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サカナクションが開いた新たな音楽表現の可能性

サカナクションのオンラインライブ「SAKANAQUARIUM光ONLINE」を観て衝撃を受けたこと、思ったことを書いていきたい。


・はじめに

2020年8月15日&16日に開催された今回のライブ。日本、いや、世界の音楽ライブのあり方を変えると言っても過言ではないライブだった。とにかく没入感があるライブだった。音楽業界についての解説も交えながら、なぜ今回のライブは没入感があり、音楽表現の可能性を開いたと私が思ったのか書いていこうと思う。


・音楽ファンにとって経験したことのない年2020

言わずもがな、2020年は新型コロナウィルスのパンデミックによって、日本を含め全世界でライブコンサートやフェスが中止
かつて、こんなにライブ(生の音楽)に触れなかった期間はあっただろうか?私が初めてライブに行き始めてからはなかった。

夏フェスやワンマンツアーも全て延期か中止、我々音楽ファンの生きがいを全て奪われたような気分だ。

・音楽は音を買うから体験を買う時代へ

CDが売れないと言われ始めてからもう何年経っただろうか?レコードからカセットテープ、CD&ミニディスクを経て、音源の媒体は21世紀に入りデジタルにシフトしていった。「CD売上減少による音楽産業の縮小」というワードをネット記事で目にしたこともあった。その後、デジタル配信などの売上は伸びていたが、サブスクリプション音楽配信サービスの台頭と共に縮小。

CDが売れなくなくなるのと同時に、4大夏フェスを筆頭としたフェスブームが2000年代から徐々に盛り上がり、音楽業界はフェスやワンマンライブを主軸とした体験型エンタメへと移行した。

・瀕死の音楽業界

そんな中の2020年だ。ファン目線ではライブに行けないという悲しみと喪失感が残る。しかし、音楽・コンサートに関わっている人からすれば仕事がなくなる、収入がなくなることを意味する。私は音楽に関わるプロモーターや関連会社まで一気に無くなってしまいかねないという危機感を覚えていた。そういった方々が職を失い業界を離れれば、今まで見ていたライブはもう見れなくなるのではないかとさえ思った。私は3月に配信された、一郎さんのインスタライブでの音楽業界の深刻さをTwitterにまとめていた。

正直当時は見ていてとても辛かったし、「ライブコンサートができなくなるという事は、彼らの収入がほぼなくなる事なんだ」と知った瞬間でもあった。(いかに今の音楽業界がライブを主軸にしているのかを知った)そして、いち音楽ファンとしてどうにかして音楽を守りたい、支援したいという気持ちがあった。

・音楽ライブの現状(2020)

そんな中オンラインでライブ配信をするアーティストやイベントが徐々に増え始めた。

オンラインゲーム「フォートナイト」のバーチャル空間を使った、トラヴィス・スコットのライブは話題になった。歴史的転換点とさえ言われた。最近では米津玄師がライブをした事でも話題になった。しかしそのライブを見ていても、YoutubeやTwitchのライブやライブ配信を見ていても何か違和感を覚えた。ライブに行ったことのある人なら共感してくれるだろう。

リアル感が薄い

誤解があるといけないのでここで書いておくと、私はバーチャルライブ否定派でもなければ、フォートナイトのライブがダメだと言っているわけではない。
とても素晴らしい体験価値だと思うし、バーチャルでしかできない演出もある。今後も需要は伸び続けると思っている。しかし、Youtubeのライブ動画などを含め、2Dの画面の奥でリアル感や没入感を再現するには情報量が圧倒的に少ない。ライブの醍醐味は聴覚や視覚、身体に伝わる振動(触覚)など、五感で音楽を感じる事に価値を感じ実際のミュージシャンやそのファンと同じ空間を共有できる事にある。だから皆会場へ足を運ぶのだ。

・ライブの再発明と言うべきサカナクション 光 オンライン

ここからが本題。(お待たせしました)
そこでサカナクションが実現させたオンラインライブ。チームサカナクションが今できる最高のライブ。

今回のライブはサカナクションに深く関わり、あの「新宝島」や「多分、風。」、「夜の踊り子」などのミュージックビデオを手掛けた、田中裕介監督が総合演出を務める。ビジュアルエフェクトはRhizomatiksが務めた(あの曲のエフェクトは感動したし、オンラインならではだ)。

今回、私が驚いた点は3つのポイントだ。今後見る方や再度見る方も是非このポイントに注目して欲しい!

