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パルテダールのレディーは颯爽と石畳を行く ー 穏やか貴族の休暇のすすめ。[登場人物④]

ヒロイン不在の『穏やか貴族の休暇のすすめ。』ですが、準レギュラーといえる女性キャラは結構います。メディさんとレイラちゃん以外は名前がないし、メディさんだって薬士だからそう付いたであろう名前で、そういう意味ではモブだらけなのですが、多くの女性が度々再登場してはリゼルたちと楽しく、時に真剣に関わっていきます。そして頼もしい!あと、なんか強い!!(アクが)

本稿は、パルテダール王国内で交流のある女性たちのまとめです。アスタルニアとサルスの女性も一纏めにするつもりでしたが、書き切る前に一万字を超えたため分けました…。

パルテダールの頼もしき女性陣

女将

ジルとリゼルの定宿「宿泊亭」の女将。
ノベル1巻4話から登場。コミックスは1巻4話で1コマのみ、本格的に出てくるのは何と3巻15話である。
年の頃は不明だが、「ちょいと〜〜〜なのかい?」といった年長者らしさの漂う話し方、料理頭である旦那の腹が「昔はもう少しシュッとしていた」という結婚歴の長さを思わせる記述があることから、四十路は超えていそうな雰囲気。コミックスでは小柄な背丈、ちょっとふくよかな体形にクリッとした目の可愛らしいおばちゃんとして描かれている。

「宿泊亭」は王都の南西、中心街との境に比較的近い位置にある一般向けの宿だが、女将は両親が冒険者*だった影響か、冒険者が逗留すれば彼らの生活ペースに合わせて対応し、元気に帰ってこようと思ってもらえるようにと心がけている。
肝っ玉も座っており、ジルのことは「見た目がとっつきにくいだけで中身はマトモ」と怖がらず、リゼルについてはそれこそ転移初日から面倒を見ており、その成長、特に生活面を見守ってきて微笑ましく思っている様子。リゼルの初依頼時はジルに「リゼルさんのことしっかり守るんだよ」と言いつけたうえに「夕飯は好きなものを作ってあげるからね!」と送り出していた。二人とも息子か。
ただし、行儀の悪い者の出入りはあまり歓迎しない。リゼルが迷宮初踏破を手伝うことになったアインたちや、パーティ入りする前のイレヴンといった、如何にも喧嘩っ早そうな連中には非常に厳しい。またリゼルが来て以来、業務やレイ子爵の用事でたびたび訪れる憲兵長にも「うちのお客さんにあらぬ疑いをかけないでくれるかい!?」など結構厳しい。

特筆すべきは食生活の面倒見の良さ。"食こそ体の資本"という考えが根付いており、朝食抜きで出かけようとするジルを見つければ「適当にするんじゃないよ」と食堂に座らせ、標準的な食事量のリゼルには「たくさん食べるんだよ」と、食べ切れるギリギリを狙って多めに盛る。おまけに「迷宮に行く」と伝えればサンドウィッチや握り飯を持たせてくれるありがたさ。ときにはスープまで付く。
リゼルたちと夕食を共にしに来るイレヴンも顔馴染み。大食漢ぶりには呆れているが、パンやパスタといった炭水化物をとにかく出して笑って回避している。アスタルニアから王都に戻ってきた時には「あの子の気まぐれは全然治らないね」と性質もしっかり見抜いていた。リゼルたちにとっては「頼れる寮母さん」的な存在であると同時に、危険な目に遭わせたくない大切な身内のひとり。女将がサルスに里帰りするときには三人とも寄ってたかって道中を心配した。

ちなみにジルはリゼルと出会う半年前から宿泊亭に逗留しており、リゼルもジルの隣の部屋を使っている。個室は2つのみで宿賃はそれなりにするが、もはや計算する気にもならないというほど莫大なカネを持つジルと、転移直後に剣を売り払って金貨200枚を用立て、冒険者として着々と稼いでいるリゼルは気にせず払っていた。
余談だが、アスタルニアから王都に帰還しても宿泊亭には戻れないのではと思いきや、一刀と貴族さんの使っていた部屋は名所扱いというか敬遠されたようで、普通に空いていた。二人とも一周回って営業妨害である。

