貸本屋三代目店主、いよいよ立退きへ!どーする? どーなる!?〜Vol.7〜

新緑が芽吹き、鮮やかな黄緑色にハッとする今日この頃、
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

この季節のあの色がとても好きな、
貸本屋三代目店主マリでございます。

第7回の今宵は、
「えっ、桜咲いてたはずが、もうそんな感じ?」と思うここ数日のごとく、
「えっ、物件あると思ってたのに、実はそんな感じ!?」
と思った出来事についてお話しして参りましょう。


さてさて、
場面は立ち退き通達が届いたその晩の、深夜から続きます。

三代目貸本屋店主は、常連さんたちの胸熱な議論の果てに
「テント立てるぞ~!」「鋭、鋭!」「応っっっ!」という
燃え立つ思い、人間50年の織田信長的情熱を滾らせ、
屋上バルコニーの物件に思いを馳せておりました。

そして、
「テントを立てるなら滞在型のサービスもやるっきゃない!」と考え、
逸る気持ちのままに、早くも明け方5時過ぎには、
認可も手続きも不要でお茶を出す方法まで調べ上げていた始末です。


さて、翌朝。

「誰よりも早くこの不動産屋に問い合わせようぞ!!」とばかりに、
私は開店予定の10時より30分以上も前から携帯を握りしめ、
熊のように落ち着きなく部屋中をうろついておりました。

そして、9時59分を過ぎた瞬間。
ケンシロウが秘孔を突くがごとき正確さと迅速さで
精魂込めてその電話番号を打ち込んだのでございました。


ええ。もちろん、不動産屋というものは、
チケットぴあほどの電話がかかることもございませんから、
「俺に血眼グレート」もかくやと目を充血させた自分をよそに、
ごくごく普通に「はいはい〜」とつながりましたとも。

私は祈るような思いで、例の物件がまだあるのかを聞きました。

すると、「ああ、あの物件ならまだありますよ!」
と、さらっと言うじゃあありませんか。

ぃいやった〜〜〜い!! まだあった〜〜〜い!!!

すぐさま内見の約束を取り付け、私は電話を切ったのでした。
もうテントは目前だというこの状況に、まさに有頂天!


・・・・・・恥ずかしながら、この時の私ときたら。

「通達の翌日にこんな物件があるなんて、
やはり貸本屋を続けよ、という運命ですかっ!
なんなんですかっ! ディスティニーっ!!」と。

「これはもう決まったも同然! 
・・・いや、今日、絶対決めてやるぜ!」と。

さらに、
「不動産屋の人にちゃんとしてそうと思われる服を着用せねばっ!
綿はダメだ、綿はいかん! つるっとしてる素材の何かを!!
・・・でも、あんまお金持ってそうと思われたら
足元見られて交渉に不利になるのかも・・・?
わあ、これ違う!これもこれも違う!
一体何着ればいいのっ!?」と。。。

その挙動不審な様子はまさに、
「一目惚れした可愛いあの娘へのプロポーズ大作戦」の直前。
当日を迎えた朝、肩に力入りまくりっ! くらいの、
異常なまでのハイテンション状態だったのでございました。


しかし、約束の時間の40分前。

突如として携帯が鳴ったのでございます。

見れば、先ほど電話をかけたI不動産の番号ではありませんか・・・。

イヤ〜な予感がしながらも、恐る恐る出てみれば。

「すみません! あの物件、数日前に申し込みが入ってたみたいで、
もう契約進めることに決めたらしいんですよ」

グワラゴワグアガッキーーーーン!!!!
(↑言わずと知れたドカベン岩鬼の効果音で
漲るショック感をお届けしております)

ぬわ〜にいいいいいいい!

それってアレか? 
いわゆる悪徳不動産屋の見せ物件っていうやつなんか!?

そういえば昔、渋谷にあるチェーン系の不動産屋に問い合わせた時、
「ありますよ!」と言われて店を訪ねたら
「この物件、すごい虫が出るんですよねえ。それで今、業者が駆除してるらしくてお見せできないんですよお。他の物件だと、もうちょっとお高いけど
こういう物件があるんですけど、ドーデスカー?」
と言われたことがございましたっけ・・・・。

・・・・でもさあ、それだったら来店させてから言うよね?
内見行く40分前に正直に言わないよね・・・・?
じゃあさあ、やっぱり、物件はあったってことだよね?