1.光
まずは光。今回のライブタイトルが「SAKANAQUARIUM光ONLINE」となっている。「光」語らずして、本ライブは語れない。光の表現が冒頭から最後まで本当に素晴らしい。
これはサカナクション のライブに行けば分かるが、彼らは本当に光の使い方が上手い。レーザーやライトの切替えのタイミング、ライトの色と演出の調和。ライトを使った影の表現。もちろんチームの中にプロの素晴らしい照明チームがいるので、その方々たちのおかげだ。ただ今回はオンラインの為、2Dの画面の向こう側から表現するということになる。
そこでカメラワークが活きてくる。カメラのぼかしと光が上手く調和し、画面のアップと引きを使い分けながら曲と演出の世界観を引き立てている。これにはびっくりした。

神々しいリアルのあのライブ空間の演出のような没入感を光とカメラワークによって上手く再現されていて、オンラインでも視聴者に同様の体験を与える。

ここまで光とカメラワークがリアルタイムで調和している配信を私は見たことがなかった。衝撃だった。

2.音
今回のライブ配信ではドイツのKLANG(クラング):technologiesによる3Dサウンドシステムが採用されている。もちろん日本初の試みだ。今回のライブの肝であると言っても過言ではない。


この3Dサウンドシステムは本来イヤモニ(演者が耳にするイヤホン)向けの3Dmixシステムであって、ライブ演出で使用する為のシステムではない。
しかし、この技術をライブ配信で使用し、ファンによりリアルの空間に近い体験をしてもらいたいという事から初めて採用したのだと思う。(多分、そう。)

下記の画像見た上でイヤホンをして動画を見てもらえれば、3Dで音がどう鳴っているか理解できると思う。

画像1

画像(ヒビノインターサウンド株式会社HPより引用)


(KLANG公式Youtubeより掲載)

サカナクションは過去にもバイノーラル録音(※1)やリアルのライブでの6.1チャンネルサラウンドライブ(※2)の様な、音にこだわった表現をしてきていた。その為、今回も3Dサウンドシステム採用のニュースを聞いた時はそんなに驚かなかった。

しかし、オンラインライブではこれが想像以上に効いた。1.で書いた光の表現にこの3Dサウンドが合わさった時、ものすごい没入感が襲ってきた。鳥肌ものだった。良い意味で音が近くなく、広い空間で音が鳴っている様に聞こえる。

3Dの音の響きと広がりが演出の光に調和し、リアルに近い感覚を与える。

この響きはたまらなかった。スネアドラムの空間の抜け感を聞いた時、ライブ会場にいるのと錯覚したほどだ。音響チームの技術あってこその良い音である事も忘れてはならない。ぜひ環境が整うのであればイヤホンやヘッドホンで視聴して欲しい。(推奨)

※1 ステレオ録音方式の一つで、人間の頭部の音響効果を再現するダミー・ヘッドやシミュレータなどを利用して、鼓膜に届く状態で音を記録することで、ステレオ・ヘッドフォンやステレオ・イヤフォン等で聴取すると、あたかもその場に居合わせたかのような臨場感を再現できる、という方式である。(Wikipediaより引用)

※2 米ドルビーラボラトリーズ(Dolby Laboratories)社が開発した音響システム「5.1ch」のスピーカー構成に、聞き手の背後に配置するスピーカーを加えたサラウンド方式のことである。それぞれのスピーカーが独立した音を再生するため、再生される音は臨場感にあふれる。(Weblioより引用)