*女将の両親は只者ではありません。両親とも冒険者界隈の重鎮的存在の元Sランク。母親はサルス編でリゼルたちが世話になる宿の女主人で、父親は侯爵家を出た直後のジルに多大な影響を与えた大剣使いです。どこに行ってもジルの過去と繋がる人がいるのが休暇世界です。


レイラ

マルケイドの冒険者ギルドでサポート窓口を預かる職員。ノベル2巻16話(コミックス3巻12話)から登場。
元気で明るい挨拶に、輝くような笑顔が印象的。可愛い。この作品で「可愛いお嬢さん」といえばナンバーワン、いやオンリーワンであろう。コミックスでは、ふわっとした明るい色のセミロングの髪をサイドテールにしている。

初登場は「水晶の遺跡」の地底竜戦の翌朝。隠し部屋と地底竜の存在を情報提供しようとギルドを訪れたリゼルたちの対応に当たった。基本的に明るくハキハキとしたお嬢さんだが、リゼルとジルが語る隠し部屋の内情に驚き過ぎてデスクをぶっ叩き、起動中の消音器サイレンサーを倒したまま要約を叫んでギルド中に聞かれてしまった。そのおっちょこちょいぶりがまた可愛いのだが、リゼルのギルドカード(まだEランク)を確認する頃にはいろいろ愕然とし過ぎて白目を剥いていた。

2回目は大侵攻。有事の際、冒険者の指揮を執るのはギルド職員という規定があるが、直接指揮を執るのが難しい場合は冒険者を代理人に指定できる。まだ年若く有事の経験もないレイラは、割り当てられた東門の指揮を顔見知りのAランクに頼んで状況把握に努めていた。巨大ゴーレムが迫る絶望的な状況で頭を抱えていたところ、運良くリゼルたちがやってきてジルがバッサリ斬るのを全力で応援していた。

冒険者業界は基本的に男社会で、ギルド職員もサルス以外はまた然りなのだが、レイラは冒険者ギルド長である母*に憧れて就職。実は彼女こそマルケイド冒険者ギルドの荒事担当である。新米時代、冒険者同士の乱闘を仲裁しようとして流れ弾的に肘鉄を食らったレイラは「喧嘩はダメだって言ってるのに!」と泣きながら逆上して冒険者を殴ったという(相手の鼻を折った挙句にプロレス技のフランケンシュタイナーをかました)。その一件で戦闘能力が認められてしまった格好だ。
ちなみにその時レイラが殴った相手こそ、大侵攻の時に東門の指揮を執ったAランクであり、この逸話が流布されているため、レイラを口説く冒険者は一人を除いてマルケイドにはいない。

*レイラの母親であるマルケイドの冒険者ギルド長も華やかな美人です。コミックスではレイラをカッコいい色気を持つ美魔女にしたような姿で描かれています。しかしその正体は元冒険者、しかもAランクの武闘家だったとか。レイラがその拳の実力を発揮した際、周囲から「どこでそれを…」と訊かれ、「お母さん…いえ、ギルド長からです!」と答えたのを聞いた全員が、ギルド長の装備が彼女に受け継がれなくて本当に良かったと感謝したとかしないとか。


団長(劇団ファンタズム)

移動劇団「ファンタズム」の団長を務める役者。20代半ば〜後半で、リゼルは自分とジルと同世代と思っている。143cmと小柄な背丈、ボサボサでアシンメトリーのロブヘアー、ドタ靴、そして顔のサイズに合わない大きな丸メガネをかけている。このメガネは演劇の恩師からもらったものでトレードマークらしい。一人称は女性らしくちゃんと「私」なのだが口調がほぼビートたけし、つまり「○○だコンニャロ」である。

もとは別の劇団の座付き役者だったが、劇団の解散を機に有志を伴ってファンタズムを旗揚げした女傑。活動地域は主にパルテダ周辺(おそらくパルテダール国内の大きな街、および隣国サルス)だが、遠方のアスタルニアでも公演する。

