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さよならブラック・サバス 〜 iruka C開発ストーリー(2)

新モデルiruka C、パーツの納品遅延や納品済み部品の不良などがあって出荷が遅れていましたが、このほど日本の各販売店に到着しました。

発売のプレスリリースはこちら。

iruka C誕生のきっかけを書いた前回に続き、今回はスペック決定の経緯を書いていきます。

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やや廉価な5速コンフォートスペックのirukaを作りたいという僕のアイデアを、台湾人コーディネーターのMagumと製造パートナーJ社のChen社長は即座に理解してくれた。なにしろMagumとは7年、Chen社長とは5年のつきあいだ。

台湾には、膨大な数の自転車パーツメーカーが存在する。早速、その中から僕の要望に合致するパーツを探し出す作業が始まった。

まずはサドル。オリジナル8速モデルで使っているのはVELO社のスリムタイプ(左)。に対して、新5速モデルではCIONLLI社の肉厚なクッションタイプ(右)を採用した。

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次にタイヤ。オリジナル8速モデルがシュワルベ社のトレッド(水切り用の溝)がない1.25幅スリックタイヤ「Kojak」(左)を使っているのに対して、新5速モデルはGMD社のトレッドがある1.50幅のタイプ(右)とした。前から見ると太さの違いは歴然だろう。タイヤは太いほど空気容量が大きくなるため、変形量と路面抵抗が増して軽快性は落ちるかわりに衝撃吸収性は高まる。18インチで気に入ったトレッドパターンの既製品がなかったため、irukaのオリジナルパターンを型から作ることになった。

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サドルとタイヤの変更によって、新5速モデルはオリジナル8速モデルと比べると推進効率がわずかに落ちるかわりに、走行時の振動や衝撃に対する緩衝性が向上し、ほどよく優しくマイルドな乗車フィーリングを備えることになる。

続いてハンドルバー。幅490mmと短めのフラットバー(左)を採用したオリジナル8速モデルに対して、新5速モデルは幅520mmかつ上方に20mm湾曲したライザーバー(右)を選択した。下の写真ではわかりにくいが、上方だけでなく後方にも6°オフセットしている。

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これにより、両手のハンドルグリップ位置が近くなり、オリジナル8速モデルと比べて上体が起きたリラックスした乗車姿勢をとりやすくなる。

最後はドライブトレイン。それぞれの変速機のギア比からGD値(ペダル1回転で進む距離)を計算し、チェーンリングとスプロケットの組み合わせを考える。オリジナル8速モデルに搭載されているAlfine 8と、新5速モデルのNexus Inter 5の各段のギア比は以下のとおり。

Alfine 8:1段 0.527 / 2段 0.644 / 3段 0.748 / 4段 0.851 / 5段 1.000 / 6段 1.223 / 7段 1.419 / 8段 1.615

Nexus Inter 5:1段 1.000 / 2段 1.277 / 3段 1.622 / 4段 2.070 / 5段 2.630

自転車に限らず駆動機構に詳しい方は、後者の数値を見て「おや?」と思うだろう。最も低い1段でもギア比が1倍、つまりNexus Inter 5は減速機能を備えていない。低速域では電動アシストによる補助トルクがかかることを前提としているのだ。そのため、電動アシストではないirukaで使うには、チェーンリングとスプロケットの歯数差を小さくすることになる。いくつかの組み合わせを検討した結果、チェーンリング40丁 x スプロケット22丁とした。それぞれのGD値は以下となる。

オリジナル8速モデル:1段 2.2m / 2段 2.7m / 3段 3.1m / 4段 3.5m / 5段 4.1m / 6段 5.1m / 7段 5.9m / 8段 6.7m

新5速モデル:1段 2.4m / 2段 3.1m / 3段 4.0m / 4段 5.0m / 5段 6.4m

結果として、オリジナル8速モデルのチェーンリングが56丁(左)なのに対して、新5速モデルは40丁(右)と約3割小さくなり、サイドビューの印象が大きく変わることになった。

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カラーバリエーションは、5速新モデルのアイデアを思いつく前から、次のロットから彩りのある新色をいくつか加えようと思っていた。

irukaのフレーム着色方法は塗装ではなく、AppleのMacBookやiMacなどと同じく、フレームを電解液に浸して通電することでアルミニウムの表面に微細な孔のある皮膜を生成し、その孔に染料を定着させる、いわゆるアルマイト(酸化皮膜処理)によって行われている。ちなみにこの処理によってirukaフレーム表面にできる孔の数は、1平方センチメートルあたり数十億個。まさにミクロの世界である。

実際にアルマイトで着色したアルミパイプのサンプルを台湾とやりとりして検討を進めた。平面のカラーサンプルもあるが、フレームは曲面なので検討にはパイプを用いる方がよい。

結果、以下の5色とすることに。

ローンチ時からのシグネチャーカラーであるシルバーはもちろん継続。

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ストームグレーは従来よりも色調を暗くした。

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僕は乗り気ではなかったが海外のディストリビューターから強く勧められて作ってみたところすぐに完売した、つまり僕のセンスのなさを露呈させたブラックも継続。今回は生産数を増やす。

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新色のブルー。irukaのロゴにも使われている、いわばブランドカラーだ。

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同じく新色のレッド。インドネシアの特注色だったのを定番色に昇格させることにした。

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さて、名前である。当初は決まった呼び方はなく、MagumやJ社との間ではComfort versionとか、単にAlternativeなどと呼ばれていたが、やりとりを進めるうちに、いつしか僕の頭の中では候補はひとつに絞られていた。

iruka C。ComfortのCだ。

と同時に、オリジナル8速モデルも改名することにした。

iruka S。SportのSだ。

それぞれシートチューブの前面に、以下のモデル識別用のデカールが貼られることになる。

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ということで我々は、これまでの社名(カタカナ表記)・ブランド名・モデル名(英小文字表記)が全て同じで「イルカのirukaのiruka」という「それでは一曲お聴きください。ブラック・サバスのブラック・サバスからブラック・サバス」状態から、モデル名がiruka Sとiruka Cになって「アンセムのアンセムからワイルドアンセムをお聴きいただきました」状態に移行する。

さよならブラック・サバス。

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「ブラック・サバスのブラック・サバスからブラック・サバス」

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その他のスペックはこちらから。



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