貸本屋三代目店主、いよいよ立退きへ!どーする? どーなる!?〜Vol.5〜

春の匂いをはらんだ風吹く今日、
さても皆様、お久しぶりございます。
三代目貸本屋店主・マリでございます。

この数ヶ月、仕事や店のこと、確定申告などで
ドタバタとした日々が続いており、
すっかりとご無沙汰しておりました。

そんな中、諸方面の皆様からぽつぽつと
「再開して欲しい」というありがたいお言葉を頂きまして、
あらためて店主日記を更新していこうと決意した所存でございます。

お待ちくださった皆さまも、
「ハア? 待ってねえよ!」という皆さまも、
お時間ありましたら、どうぞお付き合いくださいませな。


さて、それでは始めましょうか。

今回は、弁護士事務所から通達がきたその日の思いを
つらつらと書いて参りましょう。
(注)私自身の心情吐露が長く続く回となりますが、
ここは今後の展開に外せない内容なのでお許しあれ。


遡るは、今からちょうど半年前・・・・・。

2016年10月7日。
私はいつものように店に出かけ、
いつものようにポストから返却本を回収する中、
そこに見慣れぬ封書を見つけたのでございました。

ひっくり返して差出人を見れば、
見知らぬ弁護士事務所の名前が書かれているじゃあありませんか。

心当たりもやましさも一切ございませぬが、
人間、こういう瞬間は妙にドキドキするものですね。

さっそく封を切れば、何やら物々しい通達の文書です。

ざっくり意訳させていただきますと。

「この土地の持ち主が変わったからビル建てるよお〜! 
あんたんとこ定期借家だから来年の5月には出てってネ!
あと、早めに出てくれたら幾ばくかのお金を差し上げるから、
そこんとこ、友好的によろしく頼むよっ★
とりあえず、連絡待ってま〜〜す!」

・・・・・!?

晴天の霹靂と言うしかないお便りを読みながら、
「マカロニほうれん荘」のトシちゃんのごとく、
「わお・・・!」と呟く自分だったのでした・・・。

・・・・・・・・・・・・

振り返れば、この貸本屋を引き継いでから7年超。

その間には、あまりのしんどさと儲からなさに
店ごと焼き畑農業くらいに燃やしちまえばいいんだ!
と思った時期もあったほど・・・・。

それでも「やめないでほしい」というお客さんたちに向けて、
「じゃあ、私がやめたくならない方法考えてよ!宿題だからねっ!」
と無理難題を突きつけることもあったほど・・・・。

この時、実際に具体策を考えてきてくれる子がいたり、
「考えたけど、宿題できませんでした。ごめんなさい」と
一生懸命に言ってくれる子がいたのは、実にありがたい話です。

しかしながら、我ながら理不尽だとわかっていながらも
どこにも行き場のないこの昏い暗い気持ちを抱え続ける日々と、
それを拭いきれぬ、どーにも小さな自分の器を、
心底呪ったこともありました。

それでもやめなかったのは、なぜかって?

はっきり言ってしまえば、
「やめる手筈にかけるだけの気力も時間もなかったから」ですよ。

これがリアル。

わかります、皆さん?
こちらから言わせてもらえば、本屋の持つ「素敵感」など、
「リアルの前ではまったくの無力ッッッッ!」なのですよ。

加えて言えば、私は情緒もへったくれもないリアリストであり、
本屋の素敵感を求めてやってくる連中を叩きのめし続けてきた、
まさに「リアル上等!」の、リアル上等兵なのですから・・・。
(水木しげる先生、戦中に最終的には上等兵まで行ったそうですね。
御大の生き様こそが、まさにリアル上等兵だというリスペクトも込めて)

そこからさらに時を経ていく中では、
「もう店ってレベルじゃないんだからさあ、
キツイ時はちょいちょい休んだっていいじゃないの?」となり、
「でも、家賃すら払えぬ経営はさすがにイカン!」と気力を持ち直し、
そこからまた体調を崩し、ちょっとした手術を経た後には、
「やっぱしんどいわ〜。でも、店閉める手配も作業もやる気力ないわ〜。
もう、赤字をどうこうしようとすること自体諦めるわ〜」となり・・・。


ええ、そうなんです。
弁護士事務所からの手紙が届いたのは、
こうしたいろいろな思いを経たのちのこと。

行ったり来たりする気持ちを整理した結果、
「自分を追い詰めない程度に店を開けつつ、
足りない費用は自分の本業で補う」という
「ハイパー★低め安定飛行」で運営を続けていこうと
心に決めたまさにその直後だったのです。