初登場はノベル2巻20-21話(コミックス3巻15話、4巻16話)。パルテダ中心街広場での舞台設営と、空間効果魔道具への魔力補充の依頼をギルドに出したところ、リゼルが魔力補充をソロで引き受けた。依頼で集まった冒険者たちの対応をした女性団員はリゼルを見て「なぜ貴族が…」とドン引きしたが、団長は『幻想の旅人』公演前日だというのに脚本にまだ手を入れるほど大混乱中で、やってきたリゼルを二度見もせず魔道具を持ってきた。
翌日の公演初日はBGMを一手に担うヴァイオリニストの怪我でやはり大混乱で、代演を名乗り出たリゼルのことを「絶対あいつだろ、すげえ品がいいの!」とすんなり受け入れている。「本当に冒険者かコンニャロ!」とは言っていたが。
なお、この時期リゼルはフォーキ団に狙われている真っ最中だったため、スタッドの「(ひとりで行かせるな!)」という無言の圧に負けてジルも付き添っている。
団長も劇団員も腹が据わっており、舞台上のリゼルに放たれた矢をジルが客席から短剣を投げつけて折り、その様子をリゼルが闇の範囲指定魔法で覆い隠したのにも動揺せずに演技を続けていた。男気が凄い。
(決闘シーンのクライマックスに襲撃されたため、たぶん客は暗転したのを演出だと思っている)

その後ファンタズムはリゼルたちより前にカヴァーナへ向かったが、アスタルニアで割と早々に再会(ノベル6巻75話)。パルテダと同じく設営協力の依頼をギルドに持ち込んだのだが、柔なものを嫌うアスタルニアの男に"劇団の手伝い"は敬遠されるからと職員に門前払いされ、冒険者にも野次られているところにリゼルたちがやってきた。リゼルはもちろん指名依頼として受けた。

アスタルニアでは『幻想の旅人』をアレンジし、既存キャラの"魔王"を美少女にして怪演。このキャラと部下との関係性はリゼルの発案をモチーフとしており、その気高く美しく、威厳と魅力を以って人を従える圧倒的な存在感はアスタルニアで人気となったばかりか、その"魔王"に惚れてしまった冒険者がいる。なんと団長が依頼を持ってきた時に野次を飛ばした男だ。リゼルは遠回しに「あれは先日貴方が野次を飛ばした方ですよ」と教えてやり、他のパーティメンバーは事実を察したのだが、彼だけが気づかず惚れ続け、最終的には祭りデートに誘っている。さすが夢を売る商売をしているだけあり、団長は「随分と洒落た誘い方もされたし良い夢見させてやる」と応じてやったという。男気が凄い。

アスタルニアの「小説家」とは友人で、船上祭に男装して付き合ってあげる代わりに劇団の台本を書かせたりしている。リゼルたちとも小説家を交えて度々交流しては結構美味しいところを持っていった。本当に男気がある。

団長は初登場こそパルテダでしたが、アスタルニアでなんだかんだ小説家さんとセットで出ずっぱりなので、アスタルニア枠でもいいんですよね。女性陣の中では最多登場じゃないですか。ファンブックの書き下ろし短編にも2回くらい出てきたし、もはや登場話を追っかける気力も湧きませんが、大好きです団長。
なお普段着が少年のようで動きがバタバタしているのもあり、筆者はノベルを読むまで「男性…?」と思っていましたスイマセン。


メディ

郵便ギルドや治療院に卸す回復薬の製造所の薬士。ノベル3巻31話(コミックス6巻28話)から登場。
金髪碧眼に巨乳を誇る20代半ばの美女。169cmと女性としては比較的長身。作業着のツナギにチューブトップ(しかもツナギの前身頃は全開)というワイルドかつエロい服装をしている。
町工場勤めらしい気風の良い話し方をする…というかこの作品の女性でおそらく唯一のがらっぱちだが、好きな男性のタイプは"知的で穏やかな人"と言って憚らない。一人称は「あたし」。

回復薬に使用する魔石の粉砕作業の依頼をギルドに出し、もとの世界にいた頃から回復薬の製造工程に興味のあったリゼルが「依頼を受けたい」と言い出したことからパーティで工房を訪れて悪縁ができた。
リゼルが"好みどストライク"らしく、顔を合わせて秒でプロポーズしている。工房の親方に怒鳴りつけられて一瞬は正気を取り戻したが、そのあともリゼルに「気分が乗って仕事が捗るから」と伊達メガネをかけさせ、彼の穏やかな言動に感激しては涎を垂らしながら作業をしていた。しまいにはリゼルに感じるエロポイントを生々しく描写したり一夜を共にする妄想まで口にし、イレヴンに"肉欲系女子"と命名されている。

