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或る意味、日本の象徴だった嵐不在の今考えること

本日のnoteは、No.1アイドルグループ、嵐の活動休止を受けて、思う所を掘り下げます。思いつきと独断と偏見が含まれています。

改めて嵐の活動休止について

2020年12月31日を以て、嵐が活動休止に入りました。遂にこの瞬間がやってきたという感慨があります。

嵐は一つの時代を作ったアイドルグループでした。52歳のおっさんの気持ちの吐露としては些か気持ち悪いものの、寂しい気持ちはあります。

活動休止を迎える2020年のタイミングで、世界中を覆うパンデミックに襲われ、大規模なドームツアー等中止に追い込まれたイベントが相次いだのは、彼らにとって不幸だったと思います。それでも従来は距離を置いていたネット配信やSNSも駆使して精力的に活動しました。

大晦日の紅白歌合戦のラストステージ、そして東京ドームで行われた無観客でのラストライブはさすがのパフォーマンスで感慨深いものがありました。メンバーの五人は、ファンを楽しませる態度を最後まで徹底したプロフェッショナルだったと思います。

SMAPと嵐の違い

嵐の歩んだキャリアを語る時、比較対象になるのは事務所の先輩グループでもあるSMAPでしょう。私の持っている印象は「嵐はSMAPが開拓・君臨した地位を受け継ぎ、改良・アップデートして駆け抜けた優等生(ジャニーズ事務所の最高傑作)」というものです。以下私見です。

スーパーアイドルグループの先駆者、SMAP

若年女性層から熱狂的に支持される歌って踊れるルックスに恵まれた男の子たち、というのがジャニーズ事務所が作り上げた既存の男性アイドルグループ像です。SMAPは、その土台の上に、

● バラエティ全般に対応でき、親しみ易さがある
● メンバー個々が個性を発揮して、俳優やタレントとしても活躍する
● 冠番組を持ち、大物タレントの影響力を積極的に借りる

といった付加価値的な要素を加味し、アイドルグループの活躍の場を広げたを先駆者だろうと思います。

特にバラエティショーでの活躍は効果的で、『笑っていいとも』がSMAPメンバーの知名度拡大、従来のファン層以外へのリーチに果たした貢献は少なくなかったと思います。

また、メンバーが個々人で行う活動が、グループに正のフィードバックを生んでいたことも見逃せません。若い女性ファンというコアな支持層を越えて広い層に存在感を訴求し、国民的人気を得た画期的な成功例だと思います。

王者SMAPの正統的継承者、嵐

嵐は、SMAPが開拓した路線と遺産を受け継ぎ、嵐独自の違った要素を武器に、吹いていた時代の風を取り込んで地位を確立しました。嵐がSMAPよりも優れていたと思えるのは、

● メンバー5人の人間関係が良好で、ビジネスライクな関係を超越した太い友情の絆で結ばれており、グループとしての結束力が強固に見える
● ファン心理に配慮し、個人のエゴや身勝手な行動でファンを裏切らないことを最優先させている(異論あることは承知です)

点にあると思います。アイドルグループの一つの完成形だと感じます。

CD売上枚数や冠番組の視聴率といった数字面で、おそらく嵐はSMAPに及びません。個人的に嵐の楽曲は好きですが、嵐にはSMAPの『世界に一つだけの花』に匹敵するような国民的大ヒットを記録した誰もが知っている代表曲がありません。冠番組の『嵐にしやがれ』や『VS嵐』が、絶頂期の『SMAP×SMAP』を凌駕していたとは思えません。CD売上やTV視聴率での比較に意味があるのかという問題はありますが…

嵐はメンバー個々の人間的魅力が幅広い人々に好意的に受け容れられている感があります。自分たちが世間から求められていることを鋭敏に感じ取って「大人な対応ができる」という印象があります。この点は、メンバー間のぎくしゃくが表面化し、ファンを置き去りにした形で活動を終えたSMAPとは対照的です。その分、嵐の作品のクオリティやライブパフォーマンスの完成度は過少評価されているかもしれません。

或る意味、嵐は日本の象徴?

私は、嵐は2000年代後半以降の国際社会での日本の地位を象徴するような存在ではないか、と考えています。

2010年代前半にトップグループの地位に上り詰めて以降の嵐は、基本的に『現状維持』『安心安全』路線を徹底し、多くの人たちが嵐に抱くイメージや期待から逸脱しないことに強烈にコミットし続けたように思うのです。メンバーは総じて自己抑制的で、自己主張や革新的な意見を慎む「空気が読める」人達だったように思います。

『情熱大陸』の密着取材を受けていたメンバーの二宮和也さん(当時23歳)が、「相手の求めているものを察して、完璧に応えるのがアイドルの本分。自分の意見やこだわりは必要ない。」という趣旨の発言をしていたのが印象的でした。完璧なパフォーマーに徹する、求められる役割を全うするという価値観は、日本の企業戦士の価値観とも相通じるものがあります。

意地悪く言えば、アイドルグループの新たな可能性や革新的な付加価値創造には進まず、出来上がっていた王道路線を完成度高く再生産し続けることで、トップに君臨し続けたのが嵐だった気もします。

世界を舞台にできないビジネスの苦境

日本の芸能ビジネスは曲がり角です。ジャニーズ事務所からは嵐に匹敵する国民的認知度を持つ後輩グループは育っていません。創業者のジャニー喜多川氏が逝去して求心力が弱まっているのは明らかで、枠に囚われない自由な活動を求めたいタレントは、続々と事務所を退所して独自の活動へと移行していっています。ジャニーズ事務所に限らず、日本の大手芸能事務所の従来型マネジメントやプロデュースは限界にきているように見えます。

BTSら韓国出身アーティストがアジアのみならず、世界のエンタメシーンで台頭しています。今年ジャニーズ事務所を退所した手越祐也さんが「パフォーマンスの洗練度、マーケティング力、アーティスト個人の発信力で、韓国人アーティストに大きく水を開けられている。正直悔しい。僕がアイドルになった頃こんなにも差はなかった。なぜこんなことになってしまったのか…」と言っています。

これまでのエンタメ業界は、世界市場を本気で狙わずとも日本市場だけで潤っていた業界でした。日本人アーティストの世界進出はコミュニケーション能力のハンデがあると言われてきました。でも、英語を母語としない韓国系アーティストや作品の相次ぐ成功は、ことばの問題だけが原因ではないことを証明してしまいました。

私は鉄鋼製品のビジネスに従事していました。日本製鉄鋼製品の品質は世界トップクラスと自負していたし、世界市場を相手にビジネスしていることが誇りでした。正直に言うと、国際市場で本気で勝負していない日本のマスコミ業界やエンタメ業界をヌルいと思っていました。日本は市場規模が大きいので、本気で世界戦に挑まなくても、やっていける現状があります。

エンタメ業界がこれからも世界で戦う気概を持たないのであれば、今後確実に大きな波に呑み込まれそうです。世界戦の実情を知った上であえて乗らないという決断はあり得ますが、日本のトップタレントには世界を本気で狙って欲しいと個人的には思います。


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