この時の私の心持ちと言えば、
「フラッシュモブまで用意してたのに、
彼女、約束の時間に来なかったんだよね、ハハハ・・・。
1日早く他の奴にプロポーズされてたらしいんだよね、ハハハ・・・」
状態だったのでした・・・。

ああ、やはり人生とはそうそう上手くできたものではないのです。。。
運命の彼女だなんて、こちらがいくら思ったところで、
その彼女自身からしてみれば
「お前、昨日今日のポッと出のくせに
何フザケたこと言っちゃってんの?
その発想そのものが図々しいんだよ、あぁ〜ん?」なわけですよ。。。


ああ、昨晩にうっとりと思い描いたあのイメージ、
「オレンジ色の光に照らされたテント」の姿は、
儚く燃え盛る本能寺の白壁を暗示していたのかもしれませぬ・・・。

そして、件の不動産屋の話によれば、
「この物件、全然人気なくて半年くらい宙に浮いてたんですよねえ。
どうして今になって急にそんなことになったのかなあ」と。

あああああ〜。。。。。
ひとたび、テントへの野望を抱いてしまっただけに、
がっかり具合、史上最大にハンパねえのでございまするよ。。。。


でも。
でもでもでもでも!

私には、これまでの人生において譲れない信条がございます。

それこそが、
「常に想像の斜め上を行け! 
やせ我慢でも信じて行けばその先がある!!
想定の範囲内で諦めたら、そこで試合終了ですよ!」なのでございます。

「いよっ! 安西先生、さいこ〜〜〜〜〜う!!」なのでございます。

そう。通達をもらったその晩に、
テントの野望を見つけたのも運命ならば、
その物件が「お願いタッチ、タッチ、そこにタッチ♪」的な、
ほんのわずかなタッチの差で契約が決まってしまったのも、
また運命なのでございます・・・・。

ならば。

もっといい物件を見つけるっきゃない!!
やるっきゃ騎士(ナイト)なのですよ!!!!

こうして、ふたたび決意を固めた私は、
この翌日、もっと頼りになる不動産屋さんに行こうと考え、
かつて私の自宅の引越しを手伝ってくれたB不動産を訪ねたのです。

地元の不動産屋が3つ巴で群雄割拠する中、
ある一部のエリアを押さえているのがこのB不動産でございます。

そこには、いずれ二代目を継ごうという
私と同世代の、不動産のプロフェッショナル、
I田さんがおります。

このI田さん、ちょっとばかし変わっていて、
だからこそ、本当にとっても信頼できる人なのです。

逆流性食道炎を患っているとのことで
常にゴホゴホと咳き込みながら、
「今日も体調悪くて、午前中は無理でした」って
いつもトキくらい血を吐きそうなムード出しているんですが。

その一方で、「うちは管理もリノベーションもやってるんで、
紹介して終わりの、いい加減な仲介不動産屋とは違うんですよ」
と、ことあるごとにニヒルに微笑むのです。

やり逃げ上等な小悪党の不動産屋連中どもを、
包み隠すこと一切なく、ちゃ〜んと憎んでいる彼は
けして「いい人」だけでは終わらない、
まさに大人げなさ満載の、プロ中の本気プロなのでございます。

あの時、納得できる物件を、納得できるお値段で借りることができたのは
私の思いをじっくり聞いて理解してくれた上で、
ダメ物件のどこがダメかを商売抜きで指摘してくれるI田さんがいたから。


そして、フリーランスのライターという、
はっきり言えば、会社員の皆さまと比べて社会的信用度の低い立場の私が
大手不動産会社の審査の砲弾をくぐり抜けることができたのは、
申込書の書き方から、取引先や年収の表現方法、保証人の立て方まで
I田さんがいろいろと親身かつリアルかつ黒い配慮をしてくれたから。


ついでに言えば、このエリアで物件を探したいという友人を紹介した時、
本人の本気度が大したことないと感じたためか、
ろくな物件も紹介せずに放置したという。。。。
「やる気のない奴ぁ、とっとと去ね!」とばかりに、
非常にストイックかつ、はっきりした人なのでございます。
(実際、その友人は物件探しの2日目には、
一緒に物件を回る私やI田さんを尻目に、
「もう疲れちゃったぁ」とのたまう体たらくでございましたから・・・)


てな訳で、それはそれはもう、
めちゃめちゃ歴然と、物件に対する矜持がある人なのです。


うむ。
あのI田さんならきっと、
納得いくまで一緒に探してくれるに違いないっっ!!!


午前中にB不動産を訪ねてみると、
I田さんは5年以上前に契約した私のことをちゃんと覚えていてくれました。

そして、テントへの思いや物件に対する最低条件などを説明すると、
「いい物件、探しましょう! 僕、イメージ湧いてきましたっっ!」と。

ね? 一緒にイメージ湧いてくれる不動産屋さんって、
そうそういないものでございましょう? 
それ本気で言ってくれちゃうところがさすがなのです。

ああ、なんという心強さなのでしょうか!

ドラクエで言えば
「すんごい傭兵、手に入れた!」的な、この気持ち。

私は、また新たな希望の灯を胸に灯したのでございました・・・。


さて、今夜も夜が更けて参りましたので、ここまで。

次回は、「えっ?この物件、すごい安いと思ったけど、
ものすごいデトロイトみたいなことになってるって、いったい何なの?」
をお送りしたいと思います。

それではみなさま、おやすみなさいませ!

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