その後もたびたび街でリゼルたちと遭遇しては、リゼルを舐めるような目つきで凝視してジルにドン引きされ、イレヴンに「やめろこの痴女!!!」とキレられているが、夢中になってリゼルを見ているので意に介していない。リゼル、ジル、イレヴン全員が美人認定するほどの容貌だが、頭の中身がエロ過ぎて誰の手にも負えなくなっている。

なおリゼルその人が好きというより、リゼルの外見や知性が好みなだけなようで、家が近所の誼で友人である魔物研究家曰く、街で好みの男を見つけては同様の変態的言動を世に晒しているらしい。


魔物研究家

ノベル2巻29話(コミックス5巻25話)【魔物の持つ無限の可能性を信じて】と題された依頼(精霊の庭スピリットガーデンのウォーターエレメント採取)の依頼人で、ノベル4巻54話【魔物を目の前で見てみたい】という護衛依頼から実体が登場。ヒスイたちが受けた"無茶苦茶な依頼"こと【ブラックエレメントの採取】も彼女のものである。

鳥の獣人。166cmのスレンダー(というよりガリガリで非力で貧乳)な体をスキニーパンツと白衣に包み、黒のピンヒールを履いている。鳥の獣人らしく羽の混ざったストレートのロングヘアーに覆われて顔立ちが窺えないうえ、一人称が「小生」で男性学者のような硬い口ぶりのため、イレヴンは初見で男女の区別がつかなかった。薬士のメディは近所に住む同年輩の古馴染みだが、見た目も中身も真逆。

魔物研究家とはいえ一般市民のため、研究用の魔物素材の採取を冒険者ギルドに依頼して活動していたが、魔物研究(というか魔物愛)が高じて生態観察の依頼を出したところ、ちょうどCランクに上がる直前で「ジャッジ以外の護衛依頼を受けたい」と考えていたリゼルが興味を示して引き受けた。(ジルは多少止めた)

リゼルとは魔物や魔力に興味のある知識階級どうしで話題に事欠かず、また女性らしい扱いをしてもらったことから「好みではないが、惹かれてしまいそうだ」と冗談を飛ばしていた。とはいえ彼女の興味の対象はあくまでも魔物だけである。観察の途中からはテンションが上がり過ぎて髪の羽をぶわりと膨らませながら「アッハハハハハハハ!!!」という高笑いと魔物観察の描写が止まらなくなっていた。
リゼルは「感情の起伏が大きいのは獣人だからだろう」と考えており、会話レベルを落とさず楽しめる依頼人として興味を持っているが、イレヴンに「当分あのうるさい笑い声は聞きたくない」と言われてしまい、指名依頼を断っている。


エルフたち

我々の現実世界ではゲルマン神話に起源を持つ神族である。「休暇。」世界でも、長命と異次元の魔力を誇る女性ばかりの伝説的種族として登場。王都編最大のアクション「魔物大侵攻」の鍵を握る。
初登場はノベル2巻41話(コミックス9巻38話)大侵攻2日目の午後だが、時間軸としては大侵攻勃発の数日前にリゼルたちと会っている。

エルフが住む集落があるのはカヴァーナの魔力溜まりにある森。マルケイドの迷宮「水晶の遺跡」の宝箱からリゼルが出した地図が示した坑道の上にあり、魔力濃度の高さゆえ人間不可侵の聖域である。リゼルはその特異な場所柄から「もし誰か住んでいるならば、きっと街には出てこない種族だろう」という前提で手土産を調達し、魔力中毒を起こさないように魔石を使った特殊な魔道具(バンダナ)を誂えて探索に乗り込む。
魔力濃度の濃さゆえに七色に輝く霧の向こう、魔力の影響で色鮮やかさを増した自然と強化された魔物たち。その先で出会った警戒心のない若い女性に唖然とする3人。そして、彼女の口から話しかけるように紡がれたのは歌ー古代言語ー。
もとの世界で古代言語の解読を果たしていたリゼルは、その事実から「この地に住まうはエルフである」と気づき、古代言語を用いて「あなたたちのことを知りたい」と交流を願い出る。
エルフたちは可愛らしい種族からの願いを心良く受け入れたばかりか、リゼルたちがカヴァーナを出立する際には鳥を遣いに寄越して「礼をしたい」とマルケイドでの合流を約束。それを受けてリゼルは西門で救った少年に古代言語の楽譜を渡し、いざという時には自分以外でもエルフの力を借りられるようにしたのだった。

