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『海洋天堂』を観る

2024/5/18(土)は、『障害者の「生きる!」を考える交流会(第2回)』というイベントに、主催側のお手伝いを兼ねて参加しました。第2回となる今回は、2010年に中国・香港の合作で製作された映画『海洋天堂 Ocean Heaven』を鑑賞し、終了後にグループディスカッションを行いました。この映画については、事前に「号泣してしまうかも……」という評判を聞いていました。号泣こそしていませんが、私の心に深く深く刻みこまれる終生忘れられない作品となりそうです。

平凡にして偉大なるすべての父と母へ捧ぐ

本編の終了後、エンドロールが始まる直前に出る「(和訳)平凡にして偉大なるすべての父と母へ」にこの映画のメッセージが言い尽くされているような気がしました。

水族館職員で末期の肝臓癌を患って余命数か月のワン・シンチョン(王心誠)を世界的なアクションスター、ジェット・リー(李連杰1963/4/26-)が、その息子で自閉症と重度の知的障害を持つ21歳の息子、大福(ターフー)を中国の人気俳優ウェン・チャン(張文 1984/6/25-)が演じています。基本的には、父と子の絆が軸になる物語ですが、大福が幼い頃に海洋事故(自殺の可能性が臭わされている)で亡くなってしまった母も含めての家族の絆、人生とどう向き合うか、支えてくれる人々の理解・寛容・愛情、障害者とその保護者を取り巻く社会環境の問題、などなど色々な角度から、考えることが可能な映画だと思います。

父が子に残したかった者

慈善活動家としても知られるジェット・リーは、本作の監督・脚本を務めるシュエ・シャオルー(薛暁路 1970/2/14-)からオファーを受けた際に感動し、「無給でもいいからやらせて欲しい!」と言った、という話もあるようです。実際、彼の演技は本当に素晴らしく、敵を薙ぎ倒す完全無欠のスーパーヒーローではなく、冷静沈着ながら時には喜怒哀楽を爆発させ、強さ、逞しさだけでなく、弱さ、狡さ、惨めさも曝け出す、一人の肌触りのある人間として表現していたのが物凄くよかったです。

心誠が、周囲の協力を得てようやく見つかった養護施設のベットに腰掛け、洗濯物を畳みながら、横になっている大福に、「大福はお父さんがいなくなると寂しいか? お父さんは大福と離れるのが寂しいよ」と言う場面を思い出すと、今でも自然に涙が滲んできます。息子を置いて先に逝かねばならない運命を受け止め、不安な心情が抑制的に表現されていて、最も印象深いシーンです。

当事者の父として

私自身は、この映画の父と息子の関係を特別な思いで鑑賞しました。それは、私が劇中の大福と同一の障害特性を持つ息子を持つ父だからです。心誠が発することばの一つ一つが身に沁みたし、不安や苛立ちや絶望が手に取るように理解できました。状況や程度は違えど、容易に理解できる馴染みのある光景や事件が多くありました。

私の場合は幸いなことに妻が健在で、息子のために誠心誠意尽くしてくれているお蔭で、私が果たすべき役割は極めて限定的なものになっています。こうして、家族と離れて松本で単身赴任生活を送れているのも、妻の献身と努力の賜物であり、どんなに感謝しても感謝し尽くせません。ただ、私が息子をこの世で最も大切な存在と考えていて、できる限りの愛情を以て息子と接しようとしていることは理解してくれていると信じています。

私や妻が、一生涯息子の面倒を見てやれる訳ではありません。私たち亡き後、残される息子に何を残してやれるのか…… は重いテーマです。自分の残る人生をかけて、ずっと考え続けねばならない課題です。その現実から逃れることはできないし、目を逸らすこともしてはいけない、ということを再認識させてもらった時間でもありました。

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