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青の愛-「クロードと一緒に」観劇レポ

横浜赤レンガ倉庫で、「クロードと一緒に」を観劇してきました。


松田凌さんという俳優を知る前、多分2015?2019?の時に、ポスターのビジュを見て「これ観たいな〜」とうすぼんやりおもいながらも、その時は観ずに終わっていた作品。

進撃ミュを経て「え!?この人があの人!?」となり、今回に至ります。


いろんな観点から、思うところを書き留めておきます。



下記ネタバレ含みますので観劇予定の方はお気をつけください🫡

あらすじ

1967年 カナダ・モントリオール。判事の執務室。

殺人事件の自首をしてきた「彼」は、苛立ちながら刑事の質問に、面倒くさそうに答えている。
男娼を生業としている少年=「彼」に対し、明らかに軽蔑した態度で取調べを行う刑事。部屋の外には大勢のマスコミ。

被害者は、少年と肉体関係があった大学生。

インテリと思われる被害者が、なぜ、こんな安っぽい男娼を家に出入りさせていたか判らない、などと口汚く罵る刑事は、取調べ時間の長さに対して、十分な調書を作れていない状況に苛立ちを隠せずにいる。

殺害後の足取りの確認に始まり、どのように二人が出会ったか、どのように被害者の部屋を訪れていたのか、不貞腐れた言動でいながらも包み隠さず告白していた「彼」が、言葉を濁すのが、殺害の動機。

順調だったという二人の関係を、なぜ「彼」は殺害という形でENDにしたのか。

密室を舞台に、「彼」と刑事の濃厚な会話から紡ぎ出される「真実」とは。

「クロードと一緒に」公式サイトより

舞台に対して3面を囲うように客席がありました。
中央の舞台の周りにはぬいぐるみや本が積まれたり、木馬があったり。

登場人物全員が、そのステージの周りを歩いて登場します。

イヴは泣くような、笑うような表情でとぼとぼ歩いて、警備員につれられて登場。


刑事の怒号から、物語が始まります。

男娼のイヴはなんのために、ここに刑事を呼んだのか。
外に記者を集めて、判事の部屋に籠城したのか。

なぜ、「彼」を殺したのか。

物語が展開するにつれて、徐々に見えていきます。


物語の良さ

芝居、とは

今回の作品で一番印象に残ったのが、松田凌さんの男娼としての佇まいです。
タンクトップにデニムに華奢なペンダント。短く切った黒い髪。
どこにでもいる普通の男の人(にしては顔が綺麗すぎるがな!)の格好なのに、どこか艶っぽい、ピンクのリップつけてる?みたいな、それでいて女性とは違う、可愛さが滲むのです。
そこにいるだけで「男娼」のイヴ。そこに松田さんの凄さがあります。

自分が芝居をやるようになってからわかった芝居の難しさは、そこに「居る」というシンプルなことなのです。なにかやろうとしたり決まったセリフを言うよりもずっと難しい。
でも彼は、イヴとしてそこに居る。確実に。



まどろっこしいの美

物語は、滔々と同じやり取りの繰り返しが続きます。
ところどころ辻褄があわず、夢か現実か曖昧な供述を繰り返すイヴ。だーかーらー、と初めから話しだしたかと思えば、気づけば柵の上に立ってるところまで飛躍する。「勘弁してくれ」「頼むから教えてくれ」「いい加減にしろ」こういう我慢比べの堂々巡りが、戯曲ならではのまどろっこしい言い方で続くのが「あ〜これだ〜戯曲〜」となりました。

物事をスッと言わないことの意味。
ぐるりんぐるりんと大回りしたセリフ長回しを聞いて理解していくうちに「もしかしてこれって……ただ「好き」って二文字で済むことをひたらすら言葉を尽くしてずっと言ってる…ってコト?!」a.k.aシェイクスピアをはじめとした戯曲の数々にもその良さはある。ただ今作とシェイクスピアの違いは、シェイクスピアは言いたいことがたくさんあるから長セリフになる一方で、デュポワの戯曲の長回しには、どちらかというと日本の和歌のような、大事なことこそ直接的に言うべきでない、というような、直接的でないことの美、奥ゆかしさみたいなものがある気がする。

そうだ、
イヴの長回しは、直接的でないことに意味があるのだ。

未成熟な美。
まだ少年で、人生経験も少ないイヴのわずかな教養で、かかえた大きな感情や喜びについてうっとりと話す、その一生懸命さや未熟さに、アシンメトリーな美しさが詰まっている。これまでの人生でいろんなことがわかったつもりでいる刑事にはそれがわからない。「あんたは何もわかってない!!!!」と劇中イヴは何度も言うが、これは「わかってよ」の意味なのだ。どうしてわかんないんだ、僕が感じたことを。僕よりずっと頭のいいはずのあんたがなんでわかんないんだ!
まだ発語したばかりの子供が、夢で見たことを一生懸命しゃべるときの必死さみたいな美しさが、家族とのバカンスに出るという現実的な予定やストレスが迫りイライラする刑事との対比が成立している。


