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三度目のモラトリアム

本日のnoteは『モラトリアム』についてです。

モラトリアムとは

モラトリアム(英:moratorium)という用語には色んな意味があります。

モラトリアム 【moratorium】
① 戦争・恐慌・天災などの非常時に、社会的混乱を避けるため法令により金銭債務の支払いを一定期間猶予すること。支払い猶予。
知的・肉体的には一人前に達していながら、なお社会人としての義務と責任の遂行を猶予されている期間。また、そうした心理状態にとどまっている期間。
③ 実行・実施の猶予または停止。多く、核実験や原子力発電所設置についていう。 
  ‐―― 三省堂 大辞林より

心理学における『モラトリアム』とは、心理学者エリク・H・エリクソンによって提唱された概念です。エリクソンの学説である心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)について、私には論じる力がありません。

用語本来の意味とは異なるのですが、気分的に社会人としての義務と責任の遂行を猶予されている状態=自由な時間 という意味で『モラトリアム』という単語を使います。 

私は、過去に二度のモラトリアムを体験しています。

モラトリアム① 大学時代

一度目は、大学四年生の最後の9カ月間です。

所属していたフィールドホッケー部を現役引退し、企業から内定を貰って就職活動を終えたのが、1990年7月上旬でした。そこから1991年3月に卒業するまでの期間の経験は、その後の人生に強い影響を与えています。

大学四年間がまるごとモラトリアムだったと言えなくもありませんが、大学卒業までのこの期間は私にとって特別で、最高のモラトリアム期間でした。当時付き合いのあった何人かとは今でも濃い交流が続いています。

大学三年生の後期試験で、卒業に必要な単位はほぼほぼ取り終えていたし、クラブを引退した後は何かに拘束される時間もめっきり減りました。バブル景気真っ盛りで新卒予定学生は空前の売り手市場だったので、就職先も問題なく決まり、将来の針路についての迷いや不安もなくなっていました。視界良好、思い切り羽根を伸ばしてよい状況でした。

時間は無限にあるように感じていました。定期的な家庭教師のバイトや季節限定の集中バイト、時折くる内定先企業からの呼び出し以外には、果たすべき義務がほとんどありません。クラブの仲間以外にも芋蔓式に友人ができ、遊び仲間には事欠かない状態でした。

昼過ぎに起きて、大学の食堂で遅い昼食を食べていると仲間が集まってきて、そのままボーリングに行ったり、居酒屋や下宿で酒を飲んだり、クラブに打ち込んでいる時には出来なかった遊びや時間の過ごし方ができました。「お金で自由な時間を買っている」ことを実感していました。

モラトリアム② 留学時代

二回目のモラトリアムは、企業派遣でアメリカに語学留学に出してもらった2001年6月から2002年5月までの期間です。

これまで忙しくこなしてきた仕事の日常業務を離れ、異国で一時的に学生生活に戻ったのは、今となっては本当に貴重なモラトリアム体験です。

ここでも色んな人との出会いがありました。なかなか上達しない自分の英語力に悩みながらも、アメリカ生活を心から楽しみました。通ったのは、バリバリのエリートが派遣されるMBAやロースクールのように専門知識養成を目的にしたスクールではなく、英語力向上をメインにした講座だったので、勉強だけに追われることもなく、ハロウィン、サンクスギビング、クリスマスなどのイベントを楽しむ時間も余裕もありました。

アメリカの大学の空気感を知れたこと、これまで自分の知らなかった価値観に触れられたことは、その後の人生の貴重な財産になっています。

正直に言うと、この時期には焦りのようなものが常にあり、気分が塞ぐことも結構ありました。仕事上のキャリアを中断して勉強していることへの後ろめたさや会社に金を出してもらっているのに、思ったほど英語力が向上しないもどかしさなどです。

ただ、一直線に流されていく社会人生活に休息期間を挟めたこの時の経験が、仕事が全てではないという価値観、一旦休むことを肯定する価値観を醸成したことは間違いありません。

モラトリアム③ 現在

そして今が三度目のモラトリアム中です。一度目は両親、二度目は会社が私のスポンサーになってくれましたが、今回のスポンサーは私自身です。

モラトリアム人間は否定的に評価されがちです。でも、私は決められた道を一直線に歩んでいくだけの人生には懐疑的です。いつまでも行動できないまま引き籠ってしまっては問題ですが、ある期間、悩んで、もがいて、立ち止まって、方向を変える生き方は否定しません。

その時、その時に信じたことに忠実に生き抜くことが大切であり、言行不一致になろうが、たくましく、したたかに生きていけばよいと思っています。

モラトリアム休暇は『一回休み』や『小休止』くらいの感覚でどんどん使えばよいのではないでしょうか。不安は確かにありますが、せっかく訪れた時間を愉しむ余裕も常に持っておきたいと思います。成功の鍵は、この時期にいろんな人に出会うことでしょう。私も積極的に交流していきます。

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