3.舞
舞とは舞台の意味だ。今回のライブはまるで舞台演劇や映画、ミュージックビデオを見ている様な感覚に近いかもしれない。一郎さん本人も「一発撮りのミュージックビデオ」と表現していた理由も分かる。
まだ見てない方もいると思うので、詳細は今後機会があれば書こうと思う。

楽曲の世界観や物語を配信映像だからできるものに落とし込んで、視覚的に表現していた。

リアル空間でないからこそ、ストーリーのある映像作品として表現する事で、視聴者にその空間に入り込んでもらうという表現が成り立つ。

このミュージックビデオの様な映像が生で(現在進行形)で音と調和しながら進んでいく体験はとても新しい体験でワクワクした。そして一郎さんがカメラに語りかけてくるシーンでは「うん、うん。」と観てる側が嬉しくなってしまいそうな、ライブ会場でのファンとのコミュニケーションに似ていると思った。何よりも「一緒に踊ろう」をリアルで共有できるのは、とても高揚感が高まった。


上記の3つのポイント、光・音・舞が合わさった体験は、まだ世界で誰も表現していないライブの形だと思う。ここまで読んでいただければ、私がライブの再発明と表現した理由もご納得いただけるのではないだろうか。とても最高だった。久しぶりにライブに行った様な感覚を得る事ができた。皆が絶賛する理由も分かるし、ファンのブログやSNSの書き込みを見るととても感動した事が伝わってきて、共感する事が多かった。

まだ観てない人、ぜひイヤホンやヘッドホンをしてこの感覚を体験して欲しい!

オンラインだからこそできるライブがある。音楽表現の可能性が広がったライブであると言える。私は今回のライブは今後、音楽の表現とオンラインでのライブの可能性を広げたライブとして評価されていくと思っている。

この新しい音楽体験を私達に見せてくれたサカナクションのメンバー、そしてライブに関わっていたチームサカナクションの方々に深く感謝を伝えたい。

・今後の音楽ライブと業界について

残念ながら、2020年3月〜2021年1月での国内ライブ・エンタメ業界の中止・延期によって損失が出た公演数は43万2000本(ぴあ総研調べ)となっている。その状況下で業界に関わる全ての人が元の仕事ができるようになるまで、私たちが楽しくライブやフェスに行けるようになるまでには数年かかるかもしれない。
その反面、今回のオンラインライブを経て少し希望が見えたのも確かだ。サカナクションが魅せたライブの形は、彼らがこの状況下でも音楽の表現の方法とチームを守る方法とファンに音楽を届ける方法を模索してたどり着いた方法だと思う。

そして今後も業界全体でオンラインでのライブ公演数は増えるだろう。その中での音楽表現の可能性として、チームサカナクションが見せてくれた没入感あるライブは音楽の希望と可能性を切り開いたと思う。今後もっと面白い試みをする様なミュージシャンが現れるかもしれない。

・音楽業界への支援

ライブエンタメ産業を未来へ残す為には私達音楽ファンが支えるしかない。数年後にライブやフェスが見れないとなってしまっては辛すぎる、その空間を作っている方々を支援したいという思いがある方は下記支援サイトから支援ができる。

- Music Cross Aid -
日本のライブエンタテインメント産業を担う事業者・スタッフの現在とその未来を支援するための支援プロジェクト。
一口1000円から支援できます。


- NICEACTION(サカナクションを支援する) -
一口100円からサカナクションに支援金を送れます。ライブや音楽を観たり聴いたりして彼らを支援したいと思った方はぜひ下記サイトへ!


「SAKANAQUARIUM光ONLINE」は2020年8月23日(日)23:59まで、アーカイブが残っておりチケットを購入いただければ期間中何度でも視聴可能です。
今回のnoteを読んでライブ見てみたい!と思った方は下記ページから詳細確認できますのでチェックしてみてください!


初めてnoteを書きましたが、今後も大好きな音楽についてやテクノロジーについて、その他趣味について書いていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

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