エルフは自然に君臨する種族である。森の中に入ってきた人間の男たちリゼルたちを見ても脅威を覚えない。あまりに強く、子を成すこともないので、生ける者としても女としても危機感と無縁な彼女たちは、リゼルたちを"森に迷い込んだ蝶かなにか"としか思っていない。この作品中で竜と並ぶ異次元の存在と言っていいだろう。

リゼルは大侵攻でエルフの力を借りられたことを大変ありがたいとは思いつつも、自分たちと関わったことでエルフの伝説が脅かされることを懸念し、王都帰還後はかなり慎重に行動しました。ジルに「珍しく外野の意見なんか気にしてんのか」と問われて「気にしているのは彼女たちの品位ですよ。俺たちに独占されているなんて評価が付いたら申し訳がない」と答えています。
この後、大侵攻の政治処理が落ち着くタイミングで建国祭の王城パーティーに参加してしまったことでリゼルたちの周囲がいよいようるさくなり、「一度パルテダを出よう」と考え始めるのですが、エルフたちを守りたいという思いも大きな要因だったことでしょう。物理的に人間が脅かすことのできる存在ではないので、リゼルが言うように品位や歴史上での扱いを憂いてのことかと思います。
尤もジルにしてみれば「リゼルに独占される価値に比べたら、他人の評価など何の値打ちもない」らしいですが。(まったくこのスパダリは…)


猫の獣人の双子

そのままズバリ"猫の獣人"で、蠱惑的な美しさと抜群のプロポーションを持つ双子の佳人。長い黒髪、瞳はオッドアイで、片方はアンバーかカッパー(ノベル14巻カラー口絵から)。そして細く長い猫の尾と猫耳がある。一人は折れ耳、一人は立ち耳で、それ以外では外見の区別がつかない。夜の蝶らしく、真っ赤なルージュとマニキュアを施している。
二人仲が良いというか共鳴度が高いのか、顔を寄せ合って同じ意味の言葉を言うばかりか、重要なセリフを一言一句違わず同時に口にすることがある。

パルテダの最高級娼館の花形で社交界にも知られる存在だが、本業は裏商店うらみせにあるアンティーク雑貨店。骨董品と、金があっても一般市民には入手困難な希少品を取り扱っている。如何にもリゼルが好きそうな店だが、常連はリゼルではなくジルだ。ジルはここで「リゼルが香りを好むから」と愛飲している希少な高級煙草を相場の十倍(一箱10本で金貨10枚)で買っている。

初登場はノベル5巻64話。煙草が少なくなってきたことに気づいたジルが店に顔を出すと、「最近あまり来てくれないわね」と法外な価格の煙草を言い値で買う金蔓ジルの足が遠のいている不満を口にする。たしかにリゼルと出会ってからジルの煙草の本数は減っているが、彼女たちの店自体が不定休なこともあるだろう。そして「花売りの子達が言ってたわ、丸くなったって」「オキャクサマが言ってたわ、一刀がついに飼い慣らされたって」と、娼館稼業で耳にしてきた噂を口にした。だが彼女たちは直後「「でも私は、前より今の貴方のほうが恐ろしいわ」」と告げる。女は怖い。

