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あの人が教えてくれるもの③:チェ・ゲバラ

あの人が教えてくれるもの、第3回はチェ・ゲバラです。


真の革命家と言われるカリスマ

チェ・ゲバラ、本名エルネスト・ゲバラ(Ernesto Guevara)は、1928年6月14日、アルゼンチン第二の都市ロサリオに生まれ、1967年10月9日反政府活動中のボリビアで政府軍に捕らえられて銃殺され、39歳の波乱万丈の生涯を閉じています。

ゲバラといえば、フィデル・カストロ(Fidel Alejandro Castro Ruz 1926/8/13-2016/11/25)をリーダーとして成就したキューバ革命の英雄・立役者の一人です。キューバ人ではなく、アルゼンチン人です。ゲバラは、その生涯を、帝国主義勢力の打倒、独裁政権打倒の革命に捧げ、徹頭徹尾『反権力』を貫いた人です。

ゲバラ自身が優れた著述家であり、多数の書簡やゲリラ戦闘に従事した日々の日記が残されています。彼の生き様、人柄、思想の共感者は世界中におり、死して50年以上経過した今もカリスマ的人気があります。

彼に関連する著書は数多く出ています。私の種本は三好徹『チェ・ゲバラ伝 増補版』(文春文庫 2014年)です。私のゲバラ理解はこの本をベースにしていることを記しておきます。

イコンとしてのチェ・ゲバラ

世に「チェ・ゲバラが好き」と公言する人は少なくありません。どのような理由から「好き」と言っているかは人それぞれですが、概ね共通している感覚として、ゲバラが「カッコいい」ということがあります。

● 革命家って「カッコいい」
● 喘息というハンデ持ちなのに屈強の戦士なのが「カッコいい」
● ワイルドな風貌のイケメンで「カッコいい」 
● 医者資格を持っていて、読書家でインテリなのが「カッコいい」
● 交渉上手で仕事が抜群にデキるのが「カッコいい」
● 裕福な名門家系を捨てて革命活動に殉じた生き様が「カッコいい」

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チェ・ゲバラ

「カッコいい」に憧れ、目指すのは肯定されていい、と思います。ゲバラがあらゆる意味において「カッコいい」存在であり、「カッコいい」ものが好きな人達のイコンであることに私は一点の疑問を差し挟む気はありません。ゲバラのカッコよさのどこを切り取るかは、本人の自由です。

ゲバラの代名詞で、憧れる人も多い無精髭やタバコには、『革命家』生活で身に付けた実用的理由 ーゲリラ戦で何日も野営する際に髭やタバコが虫除け効果になるー があります。南米のジャングルに生息する蚊に噛まれた痒みと痛みは想像を絶するそうです。決してファッション目的で髭を生やし、タバコを吸っていた訳ではありません。

私が「カッコいい」と思う理由

私も、ゲバラを「カッコいい」と思う一人です。その理由は、三好氏が書いた「序にかえて」の冒頭部分に集約されているように思います。

人が革命家になるのは決して容易ではないが、必ずしも不可能ではない。しかし、革命家であり続けることは、歴史の上に革命家として現れながらも暴君として消えた多くの例に徴するまでもなく、きわめて困難なことであり、さらにいえば革命家として純粋に死ぬことはよりいっそう困難なことである。

ゲバラを理解する上で、彼が『真の革命家』だったことは絶対に外してはならない点です。「革命には勝利か死しかない」冷徹な世界です。

『革命家』とは職業ではなく、行動であり、生き方です。いつでも、誰でも、『革命家』を名乗ることはできます。たとえ周囲から強く反対されても自分が信じたものに命を張り、日々命を削る生活に身を投じて行動し、虐げられて弱い立場の人達を救う人は、『革命家』を名乗る資格があります。

但し、『革命家』であり続ける人は稀です。『革命家』だった過去の実績や称号や名声を利用しながら、最終的には『指導者』の地位に収まり、『独裁者』へと変貌していきます。闘争に勝利して政権奪取した後に腐敗化していく『かつての革命家』が多いことは、歴史が証明しています。そして、理念と可能性を信じて革命行動に協力した貧しい民衆の生活は結局のところ何も変わらない…… という事例が、世界には無数にあります。

チェ・ゲバラは、国民を導く指導者としても、行政官としても非凡な才能を有していました。同志や国民からは、社会主義キューバの発展と充実の為に改革を進める指導者の地位に収まることを期待されていました。

それなのに、ゲバラは、キューバ革命で得た地位も名誉も最愛の家族も投げ棄てました。再びコンゴ、ボリビアの反政府組織の一兵士として闘い、敗れて戦場に散る、という生き方は、ちょっと常軌を逸しています。私がゲバラを「カッコいい」と感じるのは、周囲の期待を裏切ることになっても自分の信念に忠実に『真の革命家』を選択したことです。

「カッコいい」で済まされない凄みも知っておきたい

ゲバラは、自分が味方と考える同志や部下、搾取に苦しむ弱者に対しては熱心に目を配る一方、自分が敵と位置付けた相手には一切妥協することをよしとしない人だったようです。帝国主義的な搾取や欺瞞には徹頭徹尾抵抗し、生涯目の敵にしたといいます。

ゲバラはゲリラ戦の理論家・実践家であり、(条件付きの)暴力を肯定する危険思想の持ち主です。理想主義的な社会主義・共産主義寄りの政治思想に親近感を抱き、現代で主流の価値観とはかけ離れている感もあります。

✔ 敵を倒すことには躊躇のない戦士だった
✔ 考えの違う相手を受け容れることはなかった
✔ 自分の信念に生きることを優先し、家族を置いて闘争に旅立った
✔ 革命とは行動である、反帝国主義打倒に暴力は正当化される

こういった考え方や行動まで「カッコいい」と、私は言えません。

ゲバラの今日的人気は、彼の行動を支えた根幹の部分が換骨奪胎され、現代的文脈に置き直され、作為的に持て囃されているきらいがあります。

2013年には、『エルネスト・チェ・ゲバラの人生と作品:ボリビアの活動日記に書かれた青年・青春期のオリジナル手稿』記録集(キューバ/ボリビア共通)がユネスコ世界記憶遺産に登録されました。何となく、国際政治力学的なキナ臭さも感じます。ゲバラの評価の裏にあるものも、きちんと把握しておく必要がありそうです。

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