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鳥居とは何か?② 〜 鳥居の分類と構造〜 【明神系鳥居・前編】+ 不思議な鳥居の夢

2020年5月30日公開記事を再掲

鳥居の夢

以前、明晰夢についてお話をしました。そちらでも少し触れましたが、私は不思議で、リアルな夢を毎日見続けていた時期があり、この夢を記録することによって、その意味や、メッセージ性が解明できるのではないかという思いから、夢日記を1年に渡ってつけていたことがあります。

その中に、鳥居にまつわる奇妙な夢について綴っていることを思い出しました。

ごく私的な日記の一部ですが、奇妙で不思議なシチュエーションなので、是非ご紹介したいと思います。以下のような夢です。

【鳥居】

気が付くと私は行列の中にまぎれ込んでいた。
並んでいる人は沈痛な面持ちで肩を落としている 。

それはさながら葬送の行列のようでもあり、食料の配給を待っている行列のようでもある。

少しずつ歩を進めて行くと、前方に巨大な鳥居が見えてきた。
これまで見たことのある、どんな鳥居よりもはるかに大きい。

鳥居の先は、眩しくてどのような風景が広がっているか、こちら側からは見えない。

私の並んでいるこちら側といえば「何もない...」、前に並んでいる人の背中と、歩いている道以外に「何もない...」

暗闇で見えないとか、霧がかかって見えないのではない。 風景が「存在しない」のだ。

文字通りの「無」の世界に、ただ道が鳥居に向かって延びているだけだ。

私は誰に強制されるでもなく、自分の意志かどうかも分からぬまま、その行列に黙って加わっている。疑問も抱かぬままに。

しかし、その鳥居が近付いて来るにつれて、異様な恐怖と威圧感に苛まれる。

そこでは何が行われていて、並んでいた人達は何処へ行ったのだろうか。

次第にそれが分かって来た。

鳥居の柱の下には、番人のような者がいて、順番が回って来た人に太い棒を手渡している。

その棒の長さは2~3メートルほど。

棒を手渡された人は、目の前の鳥居に向かって走り出し、丁度「棒高跳び」の要領でそれを飛び越そうと試みる。

成功した人は、眩いくらいの美しい光の中に吸い込まれていく。

では、失敗した人はどうなるのか?

鳥居を飛び越えることができず、その手前に落下した人は身体が黒い靄に包まれて消えて行く。

この光景を見た私は、その場を立ち去りたい思いで一杯になる。

しかしその反面、それが自分の責務であるかのような冷静な部分も持ち合わせていることに気付く。

そして、私の前に並んでいた人が番人から棒を渡された。

彼は失敗し、靄と共に消え去って行った。

そして遂に私の番が来る。

ここで目が覚める。

こうやって読み返すと、我ながら緊迫感のある、恐ろしげな夢だったことが分かります。

前回の記事で、鳥居は「結界」であるというお話もしましたが、この夢に登場する鳥居は、私たち人間の日頃の行いをジャッジする「装置」として機能しているようです。

伏見稲荷の眷属であるお狐様は、ヒエラルキーの頂点に上がるための昇進試験として、千本鳥居をハードル走のように飛び越すテストがあり、深夜の千本鳥居でその姿を目撃したという方も多かったりします。

お狐様も、お塚に参拝に訪れる信者のために働いているのですが、どれだけ人を救い、どれだけ感謝されたのかという眷属神としての徳が、そのテストの結果に如実に表れるということなのでしょう。

私たちも、実は鳥居をくぐるたびに人としての「質」をジャッジされているのかもしれません。

鳥居の構造

さて、「鳥居とは何か?」というテーマでお送りする今回のコラム。前回は「起源と語源」に的を絞ってお話ししました。

今回は、様々な鳥居の分類について。

鳥居の構造は大きく分けて「明神系鳥居」と「神明系鳥居」の2種類に分けることができます。

「明神系鳥居」の分かりやすい特徴の一つとして挙げられるのは、「笠木」の先が「反転(反っていること)」していることと、柱に「転び(柱が傾斜していること)」があることです。

一方の「神明系鳥居」は、「笠木」「貫」ともに水平で、基本的に柱に「転び」はなく垂直です。

それでは、「明神系鳥居」「神明系鳥居」それぞれの構造と名称を見てまいりましょう。

明神系鳥居
神明系鳥居

笠木:鳥居の最上部にある横木。

島木:笠木の下に密着して設置された横木。

貫:笠木、島木と2本の柱を連結させる横木。

楔(くさび):柱と貫を固定させるためにほぞ穴に差し込むV字型の責め木。

額束:鳥居中央にある島木と貫に挟まれた柱。

反り増し:笠木と島木が反り、なおかつ先端に向かうほど幅が増していること。

台石:柱の根元に据えられた石のこと。形状により「亀腹(饅頭)」ともいう。

これらが鳥居の基本構造となっています。この基本形に「扁額(額束に取り付けられた社名、祭神を記した額)」や、「藁座(柱の根元を板や竹で包んだもの)」などが取り付けられます。