2回目は同じくノベル5巻66話。リゼルがヒスイから「アスタルニア行きの口利きをしてあげるから、Sランク指名で来た依頼の代打を頼まれてほしい。君に行かせたい場所ではないけれど、一刀がいれば僕らSランクの代わりになる」と言われて受けたのが、彼女たちが籍を置く娼館の警備だった。そこは裏商店の奥にありながら貴族やセレブも私用に使う場所で、某公爵など夫人を伴って訪れるほど。要は、屋敷では使用人が常に傍にいて体裁を崩せない客層の息抜きスペースでもあるのだ。この依頼中、廊下で話していたジルの声を聞きつけた双子がドアを開けたことで、リゼルは初めて面識を持った。
双子は、「こんな良い所で遊んでいたんですか」とジルに向かって驚くリゼルを見て、彼がジルを変えた人物だと察知。「じゃあ貴方が一刀の飼い主|ご主人様なのね」と言いながらリゼルを品定めしている。
そのリゼルは「彼女たちの取り扱っている品を見てみたい」と、猫を安心させるように目元を緩めて挨拶して「今度、貴女方の店へ伺っても宜しいですか?」とアピール。お気に入り以外は店にも入れなさそうな雰囲気だったが、ひとまず第一関門は突破したようで、「一刀が許せば来ても良いわ」「オネダリするなら一刀にね」と許可を貰っている。自分たちの店の立地からしてジルが一人で来させるわけがないと見抜いての予防線、女は怖い。

このあと双子が次に出てくるのはだいぶ先のこと。ノベル14巻156話と、同巻「舞踏会の裏と裏々について」。リゼルたちがアスタルニアから王都に帰還して少し経ってからの話だ。
アスタルニアへの出立直前、リゼルはジルの許しを得て店に来ている。その際、二冊一組のはずの本が一冊だけ置かれていることに気づいたリゼルに「この本のもう一対は?」と訊かれ、「片割れと離れ離れは可哀想」と胸を痛めている。そしてリゼルたちが戻ってくるまでにもう一対を入手した。
彼女たちは単なる商売でモノを扱っていないようで、「ちゃんと二冊一組で大事にするので売って欲しい」と言うリゼルを「どうしようかしら」と試している。女は怖い。

彼女たちが娼館のトップを張れる一番の理由は、猫の獣人らしい気まぐれさと勘の良さから来る話術や振る舞いもあるだろう。
ジルは何しろ"女性とのふれあいを楽しめない"男だが(買うくせに)、余計なことをしないし人に危害を加える雰囲気がないからか気に入られている。このあたりの嗅覚は如何にも猫のそれらしい。
156話の舞踏会でジルに相手をさせる時点で相当気に入っているが、やはり象徴的なのは64話。このときジルは双子の話に付き合うことなく、金貨と引き換えに出された煙草を手にさっさと店を出ていったが、彼女たちはその背を見送りながらジルの内面の変化を容赦なく暴いている。昔のジルを知り、リゼルと出会ってからのジルを見て、その違いを最も敏感に感じ取っているのはおそらく彼女たちだろう。

一方で毛嫌いされているのが精鋭と、某公爵の息子である。精鋭はリゼルに開店状況の確認を頼まれて何度か店を訪れているが、あるときなど入店した瞬間に休業宣言を食らっている。精鋭の一人が、裏で娼婦をしていた貴族の娘を殺害したこともあった。こうした現実があるので、リゼルとジルは「彼らの頭であるイレヴンも気に入られてなさそうだ」と思っている。ちなみに某公爵の息子はしつこく言い寄っているようで、これまた猫に嫌われる人間の特徴だ。

このように、裏社会に生きながらも闇とは一線を引く姿勢があるからか、表にもちゃんと付き合いがある。某公爵の夫人のほうとは親しく知遇を得て可愛がられているし、パルテダの教会に奉仕する姉弟のうち姉司祭は大切な友人のようだ。姉司祭と依頼で関わりを持ったジルとリゼルに「「酷いことしちゃ嫌よ」」と釘を刺している。

「「私たちは今の貴方のほうが恐ろしいわ」」の詳細は、ジルの出自②に詳記しています。
双子さんたちはジルに何か影響を与えるわけではないのですが、かなりのことを見透かしているせいか、最初に読んだ時はエルフのように時を超えた存在と錯覚したことを覚えています。それこそ異口同音に重要な言葉を紡ぐあたり、ドラクエIIIの「レイアムランドのほこら」でラーミアの卵を守っていた、かの有名な双子の巫女のように。

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