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ショートショート「今こんな気分」

―おめでとうございます! まずは今のお気持ちをお聞かせください。

「ありがとうございます。まさか自分が、ずっと憧れていた鈴木さんと…、その、一緒になれるなんて、思ってなくて。今日こうしていることが、まだ信じられません」

私はちらっと右側を見る。ずっと眺めているだけだったその横顔。私の視線に気づいて、こちらを向く。

あぁ、私に向かって笑ってくれている、夢のようだ、と思う。

―とてもお幸せそうですね。お二人が付き合うことになったきっかけをお話いただけますか?

「はい。実はこの部署に来て割とすぐの頃から、隣のフロアに素敵な人がいるな、って思ってました。初めは関わることもなかったので、せいぜいすれ違った時に挨拶するだけでしたけど。でも、不思議と…目で追っちゃうんですよね。見ずにはいられない、というか。目で追ってるうちに、鈴木さんてやっぱり素敵な人だなって思うようになって…」

本人を前に、恋が始まった時のことを話すのはとても恥ずかしい。でも、こんな風に堂々と言える日が来たことが、それ以上にうれしい。

「でも、ある日、会社の企画で、フロア全体の懇親会―つまり、飲み会ですね―が開催されることになりました。これを機になんとか鈴木さんに近づけるといいな、と思っていたら、なんと、鈴木さんも私も、幹事になりまして…」

正確には、鈴木さんが幹事になると聞いて、後から私が立候補した。だけどそこはちょっとごまかした。

―なるほど! それは偶然というか、運命というか、チャンスというか…。

「そうなんです。普段あまり幹事やったり、何かを仕切ったりするタイプではなかったのですが、その時はがんばりました。やろうと思えば、私ってこんなに周りを見たり、テキパキ動けるんだなと(笑)。でも、鈴木さんは幹事をやる前から、私のこと『前から、しっかりしている人だと思っていた』と言ってくれて、ちょっとうれしかったです」

自分ではそうは思わないけど、鈴木さんに言われたらそんな気がしてきて、仕事でも少し自信がついた。そしたら前より成果が出るようになった。恋の力は偉大だ。

―では、その幹事をきっかけに、お二人は急接近した、ということなんですね。

「はい、事務連絡ですが頻繁にメッセージを送り合うようになって、懇親会を成功させました。終わった後に幹事グループだけで打ち上げしたり、その後も連絡とったり…あとはもう、ご想像にお任せします」

その時のことを思うと、今でもにやけてしまう。私が幹事になったのは、鈴木さんがやるって聞いたからであって、あの時思い切って手を挙げてよかったなと本当に思う。

隣を見ると、鈴木さんがいる。自分が鈴木さんの隣にいることが、やっぱり夢のようだ。本当にずっと、見ているだけだと思っていたから。

―とても素敵な話を、ありがとうございます。最後になりますが、今、どんな気分でしょうか?

良い質問だ。なんて答えるかは、もう決めている。今の私は、きっととても良い顔をしている。世界中に、ありがとう、って言いたい。

「頑張って、よかったなぁ、って。自分なんかだめだろうと思って、あきらめなくてよかったなぁ、って。思い切って行動してよかったなぁ、って、そう思います」




――――――――………よし、イメトレ完了。

何かを成し遂げるには、成功したイメージを具体的に持つことが重要だって聞いた。だから、目を閉じて、恋が実ったところを全力で想像することにした。

でも、恋がうまくいったことがあんまりなくて、「恋が実る」ってどういう状態なんだろうとあれこれ考えていたら、結果芸能人がやる結婚会見みたいなものを想像してしまった。

でも、大丈夫だ。私は目を開けた。

すれ違った時に挨拶することしかできない鈴木さんに、何とか近づきたい。

目立つことは苦手だし、近づいたところで鈴木さんがこっちを向いてくれる保障なんかない。近づこうとしなきゃよかった、と思うことだって十分に考えられる。その可能性のほうが高い。

でも、「恥ずかしい! できない!」って私がぐずぐずしている間に、他の女性に取られるほうが、ずっとずっと耐えられない。

良いイメージを持って…うん、大丈夫。それが背中を押してくれる。

私は会社のグループチャットに、

「幹事、やります」

と送信した。


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