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苦労して刷り込んだ恐怖心を解除するのはまだ早いと判断したんだと思う

現状確認 on 2020/5/6

■PCR検査陽性者(=感染者)15,231(前週比+1,655)
■PCR検査実施数 186,343(+52,675)
■有症状者 9,053(+830)
■入院治療必要者 12,080(+691)内確認中 5,101(+704)
■退院者 4,587(+1,400)
■死亡者 521(+145)
 ー 厚生労働省 2020/5/5 12:00時点
参考)日本の人口 1億2,596万人(前年同月比▲30万人)
 ー 総務省統計局 2020/4/1現在(概算値)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連の最新データを追い掛ける熱量が、4月に較べて大幅に下がってきました。緊急事態宣言は2020/5/31まで延長されますが、「やっぱりね」という印象しかありません。

岩田健太郎教授のブログ『楽園はこちら側』の更新はありませんでした。同じくフォローしている山中伸弥教授が提供しているブログを覗いて、私が読み取ったことは以下の通りです。

● 感染症の完全撲滅は未来永劫無理
● 感染症予防ワクチンの開発、治療方法の確立に向けて、成果は上がってきているが、今すぐ発表できる即効性のある解決策なし

BSE騒動を思い出す

今回の一連の対応と反応で、『BSE(牛海綿状脳症)問題』を思い出しました。英国発祥の、いわゆる『狂牛病』問題は、2000年代前半に社会問題化しました。日本でも死者がでています。

2003年末、米国のワシントン州で、飼育されていた牛のBSE感染が確認されました。一足早く2001年に国内飼育牛のBSE感染騒動が起きていた日本では、消費者はBSEに敏感になっていました。

そこへ、これまで安全とされてきた米国産牛肉にBSE懸念が持ち上がったので、「米国、お前もか」と危険を煽る報道が一気に過熱化しました。日本政府は、米国からの牛肉・牛肉製品の輸入全面停止を早々に決定しました。

日本が求めた牛の全頭検査を米国が拒否していたこともあり、この輸入禁止措置はなかなか完全解除されませんでした。この措置で大打撃を受けたのが吉野家で、2004年2月から2008年9月まで看板メニューの牛丼の販売中止に追い込まれたことを覚えておられるかもしれません。

このBSE騒動時、私は米国に居たので、当時の日本の空気感を知りません。しかし、日本の頑なな姿勢にはかなり違和感がありました。私も妻もこれまでとかわらず米国産牛肉を食べていました。ニューヨーク出張の際には、吉野家へ行き、「日本では、食べられなくて可哀そうに」と思いながら、牛丼を食べていました。

周囲の米国人も「(感染疑惑のある)ワシントン州やテキサス州の牛は、(私たちの住んでいる)ミシガン州に出回ってないから大丈夫」と平然と牛肉を食べていました。また、対象牛の全頭検査について「そんなことできる訳ないやろ。危険エリアの牛だけ検査するならまだわかるが、全米で飼育されている牛の全頭検査をやるなんて時間とカネの無駄。日本にいる牛とは規模が違うんだから。」と揶揄する人もいました。

多くの米国人が、日本人の、
● 万に一つのリスクも許容しないという頑なさ、
● 信憑性は二の次で、お墨付き(検査)にこだわる安易さ、
● 例外を一切認めない柔軟性のなさ、

が不思議に映ったかもしれません。

私自身も「多少のリスクは許容して、安くて美味い肉を食べた方が得じゃない?」と思っていました。今回の新型コロナウイルスに対する日本国内の反応を見ると、気質は変わっていないように見えます。

今は自粛の空気が出来上がっているので様子見が正解

仮に私が、緊急事態宣言の延長・解除の意思決定をする立場でも、今の日本を覆う空気感なら「延長」を選択したと思います。ここまで苦労はしたものの、感染症の恐怖の啓蒙活動、医療機関の厳しい状況への理解促進、有名人の死亡や感染した事例、外出自粛要請違反者への社会的非難の高まり、の効果で、「三密厳禁・外出自粛やむなし」の空気感は維持できています。

今は緊急事態宣言を解除する根拠を説明する方が難しいし、支援予算も折角通したし、ここは無理せず時間稼ぎしてから考えよう…… というところではないでしょうか。

経済停滞の責任転嫁先にコロナは最適

「経済どうするんだよ!」という意見は日に日に高まってきそうです。既に企業の倒産や自営業者・生活困窮者の話題もじんわりと出回り始めていて、実際にヤバい状況です。それでも行政サイドは、もっともっと社会的インパクトのある具体事例が続出して、完全に空気感が変わってきてから、解除のカードを切る判断をするのではないでしょうか。

日本経済は2019年時点で停滞していました。そんな状況で予定通りに実行した2019年10月の消費税率アップが悪手だったことの証拠はほぼ整いつつありました。普通にいけば経済的落ち込みを抑えるのは難しいのが、2020年の日本経済の現状認識だったと思います。

そこに新型コロナウイルス問題が首尾よく浮上しました。これを政治的に利用して、経済停滞の規模を極端に下に押し下げ、ドサクサで経済不振の責任をCOVID-19に押し付けてしまえば、失政批判はかわせます。

国際社会の約束事だったオリンピック延期の合意もできたし、経済を一旦どん底まで落としてからV字回復を演出した方がイメージがいい。そのくらいの計算は絶対にありそうです。

今の状況は「非常に日本的だな」と思っています。言葉ではうまく説明できないものの誰もが無視できない「空気」が社会を覆い、日常の個人や集団の行動に支配的な影響を及ぼすいつもの風景です。


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