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『キング・オブ・シーヴス』を観る

本日のnoteは、2018年公開の英国映画『キング・オブ・シーヴス King of Thieves』の鑑賞感想文です。


幸せを噛み締めて映画を観る

将来の収入減を犠牲にしても、現在のフリータイムを確保することを優先しました。そうまでして手に入れた貴重な時間を埋めるのに、本と映画のコスト・パフォーマンスは秀逸です。忍び寄る不安は一旦横に置き、2時間程度大スクリーンに没頭する時間を持てる自由に感謝したいと思います。

月初めの1日は、基本的にどの映画館でも1200円の割引料金で鑑賞できるお得な日なので、このチャンスを逃す手はありません。始動が遅れてしまったので、興味のあった映画の幾つかは上映時間に間に合わないことがわかり、丁度適当な時間に上映があった『キング・オブ・シーヴス』に決めました。

実話を基にした犯罪映画

先週観た『どん底作家の人生に幸あれ!』と同様、この映画も事前知識ゼロで臨みました。この映画は実話をベースにしたものです。

2015年4月のイースター休暇中にロンドン随一の宝飾店街ハットンガーデンで被害総額1400万£(約25億円)の貸金庫破りが起こりました。英国検察が「イングランド司法史上最大の窃盗事件」と呼んだこの事件の犯人は、50代から70代の窃盗集団でした。内5人は逮捕され、75歳、61歳、67歳、60歳の被告4人には禁錮7年、59歳の被告には禁錮6年の刑が確定、グループの1人は現在も逃走中のようです。

監督はジェームズ・マーシュ(James Marsh, 1963/4/30- )。窃盗集団のリーダー格のブライアン・リードをマイケル・ケイン(Sir Michael Caine, CBE、1933/3/14- )が演じています。

個人的には好きなタイプの映画

観賞後に確認した所、この映画に対する批評家からの評価は芳しくなく、『豪華な俳優陣を活かし切れていない凡庸な作品』とされています。

私は好きなタイプの映画で、とても楽しく観ることができました。カテゴリーで言えば犯罪映画ですが、殺戮シーンのような残虐な映像がなく、現金や宝石の強奪に成功した後の窃盗団メンバー同士の疑心暗鬼、人間不信を扱った人間心理ドラマと言った方がいいかもしれません。

登場人物それぞれが屈折しており、いわゆるクソ人間の集団です。ただ、それぞれが持つ卑屈なプライド、クソさ加減や胸糞悪さがユーモラスで人間味に溢れていて、私は好意的に観ることができました。

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遣り甲斐を持つことの効果

老いや慢性的な病気や精神症を患い、生きがいを喪って厭世的だった男たちが、犯罪行為の計画を練り、実行している時には活き活きとしてきます。

これをみて、福田赳夫元首相(1905/1/14-1995/7/5)を思い出しました。政治活動の表舞台から外れ、大御所的立場となった1980年代中盤以降の晩年の福田氏は、弱弱しくよぼよぼしたおじいちゃんになってしまった、という印象を受けていました。

1989年、リクルート事件の広がりと消費税導入により人気が凋落した竹下首相が退陣しました。この時、有力な総理候補者は、軒並みリクルート案件に関与しており、後継総理探しが難航していました。

リクルートグループを率いた江副浩正氏(1936/6/12-2013/3/8)は、感覚に優れた経営者だったので、権力の中枢に近い、力のある政治家には全てツバを付けていたということです。裏を返せば、リクルート事件と無関係だったのは、江副氏から相手にされない小物政治家だったという見方もできます。

そこで、一時期後継総理候補として福田氏の再登板が取り沙汰されました。本人も意欲が出たのか一気に生気が蘇って別人のような元気な姿を見せ、驚いた記憶があります。

結局福田氏の再登板はなりませんでした。しかしこの時の経験から、人は求められたり、注目されたりすると急速に立派になっていく、逆に無視されたり、やり甲斐や希望を喪失して疎外感を覚えると、急速に老け込んで不健全化していく、ということを学びました。

この映画の登場人物たちのように、反社会的な行為に生き甲斐を見い出すのはいかがなものか、とは思います。とはいえ、社会から忘れ去られたように暮らし、鬱屈としていた彼らの気持ちは、わからなくありません。『小人閑居して不善をなす』は正しいようです。

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