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《感想文》【働き方をRethinkせよ】牧野正幸+波頭亮

NewsPicksの配信動画『【働き方をRethinkせよ】(前編/後編)』を視聴しました。Rethink Japanは、株式会社NewsPicks Studios代表取締役社長CEOの佐々木紀彦氏(1979-)と経営コンサルタントの波頭亮氏(1957/2/8-)がMCを務める番組です。

私が視聴したのは、【働き方】をテーマに、ゲストのワークスアプリケーションズ創業者の牧野正幸氏(1963/2/5-)と対談したものでした。牧野氏も波頭氏も、その見識に尊敬の念を抱いている人たちです。観終わった後に、いちいちもっともだなあと思う所も多かった半面、心がざわっとするものもありました。正直な感想文を残しておきたいと思います。

感じたのは以下の点です。

① 日本の若年層の最優秀な人材を対象にした議論
② 企業トップにとっての理想人の「働き方」の極意
③ 営業力と製品力を重視している
④ 大企業は「マシン」、変わるべきはベンチャー
⑤ 利益は無視、コミットは踏み倒す
⑥ ふたりとも人の可能性を信じている (人>AIを信じている)

① 日本の若年層の最優秀な人材を対象にした議論

牧野氏も波頭氏も各々の専門分野で卓越した実績を残している人物です。

この動画を視聴し終わって真っ先に思ったのは、働き方を考える対象にしているのが、日本社会でずば抜けて優秀な人間の働き方ではないか、ということです。ビジネス社会で使えなさそうな人間、並の能力しかない人間は、はなから興味の対象にはしていない話しぶりだったし、大企業で10~20年を過ごした企業人に期待していないことは明らかだと感じました。

おそらく、お二人の考えの中には、日本の大企業の人の使い方に否定的で、官僚主義にどっぷり染まった年輩者が、優秀な資質を持つ若い人間を潰してしまっている、結果として日本の国際的地位が急落している、という問題意識が強くあるのでしょう。

企業内の出世競争を勝ち抜いて現在指導的立場にいる人々や自分でビジネスを立ち上げたベンチャー企業経営者、自身の能力を自負する有望な若者に向けて滔々と語られている印象を受けました。穿った見方をすれば、競争社会で勝利して、ポジションを築いている人が主張する論調でした。

私の見立てでは、二人の語る働き方がふさわしい人材は、現在のビジネス社会に適した能力に恵まれた(=二人が優秀と評価する)1~2%の人たちだけでしょう。波頭氏が、対談の後半に語る「目線をグローバルトップニッチに合わせろ」というコメントが象徴しています。そんな価値観が要求されるポジションで仕事できる人はほんの上層部の一握りだよ、というのが私の正直な実感です。

二人の視界には入らない、私も含めた大部分の人々の働き方に寄り添う話は基本出てきません。私個人の人生には参考にならないな、と思いました。実社会では、優秀でないと烙印を押された多数派の人々の怨念・嫉妬は軽視できないと思うのですが……

② 企業トップにとっての理想人の「働き方」の極意

牧野氏の意見は、自身が創設したワークスアプリケーションズでの経営経験から導かれた理論でしょう。洞察は素晴らしいと思うし、結果を出した事例なので信頼度の高い話だとは思うものの、なにぶんn=1の事例を基礎に組み立てられた理論だけに、再現性・汎用性には疑問があります。

誰の為に有益な理論なのか、という冷めた視点でみた時、こみ上げるものがなかった、というのが実感です。企業トップ(社員より数段優れた人物である前提)にとって都合のよい人材の『働かせ方』を説いていた気もします。 

③ 営業力と製品力を重視している

お二人とも、一般的には敬遠されがちな営業という仕事と営業力を評価しています。営業力のある企業、営業力のある人材は底力があり、有用であるという主張は納得です。特にB to Bのビジネスでは有用です。

相手から殴られたり、嫌われたりを怖れないタフな人材は稀少価値が高そうです。優れた営業力を持つ人材の価値は、雇う側のニーズが高く、今後もしばらくは衰えることはないでしょう。

④ 大企業は「マシン」、変わるべきはベンチャー

牧野氏の「ベンチャー」の基準は、「創業者が存在しているかどうか」だと明言しています。「ベンチャー」にも色々あります。事業継承が進む中で、創業時のビジョン・理念・目的が霧消してしまった大企業は、単に利益を産み出すだけの「マシン」と化する運命にある、という説明に納得しました。

牧野氏は、「マシン」が悪い訳ではなく、マシン機能を発揮して、社会に価値を提供し続ける存在は意味があるし、そこで働く人々も否定しない、と言っています。しかし、未来を切り拓く使命を担う「ベンチャー」は、社会を成長・牽引する為の最高級の人材を採用し、育成し続ける姿勢が必要だという趣旨が語られています。

⑤ 利益は無視、コミットは踏み倒す

④から引き出される「ベンチャー」のあるべき姿は、成長の継続を最重視する姿勢である、という話です。純粋な「ベンチャー」思考で興った企業が、出資者やステークホルダーから、利益を求められ、コミットさせられることで衰退することを惜しんでいます。

「ベンチャー」は成長を優先し、上げた利益を未来へどんどん再投資することを推奨しています。コミットなんて踏み倒せばいいという過激な意見も言われています。

⑥ ふたりとも人の可能性を信じている (人>AIを信じている)

AIが人を支配する社会には否定的な立場とお見受けしました。テクノロジーにひれ伏すのではなく、人がもがき、未来を切り拓いていく方の可能性を信じているんだな、と感じました。優れたAIに支配される未来より、優秀な人が支配する社会を理想と考えている、と理解しました。

この場合の二人が求めている「人」が、二人のお眼鏡に叶った優秀な人材のことであることは確かで、凡人たちがささやかに暮らす未来をイメージしていない印象ですが……。


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