見出し画像

私の好きだった曲②:『堕ちた天使』

私が10代の頃に好きだった80'sの曲の思い出を綴る<第2回>は、J・ガイルズ・バンド『堕ちた天使 Centerfold』です。

J・ガイルズ・バンドの大ヒット曲

1960年代から活躍し、ブルースロックのルーツを持つJ・ガイルズ・バンド(The J. Geils Band)の最大のヒット曲が、1982年2月にビルボードシングルチャートNo.1を6週間に渡って記録したこの曲です。1980年代を代表するユニークなヒット曲だと思います。

Centerfoldとは、雑誌の中央見開き、とか、折り込みページのヌード写真を意味する隠語です。日本の週刊誌の切り取り線のついた中綴じページを想像すれば、邦題に付けられた『堕ちた天使』というタイトルの秀逸さが伝わるかもしれません。

歌詞の世界は独特のペーソスに溢れています。高校時代に憧れていた女生徒が男性誌のピンナップでヌードを披露しているのを発見し、ショックを受けて嘆く、というおおよそ高尚とは言えない俗なテーマを歌ったものです。(実話だという話もあります)

これまで玄人受けする豪快なロックを得意としてきたJ・ガイルズ・バンドの中では、異色の曲でした。この曲の収められたアルバム『フリーズ・フレーム Freeze Frame』は彼らの13作目にあたり、この曲がヒットした時点で、着実に実績を積み重ねてきたベテランバンドでしたので、長年のファンの間では「商業主義に走った」と批難の声もあったのはむべなるかなという気もします。

時代の空気と私の嗜好に合っていた

私は、この曲のイントロ部分とB級感に溢れたPVが大好きで、自分で好きな曲を選りすぐって編集した「マイベスト」のカセットテープに収録して、聞きまくっていました。思春期の男の子の心情をくすぐり、曲全体がパロディ風の明るさで包まれているように感じていました。

私は、あざとい明るさ、汗臭さが押し出されるアメリカンロックバンドの楽曲があまり好きではなかったものの、この曲に関しては「適度で絶妙なダサいものを、真っ当に向き合ってやっている感じ」が完全にツボにハマり、愛聴していました。今でもこの曲のイントロを聴くと、あの時代の感覚が微かに蘇ります。

商業的には不遇だったJ・ガイルズ・バンドは、この曲のヒットで念願だった商業的大成功を収めたものの、逆にバンドは漂流した感じになってしまいます。1983年には、バンドの看板ボーカリストであるピーター・ウルフが脱退してしまいます。残ったメンバーで製作された次作のセールスが不発に終わったことでバンド内には亀裂が走り、1985年に活動休止を発表します。

J・ガイルズ・バンド名義のバンドは、その後も散発的に再結成されて、コンサートツアーを行ったりしていたものの、2017年にギターでリーダーのジェローム・ガイルズが死亡し、バンドとしての歴史は終焉を迎えることになりました。

彼らが本当にやりたかった音楽だったとは思えないこの曲が、J・ガイルズ・バンドにとっての「運命の一曲」「禁断の一曲」「後世に残る代表曲」になってしまったことは、大変皮肉に感じます。


サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。