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金曜日の随筆2024:読書人・ゼロ時代

また、運命を動かしてゆく金曜日が巡って来ました。2024年のWK26、水無月の参です。今週は疲れ気味で、日課にしている毎日noteを二回も寝落ちで飛ばし、一回は時間切れの送りバント投稿になってしまいました。本日の金曜日の随筆2024は初心に帰り、私がこれまで大切にしてきた読書についての考察を深めたいと思います。自分が読書人を目指すことを志す以前に読んで、感動した三冊の本を考察します。いわば、『読書人・ゼロ時代』の読書体験を掘り下げてみます。

読書人のスタートは18歳からですが……

私の読書人を目指すきっかけは、大学入学後の18歳の春、通学電車の中での思いつき~「そうだ、賢明&懸命に読書して、どこに出ても恥ずかしくない程度のインテリ(知識人)になろう!」〜でした。

とはいえ、これを決意する以前に本を全く読んでいなかったか、というとそういう訳でもなく、小学生・中学生・高校生時代にも、冊数は少ないながら、名作と言われる本を読んできていました。私の『読書人・ゼロ時代』に読んだ忘れ難い三冊を抜き出し、読書感想文を記します。

① アラン・シリトー『長距離走者の孤独』

真っ先に思い出すのは、中学三年生の夏休みの読書感想文に選び、優秀の表彰状をもらった、アラン・シリトー作・丸谷才一訳『長距離走者の孤独 The Loneliness of the Long Distance Runner』(新潮文庫1973)です。

本作は、英国労働者階級を代表する小説家で「怒れる作家」として知られるアラン・シリトー(Alan Sillitoe 1928/3/4-2010/4/25)の代表作です。本書は、成人してからも何度も読み返しました。神戸市の下宿、草加市の独身寮、三鷹市の社宅、駐在地のアメリカ、帰国後に住んだ浦安市の社宅、転勤で住んだ神戸市の社宅、次の転勤で移り住んだ横浜市の社宅…… 当時320円で買ったぼろぼろの文庫本を大切に持ち歩きました。二回目以降の読み返しでは、ティーンエイジの初読時ほどの衝撃は感じなかったものの、今でも不朽の名作に違いないと思っています、私の価値観の一角を形作った一冊です。15歳だった私が、夏休みの読書感想文用に、よくこの文庫本をジャケ買いしたな、と感心します。40年前に戻って、自分を褒めてあげたいくらいです。

長距離走に非凡な才能を示す非行少年スミスが、偽善的な大人の象徴である感化院の院長を、最後の最後に欺くのが最高に痛快です。自分には無限の可能性がある、と密かに信じているどの世代の男の子にも刺さる小説だと思います。

② リチャード・バック『かもめのジョナサン』

二冊目は、リチャード・バック作・五木寛之訳『かもめのジョナサン Jonathan Livingston Seagull』(新潮文庫1977)です。

この本を読んだのは、高校二年生の夏休みです。当時陸上競技部員だった私は、自転車を漕いで30分近くかかる陸上競技場まで練習に通っていました。数日前にジャケ買いしたこの文庫本を、その日の練習が始まる前に更衣室のベンチに寝転がって読み始めたら、止まらくなってしまいました。練習を終えた後、全速力で自宅に帰り、部屋で読み耽った一冊です。

著者のリチャード・バック(Richard Bach 1936/6/23-)が、1970年に発表した処女作です。最初は話題にならなかったものの、折からのヒッピームーブメントの波に乗り、1972年以降、空前絶後のヒット作になりました。バックが飛行機乗りだった為、同じく寓話的小説の傑作である『星の王子様 Le Petit Prince/The Little Prince』の作者であり、同じく飛行家であったサン=テグジュペリ(Antoine Marie Jean-Baptiste Roger, de Saint-Exupéry 1900/6/29-1944/7/31)とセットで記憶されるべき人物かもしれません。

主人公はかもめ。スピードの魅力に取り憑かれた若きジョナサン・リヴィングストンの成長物語でもあり、成熟の物語でもあります。大ヒット作品『スターウォーズ』とどこか似た展開もあって、私は夢中になりました。伝説のかもめとなったジョナサンに憧れ、稀有の才能たち、フレッチャー、アンソニーら後輩たちへの接し方、かけることばも示唆に富んでいて、物語もよくできている…… と思います。今読んでもエンタメとして最高の一冊だと思います。

③ 三島由紀夫『潮騒』

三冊目は、三島由紀夫『潮騒』(新潮文庫)です。

三島由紀夫(1925/1/14-1970/11/25)は、自分が『読書人宣言』をした直後から、貪り読んだ著名作家です。『読書人宣言』する前に唯一読んでいた小説が、この作品でした。それは三島体験として良かったと思います。『金閣寺』を最初に手に取っていたら、読み通すのに挫折したかもしれません。

通算5回も映画化された作品ですが、私の記憶には、山口百恵が宮田初江、三浦友和が久保新治を演じた東宝1975年版が残っています。私の勝手な憶測ですが、日本文学史上最高の恋愛小説、純愛小説の一つだと思います。所々難しい表現もあったものの、瑞々しい筆致に惹き込まれました。

初めて読んだのは、中学2年生の夏か秋の筈ですが、この本はそれ以来一度も再読していないような気がします。部分部分を拾い読みしたことは、数回あると思いますが、トータルで読み通した記憶がありません。それなのに、本作を日本文学史上No.1の純愛小説と認定できるのは、初読の印象が余りにも強烈だったからに他なりません。現代の少年・少女が、読んでも恥ずかしくない作品なので、10代の内に読むことを強くお奨めします。

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