今作は、このまどろこっしさにはイヴの時間稼ぎもあったとおいおいわかります。途中夢みがちになりながら話すイヴと、「俺が聞きたいのはそこじゃねぇえぇ!!!」とキレる刑事。時間稼ぎにしてはイヴそろそろ喉から血が出るんじゃ?刑事血管切れるんじゃ?と思わせる絶叫を交わすので心配になる。


同性愛を描くこと


俳優の若さの表現として「コロコロ表情や感情が変わる」というツールがある。イヴはまさにそうで、刑事への演説の中ではコロコロ表情が変わる。キレる若者からピュアな少年へ、かと思えば天使か?ってくらい愛に満ちた表情をしたり男娼としての色気が出たり枚挙に暇がない。なるほど、若さゆえの夢みがち、堂々巡りかと刑事もお客も思わされる。巧みな戯曲だし、台詞回しだった。だが違う。

イヴは、クロードが死んだあとにたまたま客でとった判事の鍵を盗んで、判事の弱みを握ったことで、自分の味方をしてもらおうとしていた。時はゲイが違法の時代である。男を乱暴に抱いたあとは全て無かったことにしようとする客ばかりで、判事もきっとその一人だったのだろう。大事な大事なクロードを守るため、クロードとの奇跡の時間を守るため、傷つけられながらもイヴは時間を稼いでいたのだ。

だって
クロードが聞いた
「僕を君の友達に紹介してくれる?」
これは、ゲイ版の「月が綺麗ですね」じゃないか。


「ケツの穴だけでしか世間と繋がったことのない」イヴが、はじめて心で繋がった人。怖いくらいの幸せ!これ以上はきっとない!ないし、あってほしくない。自分にも、彼にも!

観ながらふと阿部貞事件がよぎりました。
この人の最後の女になりたい、みたいな気持ちなんだろうか、と。ほら、言葉にするともう実に陳腐である。
だから、事実(それは虚構だけども)がどれほどうつくしいかをみせてくれるのが、舞台の、芝居の良さなのです。命を削る俳優をとおして、わたしたちは人生に散らばる美しいものに気がつく。
わたしもこれ以上ない幸せの中で、このまま死んでしまいたいと思った時がある。イヴのいうようにこれを言葉にすると陳腐になる、対応する言葉がないくらいの感情。爆発、としか言いようがないその中で、喜びの中で、クロードは死んだのだ。そこに、なにか「問題」があるだろうか?


イヴが殺してしまったのか、クロードが自ら死んだのかは結局わからない。ただ、殺したとはイヴは言ってなくて、指紋もなかった。それが、良い。この脚本の一番いいところだとさえ思う。
結局クロードとイヴのその時間にどんな「行動」があったのかは、もう誰にとっても重要ではないってことなのだ。ただゲイの二人の間に人生でいちばんの瞬間があって、その結果、笑顔でクロードがこの世を去った。「一瞬痛かったかなと思ったけど、きっと痛くなかった」とイヴも言った。そういうこと。いつだって、ことを「問題」視するのは、そこに居ない他者なのだから。




判事は来ない。
来ないなら、もういい。
早くしないと

「腐っちゃう…」


短い人生の中で得た最大限のできることを全力でやったけど、もういいよ、、と。三角座りで膝を抱える姿は、ただのイヴという少年そのものでした。

初めて知った愛のやり場がわからず、ひとりになってしまった少年が泣きながら歩いて行った先は
光り輝くドアの向こう。

あの終わり方をみて、
あぁきっとこれからもクロードと一緒に「生きて」いくための決断だったんだな、と思えたのです。







ここからはオタクの殴り書き

・第一声目から、倍音の響く良い声!!「もう何百回も話しただろ!」低くもあり、高くもある不思議な声。

・男娼の話になると得意気というか、わざと男娼「らしく」話したりするのが健気で痛々しい。かわいい。

・「このくらいの背で、このくらいの体のやつにやられる気持ちわかる?」このセリフーーー!!!身体の小さい華奢なイヴが背の高い刑事に向かって一瞬少年の顔をして言うから、心臓がギュッてなった。死ぬ

・男娼としての身のこなしになると猫科の動物みたいに物音をたてずに体をしならせるのが天才だった。

・判事に話す!!!判事を呼べよ!!判事!!!!!……ハンジ……ってなったのわたしだけじゃあるまいな。いや一瞬だよ!!?!一瞬!!!!!

・ところで後ろでずっとたばこ吸ってた人めちゃ好み。敵役をダルそうに補佐する人いつもイケメン説。

・カテコで出てきた人、あれっ?、イ、イヴ…?イヴどこ…?ってなった。もう疲れた松田凌さんになってた。疲れるよなそりゃ…寿命縮んでる気がするもん…すみませんこちらの寿命ばかり伸びて………

・松田さんの「スリル・ミー」が観たいよぅ…「私」やってくれよぅ…
「彼」は仮に大野拓朗さんだととてつもない((((良))))だが、多数の死者が出るな。あぁ、観たい(血眼)

・会場でテンパリすぎてパンフレットを買い忘れ、オンラインで急いで購入したらうっかりDVDつきでした。あぁうっかり。たのしみ。



また思い出し叫びが書き足される可能性大です。


まりさ

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