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第31回 出雲全日本大学選抜駅伝競走

今年もいよいよ大学駅伝シーズン(2019-2020)の開幕です。超巨大台風19号が日本上陸した後の学生三大駅伝の緒戦、出雲全日本大学選抜駅伝が島根県出雲市で開催されました。

戦前の予想

出雲全日本大学選抜駅伝競走、通称「出雲」は、全6区間、総距離45.1㎞と短く、スピードが求められるレースです。今年の箱根駅伝で1-3位を占めた、東海大学、青山学院大学、東洋大学が優勝争いの軸になると考えていました。

黄金世代が最上級生を迎え、戦力充実の東海大学、エースに育った吉田圭太選手を中心に層の厚い陣容で再起を目指す青山学院大学、学生長距離界No.1の呼び声高い大エース、相澤晃選手を中盤の勝負所3区に据えて来た東洋大学、のつばぜり合いは面白そうです。

これに、浦野雄平選手、土方英和選手のダブルエースが大学トップクラスに育った國學院大学、スーパールーキー、田澤廉選手が加入し、名門復活の機運が高まってきている駒澤大学あたりが優勝争いに加わって混戦になると予想していました。

観戦記

1区(8.0㎞)出雲大社正面鳥居前〜出雲市役所・JAしまね前

スタートから飛び出した、北海道選抜(札幌学院大学)のローレンス・グレ選手が独走し、区間記録に15秒と迫る好記録で区間賞を獲得しました。

後続は集団で牽制して超スローペースとなりますが、後半2㎞あたりからようやくペースアップして先頭を追います。地力のある駒澤大学の山下一貴選手が冷静な好走を見せて2位で中継。3位には10000m28分20秒台のベストタイムを持つ拓殖大学・赤崎暁選手が入りました。

優勝を争うとみられた有力チームも、2位からは僅差で繋ぎました。関東勢以外では、立命館大学・高畑祐樹選手が6位と健闘しました。注目の選手では、箱根駅伝2年連続1区区間賞の東洋大学・西山和弥選手はラストスパート合戦で伸びず10位、関西No.1ランナーと評価が高い関西学院大学・石井優樹選手は見せ場を作れないまま集団から遅れ、18位での中継となりました。

【区間賞】ローレンス・グレ(北海道学連選抜)23'45"

2区(5.8㎞)出雲市役所・JAしまね前〜斐川直江

レース前半の流れを決める最短区間です。1区で1分半以上の大量リードを奪った北海道学連選抜が首位を守ったものの、後方から優勝を争うとみられた有力チームがどんどん追い上げてきます。

今年の日本選手権3000m障害の優勝者で、実力的には一枚上と見られていた東海大学・阪口竜平選手が牽引する集団に、出雲初出場の若い選手達が食らい付きます。駒澤大学・伊東颯汰選手が粘って2位を守り、ルーキーの國學院大学・中西大翔選手、青山学院大学・岸本大紀選手も好走し、3、4位に順位を上げてきました。1区やや出遅れの東洋大学は、大澤駿選手が着実に追い上げ、後半に伸びを欠いた東海大学を抜いて5位まで上がってきました。

【区間賞】岸本大紀(青山学院大学)16'16"

3区(8.5㎞)斐川直江〜平田中ノ島

学生長距離界を代表する各校のエースが勢揃いしました。今年の箱根駅伝5区で区間新をマークした國學院大学の浦野選手がハイペースで集団を引っ張り、これに青山学院大学の新エース、吉田圭太選手、駒澤大学のスーパールーキー、田澤廉選手が付いていく展開になりました。

コース前半で先頭の北海道学連選抜をあっさりかわすと、3人は隊列を崩さないまま、アップダウンのあるコースをどんどん突き進んでいきます。ここに後方から東洋大学の大エース、相澤晃選手が額面通りの力強い走りで追い上げ、残り600m付近で遂に先頭集団に追い付くかと思った瞬間、終始集団後方で待機していた駒澤大学・田澤選手がスパートし、名だたる実力者達を4秒ちぎって堂々の首位で中継。鮮烈な大学駅伝デビューとなりました。6人が従来の区間記録を更新する激戦でした。

【区間賞】相澤晃(東洋大学)23'46"(区間新)

4区(6.2㎞)平田中ノ島〜鳶巣コミュニティセンター前

首位で襷を受けた駒澤大学・小林歩選手に、すぐさま3チームが追い付き、4チームが集団を形成します。一番後方から割り込んできた青山学院大学・神林勇太選手が、ダイナミックな走りで積極的に仕掛けていきます。

後半、國學院大学・青木祐人選手と東洋大学・宮下隼人選手が少し引き離され、駒澤大学と青山学院大学の競り合いが最後まで続きました。中継点では同記録ながら、僅かに駒澤大学が先着して首位を守りました。この区間も三人が区間記録を更新するハイレベルな争いでした。