鳥居の分類(明神系鳥居)

明神鳥居

京都・上賀茂神社

明神鳥居は、笠木の下に島木を有し、ともに反り増しがあるものです。全体的に曲線が配された美しい様式の鳥居です。柱には「転び(傾斜)」があるのも特徴です。

明神鳥居のある、その他の神社
八坂神社(京都府)
石清水八幡宮(京都府)
大原野神社(京都府)
多賀大社(滋賀県)

この明神鳥居が原型となって、後世様々なタイプの鳥居が生まれることになります。

以下、その派生形の鳥居です。

稲荷鳥居

京都・伏見稲荷大社

基本的には明神鳥居と同じですが、笠木と「藁座(根巻ともいいます)」の部分が黒に塗られ、他の部分は朱色、または丹塗りとなっている点が特徴です。

一見すると、明神鳥居の項でご紹介している「上賀茂神社」の鳥居と変わりないように見えますが、伏見稲荷大社の一番鳥居は「藁座」の部分が黒く塗られているのが分かります。


台輪鳥居

香川県・池戸八幡神社

柱と島木の接点に注意してみて下さい。円形をした「座」がはめ込まれていることにお気づきかと思います。この「座」を「台輪」といいます。

稲荷鳥居にも「台輪」がありますが、台輪鳥居と称する場合、「藁座」は黒く塗られていません。また石造りの鳥居も多くあります。

台輪鳥居のある、その他の神社
木田神社(福井県)
足羽神社(福井県)
隅田川神社(東京都)


両部鳥居

宮島・厳島神社

両部鳥居の代表格は、やはり広島県は宮島の厳島神社でしょう。

台輪鳥居の両方の柱に、「控柱(稚児柱)」が設けられているのが特徴です。また笠木の上には屋根が付いています。

複雑な構造を持っていることから、宮島鳥居、稚児鳥居、児持鳥居、四脚鳥居、袖鳥居、枠鳥居、権現鳥居、枠指鳥居など様々な呼び方があります。

両部鳥居の「両部」とは、真言密教の立場から唱えられた神仏習合思想である「両部神道」から名付けられたものです。

両部鳥居のある、その他の神社
葦守八幡宮(岡山県):1361年作、日本最古
氣比神宮


藁座(根巻)鳥居

島根県・出雲大社

明神鳥居の基本形に、「藁座(根巻)」が設けられた鳥居です。

板や竹を巻き付けたり、腐食防止のために黒く塗ったりしている場合もあります。年代の新しい鳥居では、鋼板が使用されていることもあります。

藁座鳥居のある、その他の神社
宇治上神社(京都府)
宇治神社(京都府)
若宮神社(滋賀県・近江八幡市)


宇佐鳥居

大分県・宇佐神宮

明神鳥居の基本形に、「笠木」を黒く塗り、「台輪」を設置して、「額束」がないのが宇佐鳥居です。

ご覧になってもお分かりの通り、「笠木」の上には屋根があり、両端が鋭く沿っているのが特徴です。また「島木」と「貫」の間の幅も広くなっています。


山王(合掌)鳥居

滋賀県・日吉大社

「笠木」の上に合掌状の「扠首(さす)」のある、分かりやすい特徴を持った鳥居です。柱の根元には「藁座(根巻)」があります。

滋賀県の日吉大社で、はじめて建立されたため「日吉鳥居」とも呼びます。日吉大社はかつて、日吉山王社、山王権現と称したことから「山王鳥居」とも呼ばれます。

*扠首(さす):棟木を受けるために組まれた合掌型の材。

山王鳥居のある、その他の神社
日枝神社(東京都千代田区、滋賀県日野町など)


奴禰(ぬね)鳥居

京都府・伏見稲荷大社 荷田社神蹟

山王鳥居は、「笠木」の上に合掌状の「扠首(さす)」がありましたが、奴禰鳥居は額束の部分に扠首が配されているのが特徴です。主に稲荷系の社にあり「稲荷奴禰鳥居」とも呼ばれます。

奴禰鳥居のある、その他の神社
錦天満宮境内社・日之出稲荷(京都府)


次回は、引き続きバリエーション豊かな明神系鳥居の、その他の種類を見てまいりたいと思います。


参考文献

『鳥居 百説百話』川口謙二、池田孝、池田政弘著 東京美術
『鳥居』谷田博幸著 河出書房新社


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