金に下方圧力が働き続けるデフレーション(Deflation)だったと思います。賃金は上がらないもの、物価は上がらないもの、というのが、常識のように刷り込まれていました。
著者の渡辺氏の書かれる文章は、大変読み進め易い印象があります。今世界のエコノミストや経済学者たちが、経済状況をどう見ているのか、急激なインフレに直面してどのように対処しようとしているのか、を簡潔に俯瞰するのに最適な書でした。
個人的には、労働収入は上がる見込みがないので、後数年はデフレ気味に進んでくれた方がありがたいのですが、準備を怠ることはできません。
特殊な日本の状況
「第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」ーデフレという慢性病と急性インフレ」を読むと、日本が抱えている構造的な問題がわかります。渡辺氏は、日本だけが、価格(物価)と賃金が凍りついて動かない、と表現しており、
と分析されています。そして、世界がこれだけの急性インフレに襲われても、日本ではそこまでの状況が起こらず、本格的な凍結には至らない公算が高そうな気配です。結果として、日本の課題である衰退産業から成長産業への資本や労働への移動が起こらない可能性が高いような気がします。
私は、インフレは手放しで歓迎されるべきものではない、と思っています。基本的にはインフレは嫌いで、商品の品質性能や機能性、サービスの質は向上しないのに、価格だけが上がり続ける状況には何とも言えない気持ち悪さを感じてしまいます。そして、どうやらこの感覚が日本人の大多数のようなのです。
インフレは、「インフレ予想で起こる」というのが、渡辺氏の説明です。これまでインフレ予想を高めようと、政府・日銀が躍起になって大胆な政策を打ち続けて来たのに、殆ど反応してこなかったのが日本です。
スパイラル
注目すべきキーワードは、「スパイラル」です。そこに至るまでの、渡辺氏の丁寧な説明は端折りますが、
スパイラルが起こる他の条件として、①労働市場での需要>供給、②企業の価格決定力、③ライバル企業も人件費増を価格に転嫁してくるという確信、も上げています。条件は整いつつあるように思いますが、どうなるのでしょう。ビジネスでの立身出世や栄達からは完全に距離を置くことに決めている私には、高みの見物です。
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