後方では、関東勢崩しを狙う立命館大学が、ルーキー山田真生選手の力走で7位に上がってきました。

【区間賞】神林勇太(青山学院大学)17'24"(区間新)

5区(6.4㎞)鳶巣コミュニティセンター前〜島根ワイナリー前

駒澤大学・中村大成選手と青山学院大学・竹石尚人選手が首位を並走しますが、中盤から中村選手が竹石選手を引き離し、ジリジリと差を広げる力走を見せました。

6区中継では2位に上がった、昨年区間賞の東洋大学・今西駿介選手に14秒差をつけてアンカーへ襷を渡しました。3位は青山学院大学、4位は國學院大学。東海大学は期待の鬼塚翔太選手が頑張り、4位と僅差の5位で中継しましたが、トップとの差は僅かに広がりました。区間賞はチームを9位から6位に押し上げた帝京大学の小野寺悠選手が獲得しました。

【区間賞】小野寺悠(帝京大学)17'54"

6区(10.2㎞)島根ワイナリー前〜出雲ドーム

トップを走る駒澤大学のアンカーは、ユニバーシアード・ハーフマラソン銀メダルの中村大聖選手。長い距離に定評のある駒澤の主軸ですが、出雲は4年生で初出場です。追う東洋大学はチーム一の練習量を誇るスタミナ型の定方駿選手。こちらも三大駅伝初登場の4年生です。後方からは、今年の箱根駅伝5区の山登りで快走した東海大学・西田壮志選手が積極的な走りで、國學院大学の主将、土方英和選手、青山学院大学の三大駅伝初出場の中村友哉選手を引き連れて前を追っていきます。

実力伯仲、秒差で争う面白いレース展開になりました。堅実に走る駒澤大学・中村選手を、青山学院大学、東海大学、東洋大学を振り切った國學院大学・土方選手がジリジリと追い上げていきます。さすが、関東インカレ10000m日本人トップの実力者の本領発揮です。ラスト1㎞を切ってからの土方選手の走りは圧巻で、ラスト600m付近で遂に先行する中村選手を逆転し、出雲ドームのゴールに飛び込みました。駒澤大学は無念の2位、最後まで粘った東洋大学が3位でした。

【区間賞】土方英和(國學院大学)29'05"

【総合成績】
優勝 國學院大学 2時間9分58秒
2位 駒澤大学 2時間10分6秒
3位 東洋大学 2時間10分9秒
4位 東海大学 2時間10分18秒
5位 青山学院大学 2時間10分51秒
6位 立命館大学 2時間13分11秒

総評

國學院大学は歓喜の三大駅伝初優勝です。前評判は高かったものの、両エースだけではなく、1区で好位置をキープした藤木宏太選手はじめ出場した選手全員が他校の有力選手と互角に渡り合い、力があることを証明した見事な優勝です。國學院大学の前田康弘監督は駒澤大学のOB。恩師である駒澤大学・大八木弘明監督を最終区で逆転しての優勝は感無量だと思います。

今年の大学駅伝は、この上位5校を中心に展開されることになりそうです。

國學院大学はこの優勝で、一躍マークされる立場になりますので、選手が舞い上がらずに、地道に強化を進めていけるかが鍵です。ダブルエースの浦野雄平選手、土方秀和選手の実力は学生トップクラスであることを証明しましたので、脇を固める選手達の走りがポイントでしょう。  

東海大学は、次期エース候補の塩澤稀夕選手や西田壮志選手、市村朋樹選手ら下級生が好走したのは好材料ですが、黄金世代と言われる四年生は、絶好調を伝えられていたエースの阪口竜平選手や実力者の鬼塚翔太選手がインパクトに欠ける走りに終わりました。主力の關颯人選手、故障中という館澤亨次選手の復活があれば万全ですが…。

青山学院大学は、区間賞を獲得した岸本大紀選手、神林勇太選手、実力を発揮した吉田圭太選手は戦力としての目途が立ちました。選手層の厚いチームなので、これからまだまだのびしろがありそうです。

東洋大学は、絶対的エースの相澤晃選手を軸に、チーム力の底上げが急ピッチで進んでいます。名将、酒井俊幸監督の手腕は確かです。もう一、二枚エース級を育成出来れば、優勝争いの中心になっていくでしょう。

駒澤大学は、最終区に逆転されて優勝を逃しましたが、駅伝で実績のある選手達の実力底上げが確実に図られ、ここにスーパールーキーの田澤選手が加わり、チームとして波に乗っているように感じられました。過去相性のいい全日本は優勝のチャンス到来です。

その他のチームで着実に強化が進んでいることを伺わせたのが帝京大学と中央学院大学です。また、大エース塩尻和也選手の卒業で今年は実力低下が噂されていた順天堂大学は前半区間で予想以上に健闘しました。

今回不出場の早稲田大学、中央大学、山梨学院大学、神奈川大学、日本大学、大東文化大学、といった伝統校の巻き返しにも注目したいところです。



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