・・・・・・・・・・・・・

私は読み終えた文書を封筒に戻したのち、
小さくため息をつき、こう思いました。

「これが潮どきか・・・」と。

雑然と本が積み上げられた店内をぐるりと見回し、
天井まで高く伸びた本棚をゆっくりと見上げれば、
不覚にもしみじみとした気持ちが押し寄せます。

あんなにも、「もうやめたい」と思い続けてきたのに。
だのに〜、な〜ぜ〜♩(←BGM「若者たち」でお送りしております)

ここにきて、ひとつの季節の終わりを感じるときのような、
寂しいような、切ないような、
うっすらとした惜別の思いを
まさかリアル上等兵のこの自分が味わうとは。。。

・・・・・・・・。

いやいやいやいや!!
ちょい待ち! ちょい待ち、自分よ!!
一時的なセンチメンタリズムに流されるのはやめ〜や?
続けたからって、その先に一体何があるよ?

ここで過ごす時間は、そりゃあもちろん楽しい。
いろんな子がやってきて、いろんな話をしていき、
たまたま訪れたお客さん同士が盛り上がる様子も楽しい。

手前味噌ではありますが、
「なかなかいい空間ができたんじゃないの?」と
思うこともしばしばあるくらいには、
この店への愛着もありましたよ。

でもねえ・・・・。

移転してまで続ける意味が果たしてあるのか?

そこには費用も労力もかかる。
何より、惰性で続けてきた今までと違い、
経営そのものへのリスクは大きく跳ね上がる。

そして、もしも続けるのだとしても、
何か新しいことを始めでもしない限りは
今までと同じ日々が続くだけ。

思い起こせばこれまでの人生は、
ひと言でいえば、「ノーフューチャー上等!」。
アホ犬のように、何かに向かってまっしぐらに走っていくことが
それはそれはもう、山の如くありました。

けれど、そんな時には必ず、向かっていく「その先」に
何かしらの目的やワクワク、あるいは強い欲求があったのですよ。

では、今この瞬間の貸本屋に対してはどうか。
これといった目的もなく、ワクワクするよなやりたいこともなく、
欲求ならとうに満たされてしまっているわけですよ。

こちとら、現状維持のためだけに
「えいやっ」と立ち上がれやしませんのよ。

来し方行く末、冷静に考えてみたなら、
「そんな何の足しにもならねえセンチメンタリズムなんぞ、
とっととドブにでも流しちまえよ!このおセンチがっ!!」と。

「そうだ!そうだー!」「やめろ、やめろー!」
「やめちまえ〜〜!!」「ワ〜〜〜!!」
脳内の烏合の衆の皆さんまでもが叫び始めておりまする・・・。

「もう、やめるっきゃない!!」
おセンチ軍団をマウントで押さえつけ、
早くも、通達を読んだ15分後には、私は意を決していたのでした。


この日も、いろんなお客さんがやってきましたが、
「やめることはギリギリまで言わないよーにしよ」と決め、
気持ちの揺れを抑えつつ、いつも通りの通常営業を続けました。

そうこうするうち、
閉店時間の23時まであと少し、というタイミングで
数年前にこの街から引っ越したお客さんが久々に現れます。

彼女は小説も漫画も大好きで、いつも長逗留しては、
最近の自分的ヒット作やその考察についての談義に花を咲かせ、
転職や引越しなどの悩みを話してくれたりもした子。
引っ越した後も時折この店にやってきてくれるのです。

いつものごとく、いろんな話をしたのち、
彼女はしみじみとこう言いました。

「このところ忙しくて、ようやく来ることができました〜。
私は本も好きだけど、この店とマリさんの、
この距離感が本当にすごく好きなんです。
こういう店って他にないと思うから、
続けてくれてて嬉しいですし、ずっと続けて欲しい」
(↑盛ってません。自画自賛するつもりは全くないので悪しからず・・・)

ここまで言ってくれる彼女の気持ちを嬉しく思い、
私はこう告げたのでした。

「今日はそんなあなたに、残念なお知らせがあります。

この店、立ち退きが決まりマシタッッ!!」

「ええええええっっ!?」

驚愕の叫び声を聞いた2時間後、
事態は再び急転換したのでした・・・・。


さて、だいぶ長くなってしまいましたので
今宵はこれにて!

次回は、「貸本屋店主の新たな野望」を
お送りする予定です。

それではみなさま、良い夢を!

つづく・・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?