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『ストロベリーショートケイクス』を観る

本日、仕事はお休みです。休日には意識して外へ出かけるようにしているのですが、降雪予報を受けて、部屋に巣籠もり中です。信州の厳しい冬にインドア生活の充実も欠かせません。本日は、amazon primeで2006年公開の映画『ストロベリーショートケイクス』を観た映画感想文です。ネタばれしますが、ご了承下さい。

東京を強く意識させられた作品

魚喃キリコ の 漫画 『strawberry shortcakes』の映画化作品です。最近パワハラ騒動などがあったアップリンク社の製作で、監督は矢崎仁司、脚本は狗飼恭子です。

恋をしたいと思っているフリーターの里子、学生時代の男性に一途に思いを寄せながらクールにデリヘル嬢生活を送る秋代、恋愛依存症気味のOLちひろ、ちひろのルームメイトでイラストレーターとして華やかに活躍しつつも密かに過食症に苦しむ塔子、という四人の女性の東京生活が描かれます。塔子役は作者の魚喃キリコ氏が、岩瀬塔子名で演じています。

この映画の舞台は東京です。登場人物はそれぞれに屈折して、心に闇を抱えています。先日読み終えたばかりの麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』の登場人物たちをイメージしました。それぞれの東京物語、という印象を持ちました。

また、女性の感受性、女性目線を強く前面に出している作品だと感じました。男性の登場人物は全て、観ているこちらの方が嫌悪感を感じる胸クソの悪い人間に描かれています。主人公四人のうちの誰かに自分の境遇や思いを重ねて、共感する女性は少なくないように思います。

印象的な小道具たち

主人公の四人が繰り広げる群衆劇ではありません。里子(池脇千鶴)と秋代(中村優子)、ちひろ(中越典子)と塔子(岩瀬塔子)とは知り合い同士の設定ですが、基本的に各々のストーリーが単独で展開していきます。

小道具の使い方が印象に残りました。

里子は、偶然拾った奇妙な形の「石」を部屋に飾り、おしりを触られたバイト先のデリヘル店長(村松蝉之介)の死を祈ります。日常の移動には白い「スクーター」を使っています。

秋代は、「棺桶」をベットにして、デリヘル稼業で稼いだお金は、部屋の片隅に無造作に広げた「キャリーバッグ」の中に放り込んでいます。仕事ではきちんとメイクをし、スーツを着込み、クールに振る舞っているものの、口実を作って思いを寄せる男(安藤政信)に会う時だけは、化粧っけもなく、眼鏡をかけ、ラフな格好で、明るいキャラへと変身します。

ちひろは、自分が世間から評価される特筆すべき能力がないことを自覚しており、恋愛命になっています。私服では、いつも似たようなテイストの「スカート」をはいています。相手から告白されて付き合い始めた男(加瀬亮)に依存し、徐々に鬱陶しがられていきます。男の目線で、「美人だし、男受けを意識した振る舞いをしているが、付き合うと中身が乏しくて、つまらない女」という風に描かれています。

塔子は、サバサバしていて、芯の強い女性です。「絵筆」や「ペン」を握るシーンが多く、部屋に居る時は、前に「TO BE A ROCKER」、背中に「NOT TO ROLL」とプリントされたトレーナーを着て仕事をし、絵筆が髪止めの役割をしています。女性からの好感度が一番高いのは、おそらく塔子でしょう。道で拾ったトマト(秋代が投げ捨てたもの)にインスピレーションを得て、渾身を込めて書き上げた「神様」の絵が、編集者の不注意で紛失し、描き直しを命じられた際の出版社の不誠実な対応に、怒りを露わにする場面には、共感する人が多いことでしょう。

登場人物たちは、「タバコ」を吸い、「酒」を飲みます。タイトルでもある「ストロベリーショートケイクス」は、作品の終盤、故郷な町に帰郷したちひろと塔子(どうやら幼馴染のようです)が、子どもの頃からよく食べていたという地元の洋菓子店の苺ショートケーキを砂浜で食べるシーンで登場します。

物語の中の諸々の伏線は見事に回収されていき、砂浜(富山県魚津市と言われる)で空を見上げた里子が、「恋でもしたいっすね」と呟いて終わります。

「死」が随所に盛り込まれている

この作品の隠れテーマの一つは、「死」ではないかと思います。実際、作品の中では色々な形の「死」が描かれています。

ちひろが飼っていたモルモットの死、秋代が飼っていた熱帯魚の死、里子のバイト先の店長の死、といった直接的な死の描写以外にも、塔子が絵筆を焼くシーン、ちひろが上京以来溜めていたという涙を海に捨てるシーン、里子が大切にしている石を、秋代が海に投げ捨てるシーン、など、死によって過去と訣別したり、区切りを付けたり……

後、登場人物たちが歯を磨くシーンが多いことも気になりました。これは、何かのメッセージなのでしょうか? ストーリーを追って楽しむ映画ではなかったので、ちょっとした細部に目を凝らしながら観てみました。

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