『低欲望社会』を読む

本日は、大前研一『低欲望社会「大志なき時代」の新・国富論』(小学館2015)の読書感想文です。7~8年前の状況を踏まえた論述となっており、その後の展開が判っている今となっては、幾つか違和感がある部分(たとえば、東京一極化を推進せよ)もありますし、現在に至っても持ち越されたままになっている課題もあります。一昔前の状況を振り返っておくのも意味があると思い、細部も意識しながら読んでいきました。

もはや大御所の大前研一氏

経歴を確認して、世界的な経営コンサルタントで、この30年以上も日本の第一線での活躍を続けてきた大前研一氏(1943/2/21-)も、今年で79歳なのか…… と驚きました。名著『企業参謀』をはじめ、氏の著作は若い頃から何冊も著作を読んできました。大御所と言って良い存在でしょう。

頭のいい戦略策定家新自由主義時代の超エリートライフを謳歌した人、という印象のある人です。自分の主張や嗜好に絶対の自信を持っていて、雲の上にいるような感じもあります。非合理的なことを容赦なくこき下ろすし、庶民目線に寄り添うような雰囲気も感じさせないせいか、敵も多いという話も聞きます。

「平成維新の会」を組織し、1995年の東京都知事選挙に立候補するも、青島幸男氏に敗れて落選すると、政治の世界での自身の理論実践は諦め、以降は次代を担うリーダー育成の為の教育機関、ビジネス・ブレークスルー(BBT)という社会人大学院を開校し、運営されています。

やや古さを感じる世界観と処方箋

熱心に読んでいた当時は、あまり意識していなかったのですが、今回本書を読み進めていくと、こんなに新自由主義的な政策を支持していて、独善的な世界観を強く打ち出す人だったかなあ…… という驚きがありました。

古い経済理論を批判する際、論点として扱っている題材や情報は、フレッシュなものも多いし、目の付け所は流石に鋭い、と思わせる部分が多いのは確かです。しかし、その切り取った問題に対処するための提言は、定性的だったり、強引かつ実現可能性に難がありそうだと感じる部分もあります。実際に大前氏の施策を実行するとなると、各所に出血や被害や抵抗勢力が起こりそうな印象を持ちました。敢えて、単純化して描いてあるのかもしれませんが。

大変優れた理論や施策を生み出せることがわかっていても、それを現場で実践するとなるとかなりハードルが高い施策だったり、傷つく人が多数出て理解を得るのが難しそうだったり、という印象を受けました。

税制の立ち位置がちょっと不明

第1章、第2章には、日本の財政と税に関する議論が幾つか出てくるのですが、私は大前氏の立場がちょっとわかりませんでした。規制緩和を推進する小さな政府主義者、財政均衡主義者なのかな…… と思いつつも、政府の公共部門の役割や機能を過剰に評価しているのでは? と思ってしまう部分もあって、混乱してしまいました。ミクロ経済的な議論を、そのままマクロ経済のメカニズムへ拡大適用しているように映る記述もあって、腹落ちしない部分もありました。

国民生活に迫っている危機は、多かれ少なかれ誰もが感じているところでしょう。潜んでいる問題を抉り出す視点は確かなので、氏の問題提起を受け取って、自分なりに思考を深め、検証するのがいいのでしょう。 

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